表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界食事処『なごみ』  作者: 三条送
9/15

魔法

 木製の扉を押し開けると、そこは森の中だった。

「森にあったのか」

 なんとなくヘンゼルとグレーテルの話を思い出す。周りを森林に囲まれたなごみは本当に魔女の家然とした雰囲気をしていた。


 しかし、歩いて5分とかからずに大きな街道に出たので、そこまで辺鄙へんぴなところに店を構えている訳ではなかった。

 恭平は地図を取り出し、向かうべき方向を確認する。

「この街道を北に下った草原か」

 話によれば牛に生態が近いらしく、草食で攻撃的ではないらしい。

 歩きながら周りを見るが、異世界と言っても普通の景色だった。魔法がある、未知の生物がいると聞かされている身としては、いきなりドラゴンが襲ってくるのかと思っていたが、牧歌的な風景が続いた。


 たまにすれ違う人は、恭平の恰好を見て不審そうにはするが、銃を持っている危険人物とはみなしていない様だった。

「魔法があるから物理兵器が少ないんだっけな」

 レーナがいうには、この世界にも一応銃は存在する。恭平の所持する弾倉を取り替える自動式ではなく、銃身に火薬と鉄球を入れてから発射する先込め式。

 攻撃の要は魔法ゆえに、鉄玉を発射する道具を好んで使うのは、一部の好事家こうずかだけらしい。なので、決して一般的ではなく、しかも銃の形も違うとなれば気付かないのも無理はなかった。


「ここか」

 しばらく歩くと、だだっ広い草原があった。

 草が地面を覆い、一面緑色の上に白黒の生物が5匹ほどいた。

「アレか」

 イラスト通りのシルエット。見た目は脚の短い牛だったが角が長く、たまに立ち上がっては目の前にいる同族に、その長い角をぶつけて喧嘩をしていた。

 大きな音を出さないように慎重に近づく。恭平の持っている銃は一応狙撃もできるが、そこまで遠距離から狙えるものではない。


(俺は猟師じゃないからな。ギリギリまで近づかないと)

 ゆっくりとした動作で銃を構え、セーフティーを外してスコープをのぞく。スコープを通してより鮮明に見える牛っぽい動物は、恭平に気付くことなく草を()んでいる。

(狙うのは頭か心臓)

 呼吸を整えて引き金を絞る。


 火薬の爆発する音とともに、逃げ出す牛っぽい動物たち。しかし、その中の1頭だけが膝から崩れ落ち、身体を地面に横たえた。

 スコープから顔をあげると、肉眼でも倒れた姿を確認した。しかし、銃声によってパニックになって逃げている群れの中で1頭だけが、何を思ったのか恭平に向かって突進してきた。

 それに気づいた恭平は、素早く銃を構え引き金を引く。確実に眉間を狙って発砲したのだが、走っている事で微妙にズレて左の角に直撃した。当たった瞬間に角は折れたが、それにひるむ様子はない。 アサルトライフルは自動装填なので引き金を引けば銃弾が出る。今度こそという気概を込めてもう1度引き金を引く。


 回転する鉛玉は、今度こそ正確に命中した。絶命してもなお、前進する勢いは無くならず身体で地面をえぐっていたが、恭平の手前2メートルで止まった。

「はぁー」

 大きく溜息をついて銃を下げる。


 本来であれば、血抜きをしなければならないタイミングだ。しかし、猟師ではない恭平に血抜きの経験はない。

 このまま時間をかけて獲物を担いで帰ってしまっては、鮮度も悪くなるし確実に肉が傷みだす。なので、事前にレーナから貰った『あるもの』が役に立つ。

「本当にこんなので大丈夫なのか?」

 ポケットから取り出した1枚の紙。そこにはファンタジー溢れる魔法陣が描かれていた。

「これを、置くだけでいいんだっけ」


 横たわる身体に紙を置くと、魔法陣が光だし次第に獲物の身体を包む。その光景を眺めているうちに光が霧散し、そこにはなにも無くなった。

 それがどこに向かったのかというと、魔法陣を書いた本人の元へ、つまり店で待つレーナの所へ向かったのだ。

 それをもう一頭の方にも施して、恭平は帰路に就く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ