ビール
先ほどまで怒っていたレーナだが、ちゃんと用意をしているらしい。
「ささ身を焼いてるから、ちょっと待ってて」
それを聞いて、猫は椅子から飛び降りると恭平の後ろを通る。次に恭平の視界に映ると、猫から最初に見た女の姿になっていた。
そして、そのまま冷蔵庫に向かうと中から緑色の小瓶を両手に持って帰ってきた。
「これでも飲んでましょ?」
渡された瓶のラベルにはBeerの文字が印刷がされており、日本でよく見かけるメーカーの製品だった。
レコルンドの怪しい動きを察知したのか、レーナはささ身を焼いていた視線をあげる。
「あ、コラ! 売り物をッ!」
慌ててビールを取り上げようとしたが、それよりも早くレコルンドは自分の瓶の王冠を開け、恭平の瓶の王冠も開ける。
「もう開けちゃった」
王冠を開けてしまえば売り物にはならない。レーナは半目で睨むが、目を合わせないようにしてビールを煽る。
「ぷはーッ! やっぱりビールは最高ね」
至福の時を楽しむレコルンド。少女の姿で瓶を煽る姿は、いかがなものかとも思うが、法律が許しているのか、それとも猫年齢と人間の年齢が違うことが関係しているのかはわからないが、きっと大丈夫なのだろうと納得する。
「開けちゃったものは仕方ないですし、貴方もどうぞ」
レーナのその言葉に、恭平は礼を述べて口をつける。ビールの苦味で鳥の脂を流すと、さっぱりとした。
そうなれば焼き鳥も進む。レバーを食べると、独特なねっとり感と甘味を堪能する。そしてやはりビールが美味い。
(この組み合わせは最強だ)
焼き鳥を食べるとき、白米よりビールになったのは自分の年齢のせいだろうが、とても満足していた。
次に手に取ったのは軟骨。軟骨のコリコリとした歯ごたえが楽しい。軟骨自体には味はなく、振られている塩だけでは寂しい。しかし、軟骨に少しだけ付いている肉がしっかりとした味に変わる。
そして、これもまたビールにとてつもなく合う。
最後はつくね。ホワホワとした柔らかさと、ショウガの風味が口に広がる。恭平のつくねに関してのこだわりは、タレのつくねに卵の黄身を付けて食べるのも捨てがたいが、食材の味や風味を最大限に引き立たせる塩に軍配が上がっている。
恭平が焼き鳥を堪能していると、レコルンドのささ身が焼きあがったらしい。
「はい、ささ身」
受け取ったレコルンドは、すぐさま串を持って齧る。
猫舌なのか、少しのあいだ悶絶していたが、何とか飲み込んでビールも飲む。
「はぁ。美味しかった」
そして彼女の視線は恭平の皿に移っていた。それこそ猫を思わせるような目で狙いを定めていたが、行動に移す前に声がかかった。
「やめなさい」
カウンターからの注意とともに渡された軟骨とつくね。それを喜んで受け取ると、レコルンドは夢中で食べ始めた。
その光景を見ながらビールを飲んでいた恭平だったが、ふいに口を開いた。
「なぁ、どうせここを出たら夢だと割り切るんだ。だから、なんで俺がここに連れてこられたのか話してくれないか?」
ビールくらいで酔う事はないが、酔ったことにして話を振ってみた。