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異世界食事処『なごみ』  作者: 三条送
5/15

焼き鳥

 不可解な出来事には変わらないが、一先ず危険ではないと感じ肩の力を抜く。

「ご迷惑をおかけしたことは謝ります。ですが、何も聞かずに来た道を使って戻ってください。そして今貴方が見ているものは夢だと思って忘れてください」

 そこまで言われてしまえば帰るしかないが、1つ重要なことを思い出した。


(あれ、今戻ったら迫撃砲に晒されるんじゃないか?)

 そのせいで此処まで来たのだ。戻った瞬間に目の前で爆発なんてされれば、一溜まりもない。

「戻ることはするが、少しの間ここにいさせてくれないだろうか?」

 と、事情を説明した。


 事情を聞いた女性は、それに了承する。

「わかりました。では、お詫びもかねて食事を用意しますので食べていってください」

「いや、そこまでしてもらう必要はない。迫撃砲だって無限じゃない。5分か10分で打ち尽くすはずだ」

 安全になるまでの居させてもらえれば良いので、そこまで気を使われると逆に申し訳ない。

「せっかくですから。それにここは『なごみ』という食事処なんです。ちょうど新作を作ったところなんで、食べてもらえませんか?」

 朝からの戦闘で、空腹であることには違いない恭平。食欲という欲求には勝てず、担いでいた銃を壁に立てかけ、着ていたタクティカルベストを脱いで左の椅子に置くと自身もカウンター席に着いた。


「ちょっと待っててくださいね」

 レーナ・コレインと名乗った女性は、カウンター内の調理スペースで料理を始めた。

 大型の冷蔵庫から取り出された銀色のトレー。その中身は1口大の肉が複数個、串に刺さったものだった。

(焼き鳥、か?)


 1年ほど日本に帰っていないので、焼き鳥だとすれば懐かしい味だ。ただ、肉類を串に刺して焼く料理は世界中にあるポピュラーな調理法なので断言はできなかった。

 串に均等に塩を振り、焼き始める。

 最初は特に匂いも無かったが、だんだんと香ばしい香りが立ち始めた。

 その匂いに釣られてか、恭平をここに連れてきた張本人、レコルンドと呼ばれた黒猫が戻ってきた。


「アタシの分は?」

カウンターの椅子に座りながら聞く。

「ささ身を取ってあるから後で焼いてあげる」

その言葉に満足したのか、レコルンドは尻尾を揺らしながら恭平を見た。

「帰ってないってことは、ここで働くことになった?」

 可笑しな場所に連れてこられ、人が猫になり、そしてその猫が喋っている光景は気絶するに等しい衝撃なのだが、務めて冷静に答える。


「いや、そういう話にはなってない」

 猫と会話をする行為が既に変人の領域だが、無視することもできない。

「この方には、これを食べてから帰っていただきます。どうぞ、【焼き鳥】です」

 そう言いながら差し出された焼き鳥。種類は【ねぎま】【レバー】【軟骨】【つくね】の4本で全て塩だった。


 焼きたて特有の、皮がプツプツと弾け脂が滴る光景。そして焦げ目と湯気が一気に食欲を高める。この場所の事や喋る猫などの気になる事を考えれば、この焼き鳥も疑うべきなのだが、目の前の誘惑は全てを忘れさせた。当然、冷めるまで待つつもりもないので、ねぎまの串を取る。

「いただきます」


 熱々の肉を1口かじる。それを奥歯で噛むと、溢れだす肉汁と脂が口内を満たした。肉自体の弾力も素晴らしく、噛み応えが有りながらも不愉快な硬さではない。

 ネギもシャキッパリッとした触感は失われておらず、中心部分のトロリとした甘さと鳥の脂と塩とが混ざる事で最高の1串に仕上がった。


「美味い。久しぶりに食べる焼き鳥は美味いな」

 1年ぶりに食べる日本食に感動を覚える恭平。海外の食事、特に戦場で食べる食事など、当たりといえる食事に出会う確率は限りなく低い。生きるために仕方なく食べるが、お代わりなどをしているのは味など関係ない、脳味噌まで筋肉でできている連中だけだった。

恭平の感想を聞いて満足そうに頷く女性。


「美味しいなら良かったです」

「アタシのはぁ?」

 レコルンドは前足をカウンターに乗せ尻尾を揺らす。


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