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日が昇れば、また傭兵としての仕事が待っている。その日も銃を抱えて駆けずり回っていると、不思議な物を見た。
「何だあれ?」
建物と建物の間の路地。そこに1人の少女が立っていた。武装はしていないので民間人だろうが、今は戦場となっているので普通は家の中に籠り震えているものなのだが、何故このタイミングで外にいるのだろうかと疑問に思った。
よく見れば服装だって可笑しい。黒のスカートに黒のニットという、この地域では見ないものであるので、戦場専門のジャーナリストかとも思ったがカメラも持っていないし、そんな雰囲気でもない。
「おい、アンタ旅行者か!? 死にたくなければどっかの建物に入れ!!」
路地の少女に叫ぶが、言葉が通じていないのか一向に動かない。
戦場で誰か1人に構い過ぎるのは、隙を見せているのと変わらないのだが、目の前で民間人が死ぬのは寝覚めが悪い。
仕方なく女の子に近づき、腕をとって一先ず路地に入る。
「ここが戦地だってわかってねーのか?」
言葉が通じないとしても、取り合えず怒っておく。
だが、少女から帰ってきたのは戸惑いや困惑ではなく微笑みだった。
「優しいのね」
戦場に似合わない言葉と表情。それは、恭平の足を止めるのに十分だった。
「お前、何者だ」
手を放し銃を向ける。子供相手に銃を向けるのは後ろめたいが、彼女は味方や一般人では無く少年兵という可能性もある。言葉が通じなかったのではなく、あえて無視したということは、何かしらの悪意を持っている敵であろうと判断した。
まんまとハメられた事を呪いながら、自分に銃弾がめり込むことを覚悟した。だが何時まで経っても銃弾の一発も降ってこない。
「?」
遊ばれているのかとも思ったが違う。目の前の少女は変わらずに微笑んでいる。
「アタシは敵じゃないわ。貴方、日本人よね?」
「……そうだが」
意味不明な質問だが、一応答える。
「こんな所で戦ってるんだから強いわよね?」
「何が言いたい」
要領が掴めない事ばかりで、どうしようもないと判断した恭平はその場を後にすることにした。
「別に揶揄ってる訳じゃないの。貴方、戦争なんて辞めてアタシたちの所で働かない?」
いきなり何を言い出すかと思えば、スカウトが始まった。
「随分と急な話だな。戦争屋を辞めて何になるんだ。マフィアか? それともギャングか?」
冗談だと思っている恭平に対し、少女は首を横に振る。
「いいえ、貴方にしてほしい仕事は、【調達】です」
それこそ本当に意味が解らない。戦闘員である恭平に何を調達して来いというのか。銃や爆弾などは、この国や近郊でなら金さえ払えば誰にでも買える代物だ。まさか危険な薬物を仕入れろと言っているのだろうか。と考えて拒否を選んだ。
「悪いが他をあたってくれ。ヤバいものを調達するのは専門家に依頼しな」
それで終わりのはずだったが、彼女は諦めていないらしい。
「どうしても貴方の力が必要なの。じゃないと、あの子がいずれ死んでしまうから」
今までの余裕の笑みは消え去り、代わりに悲痛に染まる表情が出てきた。
「あの子は自分一人で何でもこなそうとするから、無茶と知っていても挑むの。毎日毎日、傷を作って帰ってくる。成果があれば良いけど、ない日もある。だから、強い貴方に調達してほしいの。アタシでよければ囮でも何でも協力するからッ! だからッ!!」
目には涙が浮かび、すがるように恭平の腕を掴んで離さない。必死に懇願するその姿は、今までの微笑みなどが無理をしていた姿なのだと、ありありと伝わってしっまた。
恭平は暫く考え、
「取り合えず話は聞く。もし話を聞いて、俺よりも適任の組織を思いつけば紹介もするし、できる限りの事も協力する。それで良いか?」
精一杯の条件を提示すると、少女は納得して頷いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。