威嚇
地面を弾みながら転がり、3メートルほどで止まった。一瞬、最悪の事態も過ったが小さく呻いていることから、息はあるだろうが骨折や脱臼は確実だろう。
何かのきっかけにドラゴンが飛んで帰ってくれないかと期待したが、そんな素振りは微塵も見せずに喉の奥を低く鳴らして威嚇をしてくる。
地面に倒れている女性も安全とは言えない。怪我の個所によっては命の危機にも繋がる。
恭平は、逃走を諦めて戦闘態勢に移行する。
「流石に目の前で死なれたら寝覚めが悪い」
小さくつぶやいて銃のセーフティーを外す。流石に顔面に向けて全弾をぶち込めば倒せるはずだと照準を定める。
ドラゴンは4つんばいの姿勢で恭平を見つめている。その眉間にめがけて引き金を1度引く。発射された弾丸は、吸い込まれるように眉間に到達したが、その場でひしゃげた。
(!? 小経口の5.56ミリ弾つっても、数ミリの鉄板なら貫通するんだぞ)
それよりも硬い鱗なのかと困惑した。一方ドラゴンの方も、やられてばかりではない。右の前足を持ち上げ恭平に向けて振るう。
上から掌で押しつぶす。掌でなくとも爪が少しでも当たればダメージはデカい。絶対に躱さなければならない1撃を、後ろに退くのではなく前方に飛び込んで回避する。
チラリと前足が落ちた場所を見ると、足は地面にめり込みクレーターができている。
そんなものを手足に喰らえば骨が折れる。身体に喰らえば内臓がただでは済まないだろう。
(クソっ)
一瞬、自分がぐちゃぐちゃに潰されたイメージをしてしまった事を後悔し、もう一度引き金を引く。肩に当たったものの、やはり貫通どころかダメージもない風だった。
このままではジリ貧だと覚悟したとき、何故かドラゴンが羽ばたきだした。これは逃げるのか、それとも上からの攻撃に切り替えたのかはわからない。逃げるはずだ、という希望は持てない。どうなるかわからない以上、相手を飛ばさせるわけにはいかない。
鱗は貫通しなかったが、蝙蝠を思わせる翼の翼膜はどうだろうか。羽ばたく際の風圧に耐えながら翼膜を撃つ。すると、何事もないように貫通した。
「流石に全部が硬いわけじゃ無いよな」
安心を覚える恭平に反し、翼膜に穴が空いたことで飛べなくなったドラゴンは慌てていた。中途半端に飛ぼうと前足を上げていたのが災いし、バランスを崩して地面に叩きつけられた。しかも自らの意思での着地ではなく不時着をしたことで、顎を地面にぶつけ、その衝撃で軽い脳震盪を起こしているようだった。
意識を失っているわけではない。しかし、次の攻撃の意思とは裏腹に身体が言うことを聞かないようで、微かにもがいては転ぶ事を繰り返していた。