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異世界食事処『なごみ』  作者: 三条送
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ヨウヘイ

この作品は、アルファポリスにも掲載しています。


 その店は、今日も大変な賑わいだった。

「レーナちゃん。こっちに焼酎の水割りもらえる?」

「店長さん。焼きそばください」


 などなど、客が食べたいものを注文すると、調理場にいる女性、レーナが笑顔で答える。

「水割りと焼きそばですね。少々お待ちください。レコルンド、水割りの方お願いね」

「はーい」


 レコルンドと呼ばれた女性も給仕をしながら返事をした。

 そしてレーナは、冷蔵庫からバラ肉とキャベツやピーマン、ニンジンなどの野菜を取り出してフライパンで炒め始める。肉と野菜に火が通ったら麺を入れ、同じタイミングで水も少し入れてすぐに蓋をした。こうすることで麺を蒸らしてモチモチの触感にする。 


 数分間の蒸らしを終えると、いよいよ最終工程。

 微かに甘く、それでいて複数のスパイスが複雑に調合された、焼きそば用のソースを回しかける。すると熱いフライパンの上で煙を立てながら弾け、少し焦げた甘辛いソースの香りが客たちの食欲を刺激する。白い麺がだんだんと茶色に染まり全体に馴染んだら完成。

 皿に盛り付けて、上から青のりを振り掛け紅ショウガを沿えると、注文した客の前に出す。

「お待たせしました。焼きそばです」


 立ち上る湯気。茶色い麺と肉の中に光る緑やオレンジの野菜。添えられた紅ショウガなどが視覚にも楽しい。

 客は、出された焼きそばを受け取ると、すぐに食べ始めた。わざわざ焼きそばが冷めるのを待つ必要はない。


 1口食べると、ソースの香りに世界が染まる。

  何も考えず、ただ目の前にある麺を食べる事にだけ集中する。ソースの味が付いた野菜も肉も麺も、どれもが美味い。

 少しだけ紅ショウガを混ぜて食べると、ショウガのサッパリとした辛味が加わり、別の美味しさが訪れる。


 そんな匂いと光景を見せられれば、誰もが自分も食べたくなるのが人情だろう。

 結果的に追加で2,3人が焼きそばを注文していた。


                         ◆◆◆



 その日も朝から快晴だった。太陽の光が降り注ぎ、同時に銃弾も降り注いでいた。

 迷彩服に身を包み、防弾ベストとマガジンポーチ。それと愛用の銃を持って走っているアジア人の男。それに追いつく形で現れた南米風の男が話しかける。


「おいヨウヘイ。第4地区がヤバそうだ」

「ヨウヘイじゃない恭平(きょうへい)だ」


「日本語で雇われた兵士は傭兵(ようへい)なんだろ? お前が教えてくれたんじゃないか」

 恭平と同じく傭兵を生業にしているカルロスが笑う。


 眞田(さなだ)恭平(きょうへい)は、様々な戦場でフリーランスの傭兵として働く男だった。生まれてから孤児として親の顔など知らずに日本で暮らし、成人を期に海外に渡ってあれよあれよという間に傭兵稼業に着いた。


 戦争が始まる気配を感じれば、その国に渡って金払いの良さそうな方に自分を売って戦闘に参加する。

 たまに日本に帰国するが、平和すぎる日本では食事が美味しいことくらいしか思うことがなく、すぐに海外に向かう生活をしていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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