幼馴染の悩み(4)
次の休日を前にして、俺はすっかり困っていた。前世まで含めても、女の子とデートした経験なんて一度もないので、どうやってデートをリードしたらいいのか全く分からないのだ。
確かにユキとのデートは試合のカンニングの手助けをした見返りに1日恋人のふりをしてもらうだけの愛のないデートだけど、ここで好感度を稼げたら2回目3回目のチャンスも出てくるかもしれないし、ひょっとしたらなし崩しで本当に付き合うことがあるかもしれない。
だから、できるだけイイ感じのデートプランを作りたいんだけど、女ってのは何をしたら喜ぶんだ? 俺だったらゲーセンでゲームしてカラオケして焼肉食ってビールを飲んだら大体満足なんだけど、さすがにデートでそれをしたら引くよなぁ。
悪いことに、こんな時頼りになるはずの「全知書庫」が、今回は全く役に立たなかった。「全知書庫」は客観的に正解が決まる問題でないと答えを教えてくれないので、こういう人の気持ちが問われるような問題には無力だったのだ。
困ったと思った俺は、仕方がないのでヘルプを求めることにした。と言っても、ヘルプを求めることができるような相手なんてほとんどいないわけで、悩んだ俺は普段なら絶対話しかけないやつに頼らざるをえないという結論になった。
「リカ、ちょっといいか?」
軽くノックして声を掛けてからリカの部屋のドアを開けると、いきなり枕が飛んできて顔面に直撃した。
「ぶはっ」
「か、か、か、勝手に入ってくんな、この変態兄貴ぃ!」
「ノックしたじゃん」
「うるさい! ちょっと外、出てて!!」
枕だけじゃなく、本や目覚まし時計まで飛んできたので、慌てて外に逃げ出した。それから部屋の中でバタバタという音が聞こえて、ようやくドアが開いた。
顔だけ覗かせたリカはどうも外行きの服に着替えたみたいだ。ちょうどこれから出かけるところだったのだろうか? 予定を邪魔して機嫌が悪いのなら簡潔に要件を済ませるほうがいいに違いない。
「あのさ、リカはデートに行くならどこがいいと思う?」
「でっ、でで、で、デートぉっっっ!?」
極めて簡潔に要件を言ったつもりだったが、リカは急にさっきよりもさらに大声を上げて部屋から飛び出してきた。しまった。何か変な逆鱗に触れてしまったのだろうか。
「えっ、いっ、いつ? 今? いまっ?!」
「いや、今度、ユキとデートすることになったんだけど、どこに行けばいいか分からなくて、あ、ユキって知ってる? 昔、近所で……」
「な、何なのよっ! 知ってるわよっ! いや、いや。待って、待って。どうして?」
「なんか、ユキが困ってたから助けたら、お礼にデートしてくれるってことになってさ」
「なんで兄貴が私に無断でそんなことしてんのよっ!!!」
そう言って、リカは俺をいきなり両手で突き飛ばしたので、俺はたまらず尻餅をついた。そして、リカは一旦部屋に入ったかと思うと、ぬいぐるみをたくさん両手に抱えて出てきて、次々と手に取って投げつけてきた。中身が綿じゃなく安物の木片なので、全力でぶつけられると痛い。
「ちょ、痛、やめ、待って、痛ーっ」
こんな調子でダメもとで頼りにしてみた妹だったが、結局頼りにはならなかった。
他に頼れそうな人はと考えて、あまり頼れそうにはないけれど一応話は聞いてくれそうなやつの顔を一人思い出した。タスク=ギョームという、俺みたいな嫌われ者とも分け隔てなく付き合ってくれる珍しい男だ。
タスクは、俺の家と同じくらいの貧乏騎士にもかかわらず子沢山なせいで余計に貧乏な家の生まれだった。その上、3男であるためすでに家を継げないことが確定していたため、兵士になるのは初めから諦めてハンターとなることを目指している、ちょっと変わった奴だ。それが理由で俺とは違う意味で一部の学生からは嫌われているのだが、俺とは違ってネアカなのでそんなことを気にする素振りも見せることはなかった。
ただ、話を聞いてくれたとしても、俺と同じく女には全く縁のない奴だからこういうことで頼りになるかは未知数だ。
「あー、俺に何を期待してるんだ?」
ダメもとで聞いてみたけれど、やっぱり駄目だった。なおもしつこく聞いていると、「あんなに可愛い妹がいて、なおかつ彼女だと? 絶対、殺す」と逆ギレされたので、これ以上話しても無駄だろう。
大体、「可愛い妹」ってリカのことを言っているのなら、それは見た目に騙されているだけだと強く主張したい。
万策尽きて(と言ってもたった二策だけど)俺が自室でああでもないこうでもないと無い知恵を搾っていると、突然ノックもなしに部屋のドアが開いた。
「うーあーうるさいのよ、キモ兄貴っ!」
ドアを開けたのはリカだった。リカはいきなり暴言を吐くと、俺に向けて何かを力いっぱい投げつけてきた。そして、それが俺の顔面に直撃したのを見て、またドアをバタンと閉めてすぐに行ってしまった。何なんだ、あいつは!
ぶつけられた物を片付けようと手に取ると、それはよくある街歩き雑誌だった。デートスポットに使えそうなレストランやアトラクションやイベントなんかがまとめられている本で、俺も一度本屋で手に取ってチェックしたが、見ても結局どれがいいのかさっぱり分からなかったのでそっと本棚に戻しただけだった。
こんなものを今更見ても、と思いながらパラパラとページをめくってみると、ところどころに付箋が貼ってあって「オススメ♡」などの書き込みがしてあった。もしかするとこれは、リカが自分用に書き込んでいたメモなのじゃないだろうか。
なんか盗み見するようで気が引けるけれど、もともと俺にぶつけてきたものなんだから文句はないだろ、ということで、これ幸いと、今度のユキとのデートにはリカのメモを元に計画を立てることにした。
そしてデート当日、待ち合わせの噴水前に時間よりも15分は早く着いたにも関わらず、ユキは既に噴水前に立って待っていた。しかも、ユキの私服を何年かぶりに見たけどすごく可愛い。見た瞬間に心臓がドキンと跳ねてしまった。
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫。今来たとこ」
ヤバい。漫画の中でしか見たことがないセリフを言っちゃったよ。これで大人の階段を半歩くらいは登ったと言っていいんじゃないか?
「そ、そっか。じゃあ、行こうか」
「ど、どこに行くの?」
リカのメモを元に立てた最初の予定は観劇だった。前世なら映画鑑賞というところだ。映画と言えばアニメしか見たことがないので、観劇といっても何を見ればいいのかなんてさっぱり分からないから、オススメの付箋のあったものをそのまま選んでみた。
「へー。レンがこういうのを見るなんて意外ね」
「あ、いや、まあたまにはこういうのもいいかなって。変かな」
「いや、案外センスいいなって」
「お、おう」
俺が選んだわけじゃないのに褒められて微妙にくすぐったいような後ろめたいような。そんなことを言ったらこのデート自体がユキの弱みに付け込んだわけだから後ろめたいんだけど。
「じゃ、行こ」
そう言っていきなりユキは俺と腕を組んで劇場へと歩き始めた。いきなりのスキンシップにどぎまぎしていると、ユキは余計に腕に力を入れていたずらっぽく歯を見せてきた。
胸が、胸が腕に当たってる! 柔らかくて、やばい……! 鼻血出そう……
「ほら、早く」
「ひ、引っ張んなよ」
返事だけは威勢よく返してみたものの、ユキの先制攻撃でノックダウン寸前だった俺は、劇を見ている間に何とか態勢を立て直して、立場を逆転させないとと焦るのだった。




