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幼馴染の悩み(3)

「疾風烈火!」

「疾風烈火!」


 初手は2人とも疾風烈火の撃ち合いとなった。疾風烈火とは火球を疾風を伴わせて飛ばす魔法で、中距離攻撃と小範囲防御の効果を持つ攻守両面に使い勝手の良い魔術であるため広く好まれる魔術だ。初手としては極めてオーソドックスな立ち上がりと言える。


「(左脇構え、右前方に瞬脚)」

「瞬脚」


 ユキは剣を左横に構え、魔術「瞬脚」を使った。瞬脚は短距離の高速機動の魔術だ。戦闘時の間合いを高速に移動するのに多用される。これでユキは疾風烈火の火球がぶつかり合った残滓を剣で切り裂くようにトーマの左前に飛び出したのだ。


 この飛び出しはトーマからは見えない。疾風烈火の火球はぶつかり合うとその場で燃え上がって消滅するが、その瞬間、前方の視界を塞ぐからだ。これは逆にトーマの姿もユキからは見えないということで、ここでお互いに次の手をどう準備するかで試合が変化するのだ。


「石礫拳打!」


 対するトーマは拳大の石礫をぶつける魔術を使った。この魔術は貫通力があり疾風烈火の火球を貫通する。ユキがあのまま立っていたら石礫が直撃していたが、脇で観戦する俺からはその狙いは丸見えなのだから奇襲にはなりえない。


 逆に、トーマにとってはユキの飛び出しは予想外だったため対応が遅れた。


「なっ」

「くらえっ」


 ユキは隙だらけのトーマに対し、低い軌道で横なぎの一撃を放った。右に剣を持ち、左に小型の盾を付ける標準装備では、前に出した左足が一番防御のしにくい急所となっていて、ユキはそこを狙ったのだ。


 トーマは慌てて左足を引くが、間に合わず脛を強かに模擬剣で叩かれた。練習用の防具越しであるが衝撃が伝わり脚が痺れた。実戦なら脛に深手を負っていてもおかしくない一撃だ。


 しかし、審判役の生徒は試合を止めなかった。審判はトーマに肩入れしているので、このくらいの一撃では試合を止めたりはしない。聞かれれば、防具越しでは有効打と認められないとでも言うだろう。それを分かっている俺はすでに追撃の指示を出していた。


「(閃光)」

「こっ、金剛無通」

「閃光!」


 追撃を警戒したトーマは物理魔術両対応の防御魔術である金剛無通を使った。が、これは明らかな悪手で、ユキの至近距離からの閃光で視界を奪われてしまった。


「くっ、目がっ!」


 思わずトーマは剣を取り落とし、ユキはそれを素早く蹴り飛ばして武器を奪った。これでユキの勝ちだ。


「(止めだっ)」

「私の勝ちよ!」

「(何してる、早く止めを!)」


 俺の指示を無視して、ユキはトーマに剣を向けて勝ちを宣言した。一方的な試合に興奮しているみたいで、俺の声が頭に入っていないようだ。これでトーマが負けを認めれば試合終了だが、俺の目に映る正解は降参を待たずに止めを刺すようにと示し続けていた。


 嫌な予感がする。


「降参しなさい」

「(ユキ!!)」


 すると、俺の目に映る正解が突如変化した。それを見た俺は一瞬躊躇したが、即座に腹を括り、現れた正解手を実行した。ユキを勝たせるというのが、俺の約束だったからだ。


 ほぼ同時に、トーマは憤怒の表情で隠し持っていた宝玉を取り出した。それは昨日、俺に対して使った実戦用の宝玉だった。このバカはまだそんなものを持ち歩いていたのだ。審判役の生徒は驚いた様子だったが、止める気配はない。トーマはためらうことなく宝玉をユキに向けて魔術の詠唱を始めた。


「疾風れ……!!」


 その瞬間、まるでトーマが宝玉を掲げる位置を予測していたかのように、ユキが剣を振り下ろした。いや、俺が(・・)振り下ろした。


 チート能力「交魂換魄(替え玉)」は、対象の人物と意識を交換するスキルだ。つまり、俺の意識が対象の身体の中に入り、俺の意のままに対象の身体を操れる、すなわち、俺が対象の身体を使って対象に成り代わって試合をすることができるということだ。いわば、究極の替え玉受験。


 このスキルの重要な点は、固有スキルや知識は俺の意識の支配下にあるが、剣技や魔術などは身体の方に付随するということだ。この制限は良し悪しだと思うけれど、今の状況では完璧に機能した。つまり、俺がユキにこのスキルを使えば、俺のチート能力にユキの剣技と魔術がプラスされるのだ。


 トーマが実戦用宝玉を取り出す直前に「全知書庫(カンペ)」が示したのは、「交魂換魄(替え玉)」をユキに対して発動し、ユキの身体を操って指示されたところに向けて手に持った剣を真っ直ぐに振り下ろすことだった。


 剣はトーマの掲げた宝玉に吸い込まれるように直撃し、宝玉は真っ二つに叩き割られた。


「え? ああーーーーーーっ!!」


 トーマの叫び声を聞きながら、俺は「交魂換魄(替え玉)」を解除して自分の身体に戻った。ユキは突然目の前で叫び始めた対戦相手の様子に驚いて困惑している。


 混乱した状況でユキもトーマも試合どころの騒ぎではなくなってしまった。混乱を収拾するには審判役の生徒が試合終了を宣言しなければいけないところであったが、その審判も右往左往するばかりだ。さすがに騒ぎに気付いた先生が駆けつけてきて、ようやく試合は中断となった。


 聞き取りの結果、試合はユキの勝利となり、トーマは持ち込みが禁止のはずの実戦用の宝玉について詳しい話を聞くために連れて行かれた。これでトーマの悪行も少しは明るみになればいい。


 それにしても、あの実戦用の宝玉はもう修理もできないのではないかと思う。宝玉は高価で練習用でも10万₲、実戦用なら少なくとも100万₲はするという代物だ。地球とは物価に差があるので一概には言えないが、大体1₲=1円を目安にしていいと思う。


 とにかく、そんな高価なものをどこから持ってきて、壊した言い訳をどうするつもりなのか、むしろそっちの方が個人的には見物だと思う。男爵家の経済力が試されるね。ざまあみろというものだ。


「やった。勝ったよ!」


 ユキは勝利が決まってから、試合場から駆け下りて俺の方に走ってきた。機嫌がいいせいかぴょんぴょん跳ねているので、勢いで胸もバインバインと揺れてすごいことになっていた。やばい。鼻血出そう。


「お、おめでとう、ユキ」


 俺のそばまで駆け寄ると自然な流れで俺の手を握り、ぶんぶんと振り回したかと思うと、友達の姿を見つけたらしくすぐにそちらの方に走り出した。手を振っている時も胸が揺れていた。


「あ、ユキ」

「ん?」

「(や、約束、忘れんなよ)」

「(わ、分かってるわよ)」


 試合の後でユキと交わした会話はそれだけだ。向こうの方でユキが友達に俺のことについて聞かれているみたいだが、ユキは適当にごまかしていた。固有スキルの使用はOKでも、試合中の助言はカンニングになるから、人に公言するわけにはいかない。


「おい、最後のやつ、あれ、狙ったのか?」


 ユキと別れて歩き出すと、試合を観戦していた生徒の話し声が聞こえてきた。どうやら、最後に剣で宝玉を叩き割った時のことを話しているようだ。


「いや、偶然だろ」

「だよな。いくら何でも、宝玉を出した瞬間を狙って剣を当てるのは不可能だからな」

「あれはトーマの運がなかったんだよ。ま、普段の行いがあれじゃ、いつ罰が当たっても仕方ないかもな」


 結局2人は宝玉が割れたのは偶然だという結論になったみたいだけど、あの時のアレは完全に宝玉を狙った攻撃だったんだよ。

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