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幼馴染の悩み(2)

「でも、助けるには1つ条件があるんだよね」

「うん。どんな条件?」


 俺の鼓動は音が聞こえるんじゃないかと思うほど高鳴った。前世でも今世でもこんなことを女の子にいうのは初めてのことだ。


「こ、今度の週末、俺と1日、で、デートしてくれたら、手を貸してやるよ」


 俺が言うと、ユキはびっくりしたような顔で俺を見た。そして、次第に怒った様子で俺を睨んできた。


「……最低」


 まあ、そうだろうなと俺も思った。人の弱みに付け込んでデートを強要するとか、クズのやることだと思う。でも、どうせ俺みたいなやつはこうでもしなければ女の子とデートする機会なんて一生訪れることなんてないのだ。だったらもう開き直ってしまえ。


「それも、形だけじゃなくて、きちんとおめかしして1日は恋人同然に振舞ってくれよな」


 一言言ってしまったら肝が据わってさらにそんな厚顔な要求まで付け加えてしまった。これじゃまるで特殊な風俗みたいだ。幼馴染の女の子に何をやらせようとしているんだと自己嫌悪に陥るが、もう言葉は口から出てしまった。


 当然、ユキにはこんな破廉恥な申し出はきっぱりと断られるだろうと思った。そして、もう二度と目も合わせてもらえないに違いない。残念ながらユキはトーマに試合で負け、学校を去ることになるのだ。そうすれば、もう関係修復のきっかけは永遠に失われる……。


「……、分かったわ」


 だから、ユキがその言葉を口にした時、俺は何を言っているのか理解できなかった。


「え?」

「1日恋人としてデートすればいいんでしょ。そのくらい……か、構わないわよ」


 ユキは顔を紅潮しながら、怒った様子の表情のまま何ということもないと言うように胸を張ってみせた。俺は、弾みで胸が揺れたのに目を取られたことを悟られないように思わず目を反らした。


「デートの時はその怒った顔はやめろよな」

「別に怒ってないわよ! それより、そこまで言ったからには勝算があるんでしょうね」

「(もちろん)」


 ここで、俺はチート能力の一つの「念話(ひそひそ話)」を使った。これを使うと指定した相手とだけ声に出さないでテレパシーのように会話をすることができる。実はこれまでに使ったことがないので、上手くいくかドキドキしていた。


「!? 何これ? どこからしゃべってるの?」

「(声を出さないで会話する技だよ。ユキもやってみな)」

「えっと……(これでいいの?)」

「(うん。できてる)」


 使い方は簡単で、俺の方から念話に入れる人を指定して開始するだけで、相手側の承認はいらない。話す時は、ひそひそ話の音量を最低まで下げるイメージで、声帯を動かさないようにしながら声を出そうとすればいい。意識しないと伝わらないので、考えていることがだだ漏れになるというわけではなかった。


「(これって、魔術?)」

「(いや、固有スキルだ)」


 俺はポケットから練習用宝玉を取り出して見せながら言った。宝玉は魔術が発動していないことを示す青色をしていた。


「(固有スキルって、千人に一人くらいしか持たないっていう、あの固有スキル!?)」

「(そうだよ)」

「(そんなの持ってたの?)」

「(うん)」

「(そんなこと聞いてないよ)」

「(言ってないからね)」


 固有スキルというのは個人毎に先天的に持つ特殊能力のことで、ユキの言うようにレアなものだけれども未知という程のものではなく一般にもその存在は知られていた。また、必ずしも有用なスキルとは限らないため、保持者であるだけで特に大きく評価されるというようなことはなかった。


 もっとも、俺が固有スキルのことを人に言わないのは、俺の座学の成績が固有スキルのためだということを知られたくないという、もっと打算的な理由からだ。なので、ユキにも教えるのは「念話(ひそひそ話)」の能力だけにするつもりだ。


「(これなら誰にも聞かれないし、離れていてもはっきり聞こえるから、これで試合中、俺がアドバイスするよ)」

「(え、レンのアドバイスか……)」

「(俺は剣技や魔術の実技は苦手だけど、戦術や先読みは1位だぞ)」


 騎士学校の目的は戦いに強い兵士を作ることであるので、単に剣技や魔術の腕を磨くだけでなく、対人、対魔物の戦闘を有利に運ぶための戦術や先読みなどの座学寄りの実技も行っている。俺が唯一得意な実技の授業だ。


「(それに俺は試合でもしぶとい)」

「(まあ、それは確かに)」


 俺は確かに試合では勝てないのだが、かと言ってあっさり負けるわけでもないのだ。最善手で守り続けるのだから簡単には負けることはなく、きっちり追い詰めるか余程の実力差があるかでないと簡単には勝ちきれないからだ。


「(安心して。絶対に勝たせてやるよ)」


 そう言って、俺はユキに断言した。何せ俺には「全知書庫(カンペ)」があるのだ。剣技や魔術のハンデがなくなれば、負けるはずがない。




 そして午後、試合の時間、俺はユキの観戦席にいた。昨日の怪我で試合は見学となっているため、自由に好きな試合を見ることができるのだ。偶然だがユキのフォローには都合がよかった。


「お前、この試合に負けたら落第らしいな」


 誰から聞いたのか、トーマはユキの窮状を知っていたようだ。観戦席を見るとユキに好意的には思えない女子が何人か集まっていたので、あの中の誰かがトーマに吹き込んだのかもしれない。


「ここはエリートのための学校だ。お前みたいな落ちこぼれの座る席などない。そこのカンニング野郎と何を企もうがな」


 そう言ってトーマは観戦席の俺の方を指差した。どうやら昼休みにユキが俺と会っていたこともバレているようだ。これはユキの今後の学校生活は面倒なことになりそうだな、と思ったところで、その後俺とデートをするんだからそれどころではないことを思い出した。


「(ユキ、大丈夫。絶対に負けない)」

「(信じてるからね)」


 女の子に信じてると言われてやる気にならない男がいるだろうか?


 しかもトーマには昨日の一戦の恨みがある。この一戦、絶対にユキに勝たせて、ユキの落第阻止&リベンジ&ユキと初デートと行きたいところだ。


 ユキは緊張で若干手を震わせながら、練習用の模擬剣のつかに練習用の宝玉のアタッチメントを装着して念入りに固定した。魔術発動のための宝玉は単体で装備することもあるが、こうやって剣や盾に装着して使うことも多い。


 トーマの方は宝玉が一体型の剣を使っているので、ユキの準備をバカにした様子で待っていた。一体型の装備は宝玉の使い回しができないので余分な費用が掛かるのだが、その分デザインに優れるし使用中に宝玉が外れる心配がないという、要するに金持ち仕様の装備なのだ。


「いいわよ」


 ユキの準備が整って、トーマとユキが位置に付き、審判役の生徒が2人に確認を取った。トーマはすでに準備完了、ユキが審判に一言伝えて、2人の準備が整った。


「始め!」

「(正面、疾風烈火)」

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