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特訓の日々(5)

「おかしい。レンと2人きりで来るはずだったのに」

「どうした?」

「ううん。何でもない」


 無印ダンジョンの小屋に着いた時、ユキが一瞬変な顔をしていたような気がしたけれど、気のせいだったみたいだ。


 リカの試験から数日後、俺たちは装備を整えて4人で無印ダンジョンの小屋を訪れていた。カレンお嬢様と来るときは公爵家の家紋付きの魔動車で来たが、今回はハンターズギルドでダンジョンの入り口まで有料の送迎を雇った。


 ダンジョンでハンティングをするには、チームに最低1人はDランクのハンターが必要だけど、今回は俺がその役割となっている。この役目は、これまではガリソンが代わりに担ってくれていたが、今日は俺が責任を持って全員を無事に帰還させないと。


「そういや、特別選抜クラスってどんな感じなんだ?」


 小屋でハンティングの準備をしている時に、タスクが世間話に話を振ってきた。


「どうって言われても、授業は別だし、ホームルームに出てるだけだからな」

「誰か友達になったりしてないのか?」

「俺を誰だと思ってるんだ?」


 万年ぼっちが骨の髄まで染みついた俺に、いきなり初対面の人だらけのグループの中に入って社交的にふるまうなんて曲芸ができるわけがない。ホームルームでは基本、空気になって無難にやり過ごすことだけを考えて過ごしているだけだ。


 そもそも、俺以外の全員が上級生で学年が違うのでこれまで特に知り合いでもなかったのだから、ホームルームが同じというだけのことで、急に親密になったりするわけがないのだ。


 ともあれ、準備を終えて、まずは4人でハンティングをしてみようということで、全員で小屋の外に集まった。


「じゃあ、フォーメーションはいつもの通りで。リカはカレンお嬢様の代わりだから俺の後ろな」

「……」

「何だ、緊張してるのか?」

「し、してないしっ」


 初めての実戦ということで、優等生のリカでも緊張が隠せないようだ。あるいは、優等生だからだというべきなのか。


「(あ、その前に、これの説明をしておかないと)」

「え、な、何、これ?」

「(あー)」

「(分かる)」


 俺が念話(ひそひそ話)でリカに話しかけると、リカは驚いて声を上げた。それを見たタスクとユキが生暖かい視線を送っている。


「(これは俺の固有スキルだよ。声を出さないで話ができるから、ハンティングの間はずっとこれで行こう)」

「(わ、分かった。……何か、耳元で話しかけられてるみたいで変な感じ)」

「(別に思っていることを全部伝えなくてもいいんだぞ)」

「分かってるわよ、バカ!」


 リカはまだちょっと念話(ひそひそ話)に慣れないのか、余計なことまで念話に流したり、逆に口でしゃべってしまったりするみたいだ。いつも余裕そうなのに、急に慌てているのが少し可笑しい。


「(よし。じゃ、後はおいおい説明していくということで)」


 そして、俺たちは、いつものようにダンジョンの草原地帯を索敵しながら進んでいった。


「(見つけた。右前方。バッタが2匹。もう少し近づいたら俺が足を止める。それを合図にリカが魔法で攻撃。タスクとユキは援護に)」

「「「(了解!)」」」

「……蝸行緩徐」

「氷矢連弾!」


 リカの魔法はビッグ・ロカには当たらなかったが、援護に入っていたタスクとユキが危なげなく仕留めた。


「くっ」

「まあ、初陣だと仕方ないよ。カレンお嬢様も最初は苦労してたし」

「あー、いきなり上級魔法が飛んできた時はびっくりしたな」


 コアの回収をしつつ、タスクが思い出し笑いをして言った。あの時は、いきなり8文字魔法が飛んできたのだから、巻き込まれていたら笑い話では済まなかったかもしれなかったが、今となってはいい思い出だ。


 が、リカには周囲のその余裕が逆に焦りを産んだようで、しばらくなかなか魔法が命中しなかった。


「ちょっといい?」


 俺は全知書庫(カンペ)の指示に従って、魔法が命中しないリカに向かって支援の大弓を向け、弦を引いた。


「え、な、何!?」

「散気集意」


 散気集意は掛けた相手の集中に影響を与える魔法だ。主に魔物に掛けて、攻撃を反らしたり違う目標に誘導したりするのに使われるが、味方の注意が散漫になっている時に、集中力を高めさせるという使い方もある。


 もっとも、魔法書に「使い方もある」と一文だけ書かれている程度のことで、俺も全知書庫(カンペ)に指示されなければそんなことは思いつきもしなかった。そもそもから、支援魔法なんて学校でも教えられていないわけだし。


「あそこに飛んでる鳥を撃ち落としてみて」


 俺はリカに頭上を飛んでいるモッズという鳥の魔物を指して言った。このダンジョンではよく見かける魔物だが、いつも空にいるのでこれまで狩りの対象とはしてこなかったものだ。


「あんなの無理だって」

「大丈夫。できるよ。ほら、こっちに向かってきてる。あいつを撃ち落として」

「ええー?」


 しぶしぶだが、リカは俺が言った通りに鳥の魔物に向けて宝玉を掲げた。


 カレンお嬢様とリカはどちらも魔法使いだが、こうして一緒にチームを組んでみると、違いがあることがはっきりする。カレンお嬢様は初手から8文字魔法を使った通り、上級の高威力魔法を自由に扱えるので、多少狙いが甘くても火力で押していくことができる。


 それに対して、リカはあまり高威力魔法を使い慣れていない。そもそも高威力魔法は魔石の消費も大きいので、我が家の財力では練習しているだけで破産してしまう。だから、低威力魔法の精密射撃を持ち味にしている(せざるを得ない)のだ。


 これは、リカの集中力が持続して命中が続く間は非常に効率がいいが、集中が切れて的が外れるようになると、途端に崩れてしまうもろさがある。学校のような慣れた環境で上手くできても、初挑戦のダンジョンで同じようにできるとは限らない。


 どんな時でもいつもの集中を引き出せるようにするには、本人の性格もあるし、場数を踏んで経験を積み重ねるということも必要だけど、それを俺は「散気集意」という魔法一つで「支援」しようというのだ。


「氷矢連弾」


 はたして、リカの魔法は空を飛ぶモッズに命中して地面に墜落させた。


 落ちたところに素早く近づいて見ると、リカの魔法はモッズの急所は貫いておらず、羽を折って飛行できなくしただけだった。リカにナイフでとどめを刺させて、コアを取るところまでしてもらった。


「初ハントおめでとう。気分はどう?」

「気持ち悪い」


 リカは解体で手に着いた血糊を布で丁寧に拭いながらそう言った。が、その表情からは曇りが取れていた。

間隔が空きましたが、ようやく執筆に復帰できそうです。

また、よろしくお願いします。

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