表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/55

最強のチートw能力(3)

「おら、どうした。立てよ、カンニング野郎。まだ試合は終わってねーぞ」


 午後の試合の時間、俺は予告通りトーマにぼこぼこにされていた。周囲にはトーマの取り巻きを中心に野次馬が集まって来て口汚ないヤジを飛ばしている。


 騎士は戦うことが義務付けられた階級であり、騎士学校は戦い方を教える学校だ。よってそのカリキュラムは武芸を実践することを重視していて、実技には武技の練習だけでなく、より実戦に即した試合形式の練習も盛んにおこなわれていた。


 試合では安全のために刃を潰した模擬剣と、威力の少ない練習用の宝玉を使用することになっている。宝玉とは魔術の使用で必要なアイテムで、大きく質がよいほど威力の大きな魔術を行使することができるようになるのだ。


 もちろん、どれほど練習用といっても直撃すれば痛いし怪我をすることもある。だから、試合では必ず審判を立てて有効打が入ったところで試合を止める決まりになっていた。


 ところが、トーマは審判とぐるになって、どれだけ有効打が入っても試合を止めないようにして、俺をいつまでもいたぶって遊ぶのだ。


「ほら、得意のカンニングで反撃してみろよ、ルーパイン」


 野次馬の一人が叫んだ。


 実際のところ、俺の「全知書庫(カンペ)」はこんな時でもきっちり仕事をしている。俺の目にはトーマが俺を(・・・・・・)最も効率よく叩きのめすにはどうすればいいのかという「正解」がきっちり映っているのだ。クソったれ。


 本当ならば、そこには俺がトーマを叩きのめすための正解も映るはずなのだが、俺の身体能力と魔術レベルを基にすると、俺がトーマに反撃をして成功する確率は0%というのが「正解」だった。なので、俺についてはダメージを最小限にする方法が正解として表示されていた。


 つまり、被弾するのは織り込み済みということだ。ありがたすぎて涙が出てくる。


 話は逸れるが、この正解は自分の試合だけじゃなく、他人の試合でも対戦者それぞれの正解が見えるので、他の生徒がどれだけ下手な戦い方をしているかが一目でわかってしまう。そのせいで最初のころに同級生にあれこれ講釈を垂れたのが、今の孤立の一因となっていることを考えると笑えない。


 ともあれ、試合中は痛い思いをしたくない一心で正解に示された通りに必死に攻撃を防御し回避し続けた。そのせいで余分に試合が長引いて余分に苦しむのだから、全く無意味なことをしていることは分かっているのだけれど。


「クソ、しぶとい野郎だ」


 案外、トーマの攻撃は全く基礎がなっていなくて隙だらけなので、正解通りにガードすれば見た目ほどのダメージは受けずに済んでいた。ただ、大抵はこうやって粘っているうちにトーマが疲れて終わってしまうのだが、今日は違うようだった。


「これでも喰らいやがれ」


 そう言ってトーマが取り出したのは実戦用の宝玉だった。魔物と戦う時に使う殺傷力の高いやつだ。あんなものをまともに喰らったら間違って死んでもおかしくない。


 俺は慌てて審判役の生徒を見たが、審判は初めから知っていたようで、俺の慌てる様子を見て下卑た様子でニヤついていた。周りを囲んでいる野次馬の生徒も誰一人慌てない様子なので、知らなかったのは俺だけらしい。


「疾風烈火」


 トーマが宝玉をかざして呪文を唱えると、空中に生み出された火球が風を伴い俺に目掛けて真っ直ぐに襲い掛かってきた。練習用とは比較にならない熱量だ。俺は慌てて正解に示された防御姿勢をとり地面を転がったが、それでも左半身が燃え上がった。


「助けて、助けて」


 必死で助けを求めるが、目の前のトーマはニヤニヤ笑うだけで俺の身体の火を消そうともしない。結局、騒ぎに気が付いた先生が慌てて駆け寄ってくるまで、俺の身体は火に包まれたままだったのだ。




 その日の午後の授業は全て欠席となり、俺は保健室で手当てを受けてベッドに寝かせられていた。


 「全知書庫(カンペ)」の導きに従って防御と回避をしまくった甲斐あって、怪我も火傷も軽傷ばかりで重傷なものはなかったが、数が多すぎて完治までにしばらく時間が掛かると診断されたため、当分の間、試合を欠席することになった。


 これだけの怪我をさせたトーマには本来なら何か罰が下ってしかるべきだけど、授業の試合中での出来事だったということで不問となった。実戦用の宝玉についてはその場にいた全員が口裏を合わせて隠し通したのだ。


 実のところ、トーマはこれまでに俺以外ともトラブルを起こしているが、一度も問題になったためしがない。何かしらのコネを使ってトラブルをもみ消しているのじゃないかと思うけれど、確証はなかった。俺の能力を駆使すればそのからくりも分かるのだろうけど、それを暴いたところで結局どうなるものでもないのでもう諦めている。


「おい、兄貴」


 と、突然不機嫌な声が保健室の入り口から聞こえてきた。妹のリカだ。


 あの貧乳女神に俺がお願いしたことの1つに「可愛い妹」というのがあったが、これがその「可愛い妹」だ。確かに見た目は完璧に可愛いと兄である俺も思う。見た目だけは。


「また試合に負けたの? 兄貴はどうせ成績なんてどうでもいいんだろうけど、落ちこぼれの兄貴を持つと私が恥ずかしいんだからね」


 リカは怪我をした俺に気遣う様子もなく、そんなことをまくしたてた。


「先生に兄貴を迎えに行くように言われたけど、どうせ自分で歩けるんでしょ」

「まあ、多分、一応、歩けるけど」


 もう痛みも大方引いてるので、多分歩いて帰ることくらいはできるはずだ。家がそんなに遠くに離れているわけでもないのだし。ただ、その言い方はないんじゃないかと思った。


「じゃ、一人で歩いて帰って」

「お前はどうするんだよ」

「私は……、一応先生に言われてるから、100メートルくらい後ろをついて行ってあげるわ」

「何だ、それ」

「ただし、絶対に知り合いだって人から思われないように、声も掛けないで、後ろも見ないで」

「はぁ、分かったよ」


 知り合いも何も家族じゃないかと思ったが、この妹には何を言っても無駄なことは分かっているので、俺は素直に頷いた。


 リカは俺と同じ騎士学校に通っていて、俺の3学年下だ。俺とは違って成績は優秀で、親からはリカが男だったらよかったのにと事あるごとに言われ続けている。リカ自身も俺が何か失敗するたびに、いつもバカにした様子で俺を見るのだ。


 リカが小さいときは本当に可愛くて、いつも「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と寄ってきてくれたので、俺も全力で可愛がっていたのだけれど、一体どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


 俺はため息を吐きながらベッドから降りた。身体を動かすと痛みがぶり返したが、歩けないというわけではないので、我慢して何も言わずに身支度を始めた。


「あ、鞄、教室に置きっぱなしだ」

「鞄ならそこに置いてあるよ。全くグズなんだから」


 リカが指さした方を見ると、俺の鞄が置いてあった。それを手で掴んで、俺は保健室から出た。リカは先生から戸締りを任されているようで、俺が出た後の保健室で後片付けをしていたが、俺はリカを待たずに歩いて行った。


 それにしても、誰がいつのまに鞄を持ってきたのだろうか。少し前に見た時には鞄はなかったと思ったのだけれども。まあ、そんなこと考えるだけ無駄だから、さっさと帰ろう。




 俺の去った保健室で、リカは俺が見ていないことを確認すると、俺が寝ていたばかりのベッドに顔を埋めて思いっきり深呼吸した。


「ふゎぁあ。お兄ちゃんの匂いぃ」


 リカはしばらくそうした後で、はっと気づいたように顔を起こすと、慌てて保健室の戸締りをして、走って職員室に鍵を返しに行った。急がないと俺を見失ってしまうからだ。


 もちろん、リカが俺のいないところでそんな変態的なことをしていることなど、俺は全く知る由もなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ