次期公爵のお礼(3)
公爵邸は子爵邸よりもさらに輪を掛けて豪華絢爛だった。さすがに王家に次いで豊かで広大な土地を所有しているビュープレット家の本家だけのことはある。
俺はカレンお嬢様とともに応接室へと案内され、お嬢様はその後俺を置いて部屋を出て行った。
応接室の調度品は落ち着いた印象のもので揃えられていたが、全知書庫はとんでもない高価な価値を告げていた。応接室のサイズを考えても、外部の客を招き入れるというよりも、日頃懇意にしている人物を招待するための部屋のように思われた。
これ、いつの間にかとんでもないことになっていないか?
どきどきしながら待っていると、ガリソンの後からビュープレット子爵とカレンお嬢様が入ってきた。お嬢様はこちらに目配せをしてにこにこしているが、何を考えているのだろうか。
「レン=ルーパイン君だったな。この前はカレンを助けてくれて感謝している」
「は。当然のことをしたまででございます」
子爵が突然頭を下げてきたので、慌ててこちらも子爵よりもさらに深く頭を下げた。なんて恐ろしいことをするんだ、この貴族は。
「今日は無礼講だ。それほどかしこまらなくてもよい」
無礼講と言われて本当に無礼なことをしてどうなるかくらい、前世の記憶持ちの俺が分からないとでも思っているのか。
「急に呼び立てたのは他でもない。早速、この前の礼をしようと思ったのだ」
そう言ってソファーに座り、俺にも座るように促した。
「ガリソンから、お前が就職の世話をしてほしいと言っていると聞いて、私も少し調べてみた。学校で実技の成績が悪いようだな」
「その通りでございます」
「うむ。それなら、まずは実技の成績を上げるといい」
いや、それが無理だから困っているわけで、貴族様がいきなり意味の分からないことを言い出すと、とんでもないことになるのではと不安になるからやめてほしいのですが。
「騎士学校の校長を呼び出して聞いてみたら、実技の成績は実績ベースだということだ。普通は実績は試合をして結果を出して作るものだが、別に他のことで実績を作ってもいい」
それは知っている。毎年、学校の成績評価についてのガイダンスを受けるとき、簡単にそのことについては触れられているからだ。でも、授業や試合以外で実技の実績を作った生徒など、実際には聞いたことがない。
もちろん、課外活動の成果を実績に参入することはしばしば行われている。例えば、対外試合で優秀な成績を修めた時などは大きな加算があるからだ。むしろ、騎士学校でトップクラスになるには、この制度を活用しないと不可能だと言える。
でも、それは結局、対外「試合」であって、試合でない実績など考えられず、試合に勝てない俺が使える技ではないのだ。
「ハンターには興味があるか?」
ハンター!
確かに、ハンターとして優秀な成果を上げれば、文句なしで実績としてカウントされるはずだ。そもそも試合は、結局は将来、実戦で成果を上げることを期待して行うものだからだ。
だけど、ハンターとして成果を上げるのは、試合で成績を上げることよりもさらにハードルが高いのだ。試合に勝てない俺に、ハンターとして成果を上げることなどさらに夢のまた夢ではないか。
あ、つまり、そういうことか。子爵は、結局のところ、俺は使い物にならないから就職の世話などしたくないと言うことを、遠回しに仄めかしているのか。
「私はレンとハンターをしたいですわ!」
「?!」
子爵の意図を掴みかねているところで、突然カレンお嬢様が割り込んできた。完全に予想外な方向から。
「ハンター、楽しそうですわ。ね、レン」
「カレンおじょ……、カレンさん?」
うっかりお嬢様と呼びそうになって、慌てて呼び名を言い直した。
「カレンさん?」
そして、子爵がその呼び名に食いついた。
「あ、いえ、カレン様……」
と言ったら、今度はお嬢様からにらまれた。ああ、もうどうすりゃいいの!? しかも、こういう問題に限って、全知書庫は答えてくれないのだ。
「カレン、もうレン君と仲良くなったのか?」
「はい。車で一緒になっただけですが、レンはとても優しくて、安心して身を任せられますわ」
カレンお嬢様が少し夢見心地な表情でそんなことを言うと、別のことを想像してドキドキするけれど、隣に子爵がいることを考えるとそれ以上にハラハラして心臓が止まりそうになるので、頼むから時と場合を考えてほしいと心で願った。
「それはよい」
よいのか!?
「レン君、カレンもこう言っている。ハンターをやってみる気はないかな」
この流れで子爵に言われて、断ることができるわけがない。
「分かりました。やってみましょう。しかし、カレンさんが参加するとなると、私一人で守り切れるかどうか……」
「それについては考えがある。が、その前に、まず見せたいものがあるのだ」
そういうと、子爵は立ち上がって、俺にも立ち上がるように促し、ガリソンの後を付いていくよう促した。
「レンはもしかしたらびっくりするかもしれないですわ」
一緒についてくるカレンお嬢様は、なぜかいたずらっぽく笑っていた。とびきり可愛い顔でそんな表情をするものだから、心臓がドキドキしてしまった。お嬢様の近くにいると、心臓が持たないと思う。
ガリソンはどんどん屋敷の中を進んで、やがて大きな扉のある部屋の前に止まった。金属製のいかにも重くて頑丈そうな扉だ。
「少し離れていてください」
そう言うと、ガリソンは鍵と魔石を取り出して、鍵に魔石をはめ込むと、それを扉の鍵穴へと差し込んだ。そして、扉に魔力を通すと、象が体当たりしてもびくともしなさそうな扉が音もなく外開きに開いた。
部屋の扉を開けるためだけに魔石を使うとは、さすが公爵家だと思った。魔石は低品質のものは庶民でも買えるが、それなりの品質のものはそれなりの値が張るのだ。家みたいな貧乏騎士家でこんな扉を設置したら、扉の開閉のための魔石の支払いで破産すると言っても冗談に聞こえない。
「ハンター活動をするにはよい装備品が必要だ。先日の礼として、この中から1つ、好きなものをお前にやろう」
「ええええっ!!」
部屋の中にあったのは、宝物級の装備品だった。全知書庫の目にはその価値が大きな値札が付いているように手に取るようにわかってしまう。数字を見るだけで頭がくらくらするようなものばかりだ。
いや、値段だけじゃない。こんな宝物はその辺のお店で売っているようなものとは根本的に違うもので、特別な伝手がなければお金をどれだけ積んでも買えるものではないのだ。つまり、これを持っているだけで、貴族とのつながりを暗示する一品だということだ。
本当に、本気で、この宝物を俺にくれるの? マジで??




