最強のチートw能力(2)
転生してからしばらくは乳幼児だったため、あまり記憶がはっきりしていないが、物心を着くころまでには自分が転生者であるという自覚を持っていたようだ。
理性が発達する前は、前世と今世の区別がつかずに意味の分からないことを話すこともあったらしい。理屈の通った事を話すころには、もう前世と今世の区別もはっきりしていてうっかり前世の記憶を人に話したりすることはなくなった。
そして、そのころから、自分がどんなチート能力を持っているのか、人目を盗んでいろいろと試行錯誤を繰り返すようになった。しかし、結局分かったのは、何をやっても人並以下の能力しかないということだった。剣術もダメ。魔術もダメ。
唯一容姿だけは人並以上だった。両親のいいところだけを引き継いで生まれたように端正な顔立ちで、成長するにつれて身長も高いことが明らかになっていった。ただ、それは逆に周囲に不要な期待を生んで、期待に応えられない時の落差が余計に大きくなるだけでしかなかった。
「あのクソ女神! チート能力はどうしたんだっ」
本人に問いただそうにも、転生後に女神を呼び出すオプションはつけていなかったので、面と向かって文句を言うこともできない。それでも天界で聞いていやしないかと人目を避けて叫んでみたが、何度呼ぼうがいつまで経っても現れる気配はなかったので、結局諦めてしまった。
これなら転生前の方がましだったかもしれないな、と思ったが、覆水は盆に返らない。
そうこうしているうちに10歳になり、騎士学校へと入学することとなった。
俺が転生した先は「騎士」と呼ばれる階級に属する一家だった。騎士とは貴族と平民の間に属し、武力によって国に貢献している人々だ。能力が高ければ国に雇用され兵士となり、そうでなければフリーのハンターになる。どちらにしろ、戦う相手は魔物が中心だ。
そう、この世界には魔物がいる。そして、魔術が存在し、魔道具が社会に浸透している。騎士は、人々の生活の安全と魔道具のエネルギー源のために、魔物を狩るのが主な仕事なのだ。犯罪者や外国の兵士と戦うこともあるが、そういうことはまれと言っていい。
残念ながら、俺の生家は騎士の中でも明らかに貧乏な部類だ。一応、当主の父は国の兵士だが、うだつが上がらなくて閑職に追われていた。必然的に、両親の期待は俺の肩にのしかかってくるわけだが、その期待を実現することは俺には荷が重いように思われた。
できることはと言えばこの容姿を生かして逆玉を狙うくらいかと、10歳にして半ば以上諦観に達しながら騎士学校に入学し、婿入りできそうな女生徒をこっそり物色する日々が続く中、突然、俺の「チート能力」が開花したのだった。
それは最初の定期試験の時のこと、
「すみません」
「どうした?」
俺は配られた試験問題に違和感を感じて試験中に試験官を呼び止めた。
「あの、この試験問題なのですが、全部、答えが書いてあるみたいなんですが、問題用紙を間違えていませんか?」
「何? ちょっと見せて見なさい」
試験官は驚いて俺の問題用紙を手に取ってじっくりと確認したが、首を傾げながら俺の下へと戻した。
「どこにも答えなど書いてないぞ。何を言っているんだ?」
「え、そんなことはないと思うのですが……」
「余計なことを考えていないで試験に集中しなさい。そうでないと失格にするぞ」
そうまで言われてはそれ以上何も言えないので、後からカンニングの疑いを掛けられるのではないかとびくびくしながらも、問題用紙に書かれていた解答をそのまま丸写しにして提出した。もちろん、分かる範囲で解答が正しいことを確認した上でのことだ。
その結果、俺はその試験で、開校以来初の全科目満点を取った。そして、カンニングの疑いを掛けられることもなかった。俺の潔白はその時の試験官がきっぱりと証言したのだ。
ここに至って、俺はこれが俺の「チート能力」であることをはっきりと理解した。あの貧乳女神は「チート」の意味を「カンニング」の意味と勘違いして、俺に「最強のカンニング能力」を授けたのだ。
俺は文字通り天を仰いだ。むしろ天を睨みつけた。可能ならばコールセンターに電話を掛けて返品交換を要求したいところだけれども、残念ながらあの貧乳女神に連絡を取る術がないことはすでに分かっている。もうこの人生はこの能力と共に生きていくしかないのだ。
それから落ち着いて自分の能力を確認してみると、俺の能力は主に4つの能力から成り立っていることが分かった。不思議な言い方になるが、チート能力に開花すると同時にその能力の名前と使い方をどこからともなく「思い出した」のだ。
4つの能力は大きく自分が解答する能力と他人の解答を助ける能力に大別された。自分が解答する能力は、正解が自動的に分かる「全知書庫」と隠された情報を読み取る「千里眼」の2つがあり、他人を助ける能力は、声を出さずに会話をする「念話」と他人と自分の意識を入れ替える「交魂換魄」の2つだった。
思い描いていたチート能力ではなかったが、これしかないのだから仕方ない。俺はようやく手に入れた「チート能力」の活用方法をあれこれと試すようになった。
とりあえず、「全知書庫」は試験問題がどんなに難しくても常に正解を示していることはすぐに分かった。というのも、満点を取ってから、先生が躍起になって難問をテストしてくるようになったのだ。しかし、どれほど難しい問題を出されても、俺の満点は揺るがなかった。
「全知書庫」が優秀だったので、逆に「千里眼」の出番はほとんどなかった。千里眼というくらいだから、女子の下着を透視できたりしないかと何度も試してみたが、そういう使い方はできないようだった。ちっ、使えない。
どうやら「千里眼」というのはいわゆる透視能力とは少し違って、箱の中のものを開けずに確認したり、他人の考えや隠し事を読み取ったりという用途を意図したものであり、読み取れるものは写実的な現実の状態ではなく、対象物単体の抽象化された情報になってしまうのだ。
つまり、下着を透視しようとすると、実際の着用状態のイメージではなく、下着単体の概念的な視覚イメージが見えてしまうので、店頭でパッケージに入れられて陳列販売されている下着を見るのと大差はなかった。そのくらいなら、まだお店でマネキンが着ている下着を見る方がましなくらいだ。
ちなみに、このチート能力は必ずしも試験でなくても発動することができる。それどころか、むしろ「全知書庫」については、パッシブスキルだったので世界のすべての問いが問われた瞬間から常に答えと共に存在する状態だった。
…………、「念話」と「交魂換魄」はどうしたって? 試す友達がいないから未だに使ったことがないだけだが? あれ、おかしいな。目から汗が……。
「おい、カンニング野郎!」
全科目満点という屈辱的な成績をクラス全員の前で発表された授業が終わり、次の実技の授業に向かうところで俺はクラスの生徒の1人に呼び止められた。声を聞くだけで話したくない相手だと分かったので無視して先に行こうとすると、後ろから突き飛ばされて前のめりに倒れてしまった。
「何、無視していやがる」
「何だよ」
「後でぼこぼこになる予定のカンニング野郎の顔でも見ておこうと思ってな」
こいつはトーマ=アバートという名前の男爵家の長男だ。大半が平騎士の騎士学校の中で数少ない男爵であるため、いつも周囲に威張り散らしている嫌な奴だ。
「俺はカンニングはしていない」
チート能力は俺の固有スキルなのだからカンニングではない。生まれつき頭のいい奴がカンニングに当たらないのと同じだ。よって、俺は無罪。
「はぁ? 全科目満点なんてカンニングでもしなけりゃ取れるわけないだろうが、このクソカンニング野郎が」
こいつはいつも自分は高貴な生まれだと自賛している割には、口調が不良かチンピラのようだと思う。まあ、前世でもいいところの生まれのはずなのにいつもチンピラみたいな態度の政治家がいたので、世の中そういうものかとも思うが。
「授業に遅れるから」
「おい」
「まだ何か?」
「次の試合、貴様の相手はこの俺だ。逃げんなよ。ぼこぼこにしてやる」
いちいち言いに来なくてもそんなことは知っている。試合でトーマの相手をするといつも怪我をさせられるから嫌なのだが、サボると出席点が不足して落第になってしまうから耐えるしかないのだ。
鬱だ。
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