とにかく人に出会いたい:2
▼あなたの死亡を確認しました。
◼️◼️◼️を発動します。
・・・・・・。
▼精神状態の回復を確認しました。
・・・・・・。
▼周囲の安全を確認しました。
・・・・・・、なあ。
なあ、ちょっとまってくれよ。
▼肉体の再構築の準備が整いました。
コンテニューしますか。
・YES
・NO
ちょっとまてっていってんだろ!?
なんなんだよ、あの猿!
なんで俺また死んでんの?!
あんな痛い思いさせて今度はどこ連れてく気だよ!
これは夢じゃないのか?!
夢ならなんでこんなに痛いんだ!
俺なんかした?! なんか悪いことでもしたか?!
謝る、土下座でもなんでもするからさ、誠心誠意あやまるから、許してくれよ!
やめてくれ、やめてください、おれもうしにたくない!!
夢だとしても! 痛いのはもういやだ!!
▼精神状態の悪化を確認しました。
再度精神状態の回復を試みます。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
▼精神状態の回復を確認しました。
肉体の再構築の準備が整いました。
コンテニューしますか。
・YES
・NO
・・・・・・。
これは、本当に夢なのか?
猿みたいな化け物にいたぶり殺されたと思ったらまたここだ。
ぼんやりと自分の輪郭も曖昧な、真っ暗な空間に白い逆三角形のアイコンとふざけた文章。
精神状態だの、肉体の再構築だの、簡単に言ってるができたら正しく神の領域の奇跡じゃねぇか。
さっきの噴き出すような激情も、パッと白んだ一瞬のうちに鎮まった。
ここはなんだ、これは本当に、俺が見る夢なのか。
こんなにリアルな感覚があっても、夢でしかないのか。
いや、いや、現実だと言われる方が困る、それこそ発狂してしまう。
2度も食われて死ぬなんて、死んでも真っ当に死ねないなんて、そんなのが現実にあっていいはずがない。
これは夢だ、夢じゃなきゃダメなんだ。
▼回答を選択してください。
コンテニューしますか。
・YES
・NO
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・YESだ。
▼肉体の再構築を開始します。
肉体の再構築が完了しました。
これより意識の移動を開始します。
意識は暗闇に沈んでいった。
さきに意識だけが覚醒した。
それからゆっくりと体の感覚が目覚めていく。
どうやら大の字に仰向けに寝ているようで、背中には冷たく固い感触がある。
耳がわずかな葉擦れの音を捉えるがやけに静かだ。
鼻がひんやりした空気を嗅いだ。森の樹木と土のにおいに獣のにおい、そして錆びた鉄のにおい。
やけに鮮明に、肌が空気を感じる。
ーー仰向けは危険だ。
とりあえず起きなくては、と指先がピクリと反応したのを確認して瞼を開いた。
「え」
真っ暗だった。
一瞬混乱したが、よくよく目を凝らすと生えている植物の輪郭がおぼろげに見える。
恐る恐る持ちあげた腕の輪郭もわかる。なるほど、どうやら夜らしかった。
起きあがり、とにかく周りのことを知ろうとあちこちに手を伸ばして物の輪郭をあらためてみる。
俺が倒れていた場所の頭側そばに大きく隆起しているものがあった。しっとり濡れた苔の手触りとでこぼこした木肌。根っこかな。
自分のことの確認は後でいい。とにかく身が守れるところに隠れたかった。
手探に根の太いほうへ、隅になりそうな場所に移動する。
木の根の股になんとか収まり、ほっと一息ついた。
すでにジメジメしてて気持ち悪いとか、虫がいそうなんてことは言えなくなっている。
はっきり物が見える昼間じゃなくてよかったとは思っているが。
それから自分の状態を確認していく。
うっすら気付いてたけど、着ているものぜんぶ穴空き破れの有様だった。
ズボンの穴に指を突っ込んでみる。
親指がすんなり入ったことにぞーっと寒くなった。
夢の続きなら、このスーツの穴はあの猿の化け物が噛んだあとのはずだからだ。
ーー俺の親指より太い牙に噛まれたのか。
落ち着け、落ち着け、と膝を抱えて腕を強くさする。
終わったことよりも、これからのことを考えなきゃならない。
あの猿の化け物にみつからないように森を出る。
そのために水や食べ物が必要だ。大丈夫、森だもの、きっとすこし探せば見つかるはず。
ぐうぅぅぅ。
食べ物のことを考えたら、お腹が減ってきた。
たしか朝食も抜いてたからまる一日何も口に入れてないことになる。
夢になかでも腹は減るんだなぁ。
「ハンバーガーが食べたいな。とろっとろのチーズたっぷりのバーガーをコーラで流し込むの、好きなんだよなぁ」
サラミとウインナーをのせて焼いたピザ、粉チーズをふりかけたカルボナーラ、ハンバーグはおろしポン酢のサッパリ系が好きなんだよな。寿司だったら卵とサーモン、マグロの赤身、光り物も好きだ。冷えたビールがあったら羽根つきの餃子、食べるラー油と和えた枝豆、焼きスルメ。
「焼きスルメか〜」
一味マヨをつけて食べると美味いんだよ、と笑いがこみ上げる。
次回の晩酌のつまみは決まりだな。
空きっ腹をなだめながら目を瞑る。
夜も危険だが、昼に動く生き物は眠っているはず。
俺も疲れた。2回も死んで、森の中走りまわって、わけがわからない状況でも俺すごく頑張ったもの。
ここならきっと暗いし、隅っこだし、見つかりづらいだろう。
だから寝よう。
つぎに目を覚ましたとき、自室のベッドの上でありますように。
小さな寝息が聞こえはじめてしばらく。
米粒ほどの大きさの真っ赤な点がひとつ、木肌を伝って眠る男の頭のうえに落ちた。
短い四対の脚を蠢かせたそれは、より高い体温を求めて髪の中に潜りこみ、やがてうなじからシャツの内側へと入っていった。
くすぐったかったのだろうか、身じろぎした男の体に潰されそうになったそれは、小さな牙をその肌に突きたてた。
▼あなたの死亡を確認しました。
◼️◼️◼️を発動します。
・・・なんで????