プロローグ:蛇足部分
蛇足だと感じる文章も多いと思います。
しかもプロローグが長いです。
能力柄、残酷な描写も多くなります。
チートだけど無双はありません。
この部分はサブタイトルにある通り、蛇足なので主人公が酒が飲める年齢だという紹介なので読まなくても大丈夫です。
読んでくださる方、駄文ですがどうぞお付き合いくださいませ。
塩茹でした枝豆、醤油ベースの甘辛ダレを絡めた唐揚げ、チーズのアソートとキンキンに冷やしたビールを2本。
週に一度、休日前の晩酌はおれのささやかな贅沢だった。これを楽しみに仕事をしてると言ってもいい。
風呂上がりで濡れた髪をタオルでガシガシ拭いながら缶のプルタブを引いて一気に喉に流し込んだ。
「っはああぁー」
大麦のほのかな甘さ、爽やかな苦味、冴えた喉越しに大きく息をつく。
仕事終わりの疲れた身体に沁みる最っ高のひと口目だ。
それからテレビをつけてザッピングする。
お笑い芸人のステージ、ニュース、音楽番組、動物のドキュメント。
空との境界も曖昧になるような青い海が画面いっぱいに広がった。カラフルな小窓を設けた白壁の家々が建ち並ぶ、異国の海沿いの街。
「スペインかな」
旅番組のようだ。街の見所や文化、グルメ、美しい風景が紹介されていく。
ぼんやり飲んでいるうちに酔いがまわってきたのか、身体がほかほかと温まり、気分が浮ついてきた。
いつの間にかカラーボックスに並んでいたガイドブックと写真集が自分の周りの床いっぱいに広がっており、テレビで紹介された場所の本のページを繰っては地図上を指で辿り、ネットを開き、いくつかの旅程が出来上がっていた。
空の皿と空き缶がちいさなテーブルの端に寄せられ、旅程が書き殴られたコピー用紙が散っている。
「おー、なにやってんだおれ」
単身用のアパートの部屋は引っ張り出されたものでしっちゃかめっちゃかだ。
片手に持っていたビールをぐいっと煽り、胡座を組んだ上に広げられた世界の絶景を集めた写真集を眺めた。
目に痛いほど鮮やかな青い海、それにぼんやりと染まった真っ白な壁をした建物群が山に沿うように連なる。
「こういうところの空は、どうしてより高く見えるものなのかな。いや、高いというか深いというか、同じ空にはどうしても思えないよな」
海とはまた違う、深い色の晴天。
空は繋がっている、なんて嘘っぱちだろ。おんなじ海なんてのもきっと嘘。
二十数年間生きてきて、結局これほどに美しく心動かされる光景を見つけることはできなかった。
「学生の頃、あんなにいろんなとこに行ったのにな」
知らないことを知るのが好きだった。
遠くに行くのが好きだった。
エッセイ、ノンフィクション、小説、童話、専門書、本はジャンルを問わず興味が湧いたら手当たり次第に読み漁った。
自転車を買い与えられてからは、行けるところは行き尽くし、何度か迷子になって警察のお世話になったこともある。
高校時代なんて最高だった。
バイトで金を貯めては貧乏旅行を決行し、ときには自転車旅行で公園で野宿をし、卒業ギリギリで日本列島47都道府県すべてに行くことができた。
これからも同じように、本を読んで旅をして、そういう風に行きていけるもんだと思っていた。
「実際、それは難しいもんだ。仕事は定時じゃ終わらないし、一人暮らしをしていると給料は生活費で消えていく。読書の時間もろくに取れないくせに旅行のための有休なんて取れるわけないだろ」
はあー。
肺の底からため息をついて後ろに倒れた。
テーブルに膝がぶつかって空き缶が数本床に転がる。背中の下に、広げっぱなしのガイドブックや世界地図を敷いてしまい、紙が曲がる音がした。
見上げる照明の白い光が眩しい。
この部屋を借りてもう3年になる。つまり社会人として身を立てて3年だ。
あの頃憧れていた生活は出来ていない、将来の展望も潰え、かつての自由さえ失っている。
この部屋は、夢と希望の残骸で埋もれてしまっている。
「ダメだ、寝よう」
遣る瀬無さで胸がぎゅーっと絞られる。
視界がぼやけて涙が流れた。
しゃくりあげそうなのを堪えて、もうこのままでいいやと目を閉じた。
明かりもついたまま、片付けも出来てない、そういえばテレビもついたままだ。でも構わない。
「いっそ、寝て起きたら違う世界だったらいいのに」
なーんて。
その日は夢さえ見なかった。