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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 05 秘密狂室

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染まりゆく

 直ぐに出すから落ち着いてください。

 檜木清華。

 多分少し可愛くて、それなりに頭が良くて、それなりに気遣いの出来た俺の妹だった女性。思えば関係に亀裂が入ってからアイツの事を知ろうともしなかった。学校は事実上終了したとして、それでも付き合いのある友達は居るのだろうか。

 我ながら、己の甘さには心底うんざりしてくる。気が付けばこの足は清華の為に動き、彼女の姿を見たくて首を回している。もう、自分でも何が何なのか分からない。嫌いなのか、好きなのか。居なくなってほしいのかまた一緒に……

 一度アイツに出会ったら本気で殴ろうかと悩んでいる。散々俺を振り回してくれたそのお返しだ。まあするのは想像だけで、実際はしないのだろうが……しかし、俺は彼女から受けた仕打ちを忘れている訳ではない。十数年間も受けた仕打ちに対して拳一発で済ませる俺が最低なら、信者共は既に底辺の底をぶち抜いている。

「何で、俺。探してんだよ」

 ビーチで再会した時のアイツは、何か様子がおかしかった。あれを元気とは言えないだろうが……ともかく、単純に生きているという意味で元気そうだった。探すまでもない。今は事情があるだけで、きっといつか帰ってくる。

 自宅から暫く離れた所で、俺は足を止めた。探すのが馬鹿馬鹿しくなってきたとも言いたいが、生憎と合理的な手段を思いついただけだ。貸しを作るみたいで気に食わないが、本人は貸し借りを気にしない性格だと信じて、頼らせてもらう。


 プルルルル…………


「はいはーい。創太? どうしたの?」

「単刀直入にお願いがある。聞いてくれ」

「ん? 何でも言ってよ。私の就任祝いは好評でね! 私がわざわざ管理しなくても良くなったから暇だったんだッ! で、どんなお願いなの?」

「檜木清華を探してほしい」

「…………それ、誰? もしかして創太の事を兄貴って言ってた子の事?」

「他に誰が居るんだ? それで見つけたら、家に帰る様に言ってくれないか?」

「んー分かった! でも特徴を教えてよ。幾ら私でも、何の手がかりも無しに特定個人は探せないからね?」

「特徴か…………ん? いやいや。お前清華と仲良かっただろっ! 特徴なんてお前が勝手に決めればいいじゃないか!」

「え?」

「あ?」


 噛み合わない。それも話が通じないという意味ではなく、単純に情報不足という意味で。こいつは都合の悪い発言は徹底的に無視するが、今回の場合その意思は見られない。やはり噛み合っていないのだ。俺の前提とメアリの前提が。

「…………携帯の電話帳に居るだろ。お前の電話帳、この町の全員の番号が入ってそうだもんな」

「うん、良く分かったね! だって全員と連絡取れないと不便でしょ? でも……うーん。まあ、創太だからいいか。私の電話帳ね、創太以外は全員最初の一文字で登録してあるの。だから『ひ』を見ても誰が誰なのか分からないんだよね~」

「……じゃあお前、電話かかって来た時とかどうするんだよ」

「その場凌ぎでどうにかするッ! 現に失敗した事とか無いし、他の人も傷つかないからいいよね! だってその方が楽だもんね!」

「お前、言ったな? その言葉、そのまま信者共に垂れ流してやってもいいんだぞ」

「やってもいいよッ。創太ってどうも私を困らせようとしてるみたいだけど、そんな事じゃ私は困らないよ! もっと頭を捻らなきゃ!」

 うっざ。    

 一発逆転の言質を取ったと思いきや、謎に上から目線をされる結果となった。不愉快至極極まりない。この場に本人が居たら携帯を脳天に叩きつけて、その身体に何度も何度も拳を叩き込んでいた所だ。

 …………落ち着け。

 メアリに対する苛立ちが募るにつれて目的を忘れかける。だが待て。もう少し待て。俺は口喧嘩したくて電話した訳じゃない。わざわざ不快な気分になる為でもない。人探しのスペシャリストに仕事を頼みに来たのである。

「とにかく人探し頼んだぞ。完全無欠のお前がまさか失敗する訳ないよな?」

「えー? ちょっと、特徴くらい言ってよー!」

「だからお前知ってんだろ! ふざけるのも大概にしろ!」

 腹が立ったので電話を切る。着信が再びかかってくる事は無かった。代わりに入ってきたのは一つの通知であり、その通知はどうやら市の緊急速報メールを利用したものだった。



『檜木清華を捜索せよ。有力な情報を持つ者はただちに学校へ連絡』



 情報拡散のやり方が常軌を逸しているが、これなら直ぐに見つかるだろう。本人も事の大きさを知って出てくるかもしれない。メアリの完全性を信じるなら…………見つかる。きっと。

「―――まあ感謝はしないけどな」

 恩知らずと言われようが感謝はしない。俺はアイツを許さないし、憎んでいる。今回も頼ったのではなく、気持ちとしては利用してやったのだと声を大にして言いたい。所詮はアイツも利用される側に過ぎないのだと思い知らせてやった。

 どうかそういう事にしていただけないだろうか。

 頼る、という行為は事実だが、それを言葉に表すのは屈辱的だ。まるでアイツが善人であるみたいじゃないか。その認識は大いに間違っている。あの女は善人ではない。善人を装った極悪非道の怪物だ。人の命なんてクソほども価値を見出していない、究極的に自分本位の、クソッタレのゴミみたいなカス野郎だ。

 

 ティロン♪


 心の荒ぶる俺を煽るかのように通知が一件、二件、三件。留まる所を知らず立て続けに鳴り響くので開いてみると、クラスのグループトークがまた随分と賑やかになっていた。下らない会話をしているのかと思いきや、この執拗な通知は、俺が原因らしかった。


『創太! 学校来いよ』

『学校来てよー創太君』

『みんな待ってるわよ^^』

『お前の事をみんな待ってるぞー!』

『返事しろってー!』

『清華ってのが見つかったってよー!』


 ………………早くね?


 嘘だろ?








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