表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 04 曖妹明鏡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/195

反省と啖呵

 多少身体を押しても入るつもり、とは言った。だがベッドの下は想像以上に狭く、俺一人がどうにか入れる程でも無い……当たり前だが、ベッドに人を隠れられる様な配慮がされている訳が無い。聞いた事無いだろう。『このベッドは地面との空間がとても広く、人一人が隠れられます!』なんて、売りになるものか。今の俺には売りになるが、流石にピンポイント過ぎる。


 ―――き、きつい。


 これが漫画であれば体中からメキメキという音が聞こえ、超常的重力が俺の身体を締め付けていただろう。それくらいきつい。ギリギリアウトだ。行きは多少で済んでも、帰りはどうだろうか。多少とは言わず全壊、多大な被害を被る事は間違いなさそうだ。あまり長時間入っているとその内身体がフィットして二度と出られなくなりそうなので、来るならさっさと来てとっとと帰って欲しい。メアリなら出来る筈だ。

「あやつの気配はまだ感じぬぞ。一度出ても良いのではないか?」

「出た瞬間に来たら嫌なので出ません!」

 命様にはベッドの上に待機してもらい、視界を確保できない俺に代わってメアリの来訪を感知してもらっている。俺も彼女みたいに物理法則に縛られなくなればこんな苦しみを味わう必要も無いのだろうが、人間である限りその願いは叶わない。せめて透過能力だけでもあれば……或いはこの手の厄介事がもっと早く起きてくれたら。

 俺が小学生の頃であれば、この程度の隙間には苦も無く入れただろうから。

「どうですか? アイツ来ましたか?」

「気配は感じぬが、妙な物音は聞こえるのう」

「物音?」

 耳を澄ませてみるが、そのような音は何も聞こえない。だが命様がこの状況で俺を揶揄う為に嘘を吐いたとも思えない。或は勝手に物音と思い込んでいただけで、不可視の存在にしか聞こえない特殊な概念だったりするのだろうか。もし超音波みたいなものであれば、俺では聞こえない。


「創太! 来てよー!」


 間もなく聞こえる俺の大嫌いな女性の声。限界まで声を押し殺しながら、俺は命様を咎める様に呟く。

「……来たじゃないですか」

「来たのう。今は気配を感じるぞ。じゃが……」

 何か思う所があるらしいが、これ以上声を出したら気付かれる恐れがある。心配し過ぎて悪い筈はないので、呼吸を最小限に、自分にさえ聞こえないくらいのペースまで落とす。


「あれ、居ないの? 居ない筈ないよね? 監視カメラにも映って無かったもんね。じゃあ居留守? どうして出ないの? ここオートロックなんだよ? 居留守されたらどうしようもないって分からないの?」

 

 どうしようもないならさっさと帰ってくれ。俺はアイツ等の事が嫌いだが、俺のせいで酷い目に遭うのはもっと嫌だ。随分前から言っているが、棲み分けは大事だ。俺はメアリの事が嫌い、アイツ等はメアリが好き。どうして争う必要がある。対抗勢力を叩き潰す必要がある。それでいいじゃないか。人間社会とはそういうものだ。

 メアリに対する感じ方に多様性が無い社会など窮屈だろうに、俺以外の人間は脳みそが腐っている。改めて言うほどでもないが。


「うーん。仕方ないなー。もしかして寝てるの? そんな筈ないよね。創太の生活サイクルは把握してるもん。ねえ居るんでしょ? …………本当にいないの?」

 

 ここで帰ってくれるなら御の字だ。ベッドの下に隠れた意味が一ミリも見いだせないが、帰ってくれるならもうどうでもいい。所詮は今日一日の付き合いだ。この夜さえ凌げれば幾らメアリと言えども俺に働きかけては来ないだろう。

 そんな細やかな願いを踏み躙るかの如く、ロックの外れる音が部屋に響いた。


 ―――今更驚かねえよ。


 曰く、こいつは俺を蘇生させている。オートロックの解除くらいではもう驚きもしない。

「来たぞ。息を潜めよ。可能であれば止めた方が良いじゃろう。それと気配も消さねば、気づかれる危険性があるぞ」

 彼女も大概無茶を言う。俺は軍人でもなければ謎の秘密組織に鍛えられたエージェントですらない。気配の消し方など素人に分かってたまるか。漫画なんかでは当たり前の様にやっているが、気配とはそもそも消せるものなのか。

「…………ひょっとして隠れてる? 隠れてる俺を見つけたら連れて行けよって事? アハハ、いいよ! 創太が隠れそうな場所なんて見当がついてるんだから! 私を舐めないでよね!」

 メアリは俄然やる気になった。まさかベッドの下に居るとは思わないだろうが、面白いつまらないの二元論で行動を決めがちな彼女がやる気になった事自体、非常にまずい。

 この部屋でかくれんぼをしようと思った時、隠れ場所が少ないのはメアリから見ても明らかだ。普通の人間なら『隠れている筈がない』と思って撤退するだろうが、そこは完璧少女。一度隠れていると確信を得たら絶対に居なくならず、また、隠れ場所の少ない場所でどう隠れるかという点について納得の行く答えを思いつかぬ彼女ではない。

 終わったか?

「諦めるでないぞ創太。メアリはお主の位置を知っている訳ではない。妾の見立てによると今は匂いを頼りに探っている筈じゃ。そして石鹸の匂いであれば浴場からも出ておる。諦める時ではないぞ」

 本来の姿を取り戻しても居ない彼女に俺の考えが読める道理は無い。励ましのつもりだろうか。身体を壊しかけているこの状態では全く心に刺さらないが、しかし結果として折れそうになった心のつっかえ棒になってくれた。既に息は苦しいが窒息はしないだろう。飽くまで呼吸を最小限にしているだけだ。

 辛いだけなら耐えられる。

「うーん。じゃあ本当に探しちゃうからね?」

 長い。まだ二分も経過していない筈なのに、まるで一日中走った後だ。僅かでも気を抜けば咳込む。咳込めば気付かれる。


 ―――あ、これ無理かも。


 人間には抑えられない行動というものがある。くしゃみ、欠伸、瞬きなど。これらが抑えられないのは生理的反応であるからだが、同様に己の命を守る際に出る防衛反応も、意識的には抑えられない。

 気管が詰まり続ければ人は死ぬ。その当たり前の答えに打ち勝てない限り、俺はここで咳をしてしまうだろう。



「メアリさん! 待ってください!」



 尤も、例外はある。例えば意識が逸れて、不意に力みが緩んだ場合。自然と呼吸の詰まりは解消されるので、一時的にでも延命は出来る。問題は根本的な解決にはなっていない事だが……それはもう、彼女に任せる他あるまい。

 何故戻ってきた。清華。

「ん? 貴方は誰? ここ勝手に入っちゃ駄目だよ?」

「……私が誰かなんてどうでもいいんです。メアリさん、これ以上兄貴に近づかないで下さい」

「兄貴? …………えっと、まあいいか。それはどうして? 私は創太に悪い事するつもりなんてないよ。今回だって、只、彼らの反省を見て欲しいなあってだけで」

「それが迷惑だって言ってるんです! 兄貴は……貴方の事が嫌いだって分からないんですか!? それとも分かっててやってるんですか!」

「私の事が嫌いなのは創太の自由だよ。でも私は創太の事嫌いじゃないけどね。所で何が迷惑なのかな? 皆、反省もしつつ楽しめて満足してたでしょ」

「あ、あんなのが反省なんて……兄貴が余計に苦しむだけです! 誰が同級生同士の性行為なんて見たいんですか! し、しかもあんな趣味の悪い!」

 性行為!?

 俺は一体何を見せられる予定だったのだろうか。

 いや、そんな事は最早どうでも良い。何故清華はメアリの影響を受けずに済んでいるのだ。どう考えたって彼女に口答えしている時点で影響は希薄、もしくは殆ど無力化している。メアリの力が蓄積するならば、清華はとっくの昔に手遅れだ。

 無効化出来る道理が分からない。

「私は知ってるもん。創太が裸を撮られてた事。それって幾ら何でもやり過ぎでしょ? この旅行は皆で楽しまなきゃ。私の知らない内に創太も何かしたのかもしれないけれど、それならそれで創太だけ裸を撮られるってのもおかしいでしょ。でもこうすれば喧嘩両成敗! 明日から何の後腐れも無く付き合えるもんね!」

「……おかしいです。気が狂ってる。お前気が狂ってる! そんなんで兄貴が満足すると思うの? 本当に完璧なら、人の気持ちくらい少しは考えてよッ」

「考えてるよ。創太はきっと喜んでくれる! 私には分かるんだ!」

 分からない。

 分かってたまるか。

 そもそも分からせたくないから、俺は距離を置いていた。それに視える俺と視えない彼女とでは永久に分かり合う事はない。分かると断じているのは大いなる傲慢だ。人間様が容易に理解出来ると思い込むその精神は実に浅はかではないだろうか。


『普通の皮を剥がせるのもまた、君しか居ないんだ』


 成程、確かにそうだ。俺が関わるとこいつは露骨に異常性を見せてくる。

「……出てってよ! 出てけよ! 警察呼ぶぞ!」

「え、呼んでくれるの? 人手を増やしてくれるなんて優しいねッ」

 そう。日本の警察は無能だ。何故ならメアリを取り締まれないから。この究極の犯罪者を取り締まれない治安維持組織に何の意味がある。非常に悔しいが彼女の言う通り、警察は人手でしかない。法律そのものさえ歪められるメアリを相手にしては秩序などないようなものだ。

「私は兄貴を苦しめ続けた。そんな私にこれを言う資格は無いかもしれないけど……頼むからさ、これ以上兄貴を苦しめないでよ。アンタが居るだけで兄貴は怒る事しか出来ないの。アンタが居る限り、兄貴は絶対笑えないの。居なくなってよ……酷い目に遭ってる兄貴なんてもう見たくないんだよ!」

「…………言ってる意味が良く分からないけど。取り敢えず貴方が居なくなった方が良いんじゃない? だって苦しめたって自覚があるんでしょ? 私は苦しめてないもん」

「アンタが一番苦しめてるんだよ! 私だって悪い。けど貴方だって悪い! 私に居なくなれって言うなら、アンタがお手本になってよ! 周防メアリさん! アンタがもし二度と兄貴に関わらないって言うなら、私だって二度と関わらない。ねえ、だからさ―――」

「言ってる事滅茶苦茶だって分かってる? 私と貴方の行動には何の因果関係も無ければ並行性もない。貴方の言葉を聞き入れなくちゃいけない理由が分からない。どうして?」

「居なくなってほしいから居なくなってほしいって言ってんの! 分かれよ! 今日だけでもいい! 今日だけでいいから兄貴をそっとしておいて! お願いだから!」

「嫌だ」

 葛藤も何もあったもんじゃない。やたらめったら長い問答を挟んだ後でも、メアリの答えはあっさりしていた。


 妹の言葉に思う所など何一つとして存在しない。それどころかお前は的外れな事しか言っていないと。


 問答におけるメアリの発言を要約しただけだが、最後の三文字には正しくそれが凝縮されていた。そこまで簡潔に否定されると、相手は最早言い返せない。

「…………でも」

「でも?」

「―――飽きたから帰る」

「え?」

 え?

 両者の困惑を他所に、メアリは本当に俺の部屋を後にした。足音でも分かる。

「メアリは引き返した様じゃ。もう出て来ても良いぞ」

「あ、ああはい。あの、清華は?」

「そこで状況が理解出来ず呆然としておる。何じゃ、話すのか?」

「いや、まあその―――えっと、命様。取り敢えず俺をベッドから引っ張り出して貰えませんか? お手数をお掛けして申し訳ないんですけど」

「ふむ。少々手荒になるかもしれぬが、文句は受け付けぬぞ」

「構いません。どうせ身体は痛めてます」

 

   

  

後二回投稿します。なので深夜は二話投稿です。



 考察はみててたのしいのでもっとやってくだちい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱメアリと命様の能力が被るのは正解なんですね… で、今回で清華の生存がほぼ確定と、メアリが創太以外の人間を恐らく個人で認識していないことがわかった。と。 いやでもメアリは絢乃の件とい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ