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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 04 曖妹明鏡

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原始的な呪い

もう一回投稿するので深夜か朝に確認するといいよー

 メアリが居る限り俺が被害に晒される事はない。信者共は教祖様の前でだけ良い子であろうとする。最近俺はメアリそのものが嫌いなのか信者が嫌いなのか良く分からなくなってきた。多分両方なのだが、如何せん率先した悪意もない……と思われるメアリよりも、特別扱いされる俺が気に食わなくて仕方ない信者の方が幾分害悪だ。元凶はメアリと言えばそれまでなのだが、だからと言ってこいつらにも責任が無い訳ではない筈だ。

「……はいこれ、創太の分!」

「…………ああ」

「隣座るねッ」

 俺達のバーベキューは串焼き方式だ。貰って来たという事は恐らく一円もかかっておらず、全てご厚意という事になるのだろうが……凄く複雑な気分である。食材は無駄にしたくないし、提供された食材そのものが美味であるだけに悪態も吐けない。ストレスだけが蓄積されていく。

 責めて命様と話せれば気休めにもなっただろうに、メアリが割り込んできたせいでそれも叶わなくなってしまった。

「美味しいね! これッ」

「ああ、そうだな」

 何故割り込んできたか。原因は単純だ。信者達と距離を取って適当な流木に腰掛けていた事が仇になったのである。俺はたとえ表面上でもあのクソ共と仲良くするなんて出来ない。馬が合わない奴と距離を取るのはストレスを抱えずに生きる上で賢い選択の筈だが、それがメアリを招き寄せた。善みたいな悪がそれを許さなかったのだ。

 彼女は全ての人間が分かり合えると信じている。自分がその架け橋になると意気込んでいる。その思想を否定するかの様な行動に絡むのは必然だった。

「私ね、人の心が読めるんだ。創太、まださっきの悪戯気にしてるでしょ」

「あれが悪戯に見えたらお前の眼球は腐って使い物にならないな。現代の医療じゃ無理だろうが、取り換えてこい。なあ、本心話せよ。そうやって他人様から好かれそうな発言ばかりで、俺はお前の本音って奴を何も聞いてないぞ」

 いつもの事だが、コイツと会話していると苛立ちが無限に募る。もし俺を短気で短慮な人間に見えている奴が居るとするなら、それは間違いなくコイツのせいだ。人のせいにだってするさ。実際俺は、コイツが関わらない限りはキレないようにしている。責任は欠片たりとも存在しない。俺は悪くない。


 …………俺以外に、俺の正しさを証明してくれる人間や法はもう存在しないが。


「何言ってるの? 私は嘘を吐いた事なんてないよ?」

 喜怒哀楽。それ以前に存在する快不快。およそあらゆる全ての感情が俺には偽りに思える。こいつ自身から出てきた感情というよりは、何らかの計算によって導き出された機械的なものとしか思えない。根拠は無いが、しかし俺は彼女から出た真の感情、そして表情を知っている。能面のように冷たい無表情。不釣り合いに上がる語尾。

 あれを見た時から薄々勘付いていたが、こいつは人間の皮を被った何かだ。常人のふりをしてさも感情が豊かである様に見せていて、その実中身が伴っていない。自分の感情がある癖に、俺と相対したあの時を除いて、決してそれを見せようとしない。

 ニコニコと微笑みながら串焼きを食べるメアリに向かって、俺は声を荒げた。

「……だから、それが気味悪いんだよ! ……こんなに距離離れてんだから本音で話せよ! あの時みたいに! お前が! 化け物である! その本性を! さっさとこの場で見せて信者共幻滅させてやれよ! 何だテメエはさっきから。ヒーロー気取って俺を助けたつもりか? 俺から家族を奪った癖に! 幸せを奪った癖に! 普通を奪った癖に! 都合が良いんだよ何もかもこの自作自演野郎が! …………やっぱ、お前と仲良くなるなんて無理だよ。俺には」

 それは半分挑発目的で、半分本音。しかしメアリがかつて垣間見せた表情を覗かせる事は無く、代わりにいつもの張り付いた笑顔で俺の肩に手を置き、首を傾げた。

「創太なら出来るよ! 私も一緒に頑張るからさ、ね? 自分に自信を―――」

「うるせえ!」

 我慢の限界だった。たとえ命様に嫌われる事になったとしても、一度殴らずにはいられない。渾身の力を込めて最速の拳を放ったが、メアリはその拳を掴んで止めてみせる。俺との実力差を示すかの如く、手には一切の力が入っていなかった。原理不明の理屈で、俺の怒りはあっけなく止められたのだ。

 未遂とはいえ殴りかかってきた相手に対しても、メアリは張り付いた笑顔で、偽りの慈愛で以て相手に触れる。信者からすれば慈悲深き女神に相違ないだろうが、俺からすれば、只、虫唾が走るだけだった。

「落ち着いて、創太」

「―――もうそんな言葉は聞き飽きたんだよ完璧主義者! お前が垂らした蜘蛛の糸なんて欲しかねえんだよ……二度と、俺を救おうとするんじゃない。俺はお前みたいな奴に救われたくない。それならまだ絶望の底で死んだ方がマシだ」

「それは駄目だよ。創太は幸せにならないと」

「俺の幸せを願うなら放っておけよ! 俺はその方が幸せなんだよ!」

「それは駄目だよ」

「あ?」



「創太が幸せかどうかは、私が決めるんだから♪」



 その。

 何だろう。

 身勝手で、横暴で、底の浅い慈愛を、それでも信者は称賛し見惚れてしまうのだろうか。メアリの理不尽さに慣れている俺でも、その言葉には何と返して良いか分からなかった。呆れて言葉が出ないとも言えるし、それに対する返しが用意出来ていないとも言う。

 当然だが、家族であっても他人は他人。自分の気持ちなど自分にしか分からないし、それは他人も同じだ。だのに、その他人の気持ちさえもそちらが決めてしまうらしい。こんな理不尽な話は無いだろう。俺はどう返せば良いのだ。

 閉口している俺をよそに、メアリの有難いお言葉は続く。

「だからね、創太は私の事を信じて欲しいな! 私が世界を変えるから、安心して生きていてほしいの。以前さ、貴方は周りが敵だらけって言ったよね。貴方の妄想だけどさ、それは。でも仮にそうだったとしても、私は創太の味方だよ。もしかすると、私は創太を幸せにする為だけに生まれてきた存在なのかもしれないね! アハハ!」

「…………殺されたいのか、お前は」

「殺してみる? 死に時なら死ぬよ」

 いざ人を殺そうとすると、手が震える。そして脳が躊躇する。法律も倫理も人間も機能不全に陥った世界。俺にとってこの倫理観こそが、この異常な世界と俺とを分かつ最後の壁だ。人殺しを何とも思わなくなった時、俺はメアリと同じ世界に落ちるだろう。

 忘れたか。俺は決して彼女に屈しない。最後の人類として屈する訳にはいかないのだ。

「創太。強がるのはやめようよ。私の死に時は今じゃない。殺してもいいけど死なないよ?」

「何で死に時が分かるんだよ。お前は神様か何かか?」

「何となくかな!」

 アハハ、と笑うメアリ。俺は彼女の笑顔がこの世で一番嫌いだ。誇張じゃない。この世のどんな汚物よりも醜悪に見える。嫌いだ。不快だ。この世から居なくなってほしい。コイツさえこの世から居なくなってしまえば、世の中はきっと良くなる。

 

 ―――落ち着け。


 俺は命様の信者だ。彼女に胸を張れる信者でなければいけない。感情に身を任せて暴走する俺を見た時、命様はきっと悲しむだろう。怒りに呑まれてはいけない。俺は飽くまで俺のままでなければならない。

「…………でも確かに、あれは悪戯と言うには過激だったよね」

「今更ほじくり返すのか? ついでに眼球もほじくり返してくれると助かるんだが」

「私は全然面白いとは思わなかったな。個人の価値観だから仕方ないけどさ。創太も楽しそうじゃ無かったよね」

「殺されかけて楽しそうな奴はとっくに心がぶっ壊れてんだよ。てめえの信者だクソが!」

「そう。まあ良く言っておくよ、だから創太も忘れてね」

 このやり取りの流れはそのままの意味で既視感がある。記憶には無いが校舎集団投身自殺の時も、流れは大体同じだった。それが気のせいという事もない。投身自殺が起きなければ記憶喪失も起きないし、記憶喪失が起きなければつかささんから助言を貰う事も無かった。

 俺は食い気味に彼女の胸倉を掴み、敵意を剥きだしにして睨みつける。

「お前…………また殺すのか?」

「またって何? 私殺してなんかないよ? でもやっぱり創太は優しいね。大丈夫、誰も死なないよ。少し叱るだけだから、ね? 心配しないで私を信じて」

「どうやって信じろと?」

「んーーーーそうだなあ。聖也君は悩み事があったら私の裸を妄想して気分を落ち着かせてるらしいよ。流石に恥ずかしいから勧めたくないけど。そういう方法もあるからね!」

「てめえの裸で興奮出来るか!」

 心の底から嫌悪しても、メアリは全く意に介さない。そして俺は、全く不思議な話だが、信者共の行く末が心配になってきた。俺を酷い目に遭わせた奴だ。酷い目に遭えばいいとは思っている。だがあの事件を経てどんな目に遭うか考えた時―――不本意ながら心配してしまう。彼等の為ではない。それを目撃した時の俺が心配なだけだ。

 だからこのバーベキューが終わったとしても、気は抜けない。

 周防メアリは気分屋だ。彼女の気分一つで俺以外の全ては変化する。命様とイチャイチャする時間が無くなってしまうかもしれない。そうなったら一大事だ。俺はストレスで死ぬ。生活サイクルを乱され、挙句の果てに塗りつぶされるなんてまっぴらごめんだ。


 俺は串焼きの肉を口に詰めて、嚥下した。どうしよう。どんな手を打てば彼女の凶行は防げるだろうか。

 朝追記   文字数が足りないから昼になります。

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