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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 04 曖妹明鏡

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ああ、愛おしの 前編

割とラブコメしてるんじゃないか今回

 気まずさなどという下らない理由で去ったのは間違いだったかもしれない。次の自販機を発見するに至ったのはそれから十五分後の事だった。

「…………ふう」

 適当に選んだ炭酸飲料を一口。何も考えぬつもりであったが、何故かあの時出会った女性の顔が忘れられない。

「…………」

 メアリの親類という訳ではないだろう。そもそも黒髪だったし。だが不思議な気分を抱かせてくれた。何処か気持ちが明るくなるような、ふわふわとした高揚感を与えてくれた。無条件に何らかの感情を与えるという点ではメアリに似ている。

「……よっしゃ! 頑張って命様が喜びそうなもん探すか!」

 まあこういう事もある。束の間の幸運だ。どうせこの後、何百倍にもなって不運が襲い掛かってくるだろうから、幸運には素直に感謝しておこう。何処の誰とも知らぬ女性のお蔭で、命様の存在ありきでも僅かに気だるげだった気分が、一気に弾けた。

「さて、お土産お土産っと♪」

 心の中では認めたくなかったが、命様と出会わず何らかの形で今の女性と出会っていたら本気で一目ぼれしていただろう。いや、本当に。あの女性には魔性の魅力があった。言葉では説明出来ないのだが―――

 いや、きっと気のせいだ。女性に惹かれたのも全ては俺がメアリ嫌いなせいだ。それ自体後悔した事は一度も無いが、考え物ではある。恋愛経験が高校まで一切ないなんて、ハッキリ言って恋愛に嫌われてるとしか思えないぞ。








「お待たせしました~!」

「遅い! 遅いぞ創太! すっかり待ちくたびれてしもうたわ!」

「二百年だかなんだか一人で過ごしたんですから、たった四十五分くらい我慢してくださいよ」

 とは言いつつ、俺は素直に頭を下げた。神聖さは一ミリも感じられないが、購入した品が捧げものになる以上、その質やセンスには信仰が試される。本気で吟味していたら時間は風のように過ぎてしまった。若干息が切れているのは階段で上がって来たからである。

「あの時とは事情が違うであろう。妾はあの鳥居より内側であれば自由に動ける。だが今は一歩も動けぬ! 拘束されるのは好かん!」

「それは申し訳ございません。次から気を付けます」

「分かれば良い。で、で。どの様な物を見つけたんじゃッ? 妾がこの場で吟味してやろう♪」

 命様はどうやら俺の話を聞いていなかったらしい。ベッドに沈み込んだまま両手を伸ばす命様は、まるで親鳥に餌を求める雛みたいで可愛かった。俺が首飾りを取ると同時に彼女は物理法則を無視した反発力でレジ袋を取ろうとしたが、腕を持ち上げて絶対に届かないようにすると、勢い余って壁をすり抜け隣の部屋へ行ってしまった。

 隣は…………誰の部屋だっけ。メアリ御一行の誰か、だった気がする。

「何をするか!」

 間もなく命様が戻ってくる。意地悪をするなと言わんばかりの目線に対して、俺は注意するように腕で×の字を作った。

「夜に食べようって話じゃないですか。それにもうすぐビーチの方に行かないと遅刻しますし。命様も水着が見たいんでしょう?」

「む…………そうじゃったな。では早う支度せい! 妾はいつでも出発出来るぞッ!」

「そもそも着替えられないじゃないですか! 準備する事なんてないんだからそらそうでしょ!」

「そんな言い方は無いじゃろう! 妾だって俗世の人々が着ている衣は着たいんだよッ? じゃが着れぬ! そのような女子心が掴めぬとは誑しには程遠いのう、お主はッ」

「ほっといてくださいッ。ていうかもう着替えないといけないんで、そっち向いててもらっていいですか?」

「およ? 妾達は共に水浴びをした仲じゃろう。今更何を恥ずかしがる事がある」

「雰囲気の問題なんです! いいからそっち向いててください!」

「妾が脱がしてやろうか?」

「それだけはやめてくださいッ! 海水浴処じゃなくなるんで!」

 クククと命様は楽しそうに笑うが、そればかりは冗談ではない。十中八九俺は興奮するし、それをメアリとその信者の前でどう説明しろというのだ。命様は一般人には見えない。事実としては妄想で興奮したのと同レベルである。

 



















 

「何じゃ、服は着るのか」

「ビーチに着いたら脱ぎますよ。命様、分かってますね? 俺との約束……」

「忘れる筈が無かろう。暫くは亡霊のように佇んでおるよ」

 それを最後の会話として、俺は口を噤んだ。男子は着替えが直ぐに終わるからこうして十五分程度の猶予しかなくとも間に合うが、それでももう少し余裕を持っていけばよかった、と思う。今更だが。

「創太ー! こっちこっちー! こっちだよー! うふふふふッ!」

 遠方からメアリの呼ぶ声がする。俺の視力では全体像しか掴めないが、彼女もしっかりと水着に着替えていた。多分パーカーを上に着ている。信者共も同じだが、男性陣はメアリないしは己の彼女に釘付けになっていた。

 砂浜に足を取られそうになりながらもようやく集合場所(勝手に溜まってるだけ)に辿り着いた。黄泉平山を何往復もしているお蔭で、この程度の不安定な足場では全く疲れない。信者共は良い顔をしなかったが、メアリだけは満面の笑みで俺を出迎えた。

「新しい水着買ったんだねー! かっこいいよ創太ッ!」

「お前に褒められてもあんまり嬉しくないんだが」

 メアリの水着はというと、レース重ねの白いフレアビキニを着ている。パーカーとの境に見えるのはモデルみたいにくびれた腰。ビキニは体型に自信のある女性が着ないと大変な事になってしまうが―――まあ、これだけ完璧な容姿をしておいて自信がない、は嫌味に近い。控えな胸も白いレースが重なっているお蔭でかなり誤魔化されている。公開処刑、とはいかない。

 胸が控えめというだけでそれ以外は完璧なバランスだ。男子達が釘付けになるのも分かる気がする。俺でさえ暫時は頭が真っ白になったのだから。

「お前も…………まあ、似合ってるよ」

「うふふ、ありがとうッ! じゃあ全員揃った事だし、早速ビーチバレーでもしよっか」


「「「「「「「「「賛成!!!」」」」」」」」」


 賛成でも反対でも無いが、これだけの大人数でバレーが成り立つのだろうか。いや、そんな事はどうでもいい。バレーをするというのなら、名案を思い付いた。

「メアリ。ネットは用意してるのか?」

「あ、うん。海の家の人が用意してくれるって!」

「そうか。じゃあコートは俺が書くよ。ついでに得点も俺が数えてやる」

「え、いいの!? でもそれだと創太が入れないんじゃ……」

「お前も分かってないな。得点計算もコート製作も十分参加してる内に入るだろ。それともルール無用でビーチバレーする気か?」

 さも正論っぽく言ってみたが、これなら集団から距離をとっても怪しまれないし、ちゃんと仕事をしてさえ居れば絡まれる事もない。メアリは暫く悩んでいたが、五秒と経たぬ内に頷いた。

「うん、ありがとう! じゃあ一ゲーム頼める?」

「ま、よゆーだな―――所でテントとかはどうしたんだ?」

「あ、それなら―――」

 メアリはテントやパラソルの密集地帯に飛び込むと、その場で大きく手を広げていった。

「この辺り全部そうだから、自由に使ってッ」

 一つ二つのテントやパラソルでこの人数が収まるとは思っていなかったが。

 丸ごと占領とは恐れ入った。

 

 もう一話出します。まあランキングへのお礼みたいなものです。

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