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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 04 曖妹明鏡

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水面に焦がれし夏

 もう一話くらい出そうかなあ

「とうちゃーーーーーーーーーーっく!」

 季節は八月。即ち夏休みだ。俺達学生にとっては色々な意味で分岐点と言っても過言ではない。一月以上も休みがあれば何でも出来る。家でだらけるもよし、友達と共に一夏の思い出を作るもよし、色々な意味で大人の階段を……まあ、個人的に良いんじゃないかと思う。

 俺は今、メアリ達と共に海に来ている。何をするかなどわざわざ聞く奴はいまい。海に来たらする事は一つ。海水浴だ。

 実を言えば全く気が進まないのだが、仕方がない事なのだ。あれは昨日の話だが―――



『創太、海水浴に行こうよ!』

 アイツは家に来るなり、突然そんな事を言ってきた。

『は?』

『行こうッ!』

 ここまで何もかも唐突だといっそ清々しいが、こいつが行きたがる理由は分からないでもない。絢乃さんがまだ生きていた時、アイツは確か水泳の授業で水着を着たがっていた。そして実際にあれは通ってしまった。それ故、何の問題も無く授業が進めばクラスの男子共はメアリや彼女(居れば)の水着姿を見れて満足であったろう。

 だが問題が生じた。記憶は未だに戻らないが、集団投身自殺だ。あれ自体は学校を停止させるには至らなかったものの、死体処理をせずに放置したせいで臭いが大変な事になった。メアリは平然としていたが、肉の腐った臭いは常人に耐えられるものではない。願わくは一度だって嗅ぎたくない。

 彼女が誰かの意見を聞く事などほぼないのだが、しかし無理して学校に行く程彼女も学校好きではないようだ。彼女が引き下がった事で判断は若干正常に戻った。夏休みと被ったのはタイミングが良かったかもしれない。俺達の学校は、現在休校状態にある。 

『今年はプールで良いかなって思ったんだけど、学校は死体処理でそれ処じゃないでしょ。このままじゃ新しい水着を着る機会が無くなっちゃうしさ、ね、創太も私の水着見たいでしょ?』

『全然。ていうか勝手に―――』

 いつもみたいに軽くあしらおうとしたが、そんな時俺はつかささんとの会話を思い出した。俺が関わらなければ彼女は『普通』のままだ。完璧で完全な少女から一切の変化をしない。周防メアリを打倒するつもりならば、まず俺がそれを剥がさなければならない。

 とはいえ、夏休みの全てを命様に捧げるつもりだった俺としては、やはり気が進まない。メアリ打倒と命様との二人きりの生活、どちらが大事かと言われると…………悩んだ。

『分かった。お前の水着に興味は無いが、たまには思い出でも作らないとな。ただ、今すぐはやめろ。明日だ。明日にしてくれ』

『うん、いいよッ。でも創太なら一回くらい断ると思ったのに、どうかしたの?』

『詮索すんな。ともかく明日だ。じゃあな、さっさと帰れ』

『はーい』


 

 折衷案を取ったつもりだ。たった一日されど一日。夏休み早々に過ごすのが命様ではなくメアリとは何かの拷問に違いない。二人きりじゃない事が不幸中の幸い……かもしれない

「ホテル取ったんだっけか。タダで」

「うん。支配人の人とお話したら、お金は要らないって言うからさ! 隣町の人ってとっても優しいよねッ」

「そーだなーとってもやさしーなー」

 この程度の異常は最早特筆するに値しない。十中八九メアリはお金を払うという概念を知らないのだろう。何せ喋るだけでタダになる。俺だってそうなるのなら鐚一文も渡さないし、無理もないが…………

「だけどここ、高級ホテルだろ? 上二階丸ごと占拠ってのはどうなんだ? 他人様に迷惑かけてんじゃねえのか?」

「ちゃんと全員から許可取ったから心配しないで! じゃあ皆、行こー!」


「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」


 団体客と呼ぶには多すぎる人数がホテルに突入。周囲から人が居なくなったのを確認して、俺は身を翻した。

「着きましたよ命様。ここが隣町です」

  











 

 何故わざわざ俺が明日に予定を遅らせたか。それは命様を連れて行く為である。体育祭では茜さんを誘ったし、別段恥ずかしい事ではない。どうせこのままでは只の拷問だ。耐え抜くには辛さを緩和する何かが必要となる。俺にとってはその何かこそが彼女だった。


『え、隣町か? 行く行く、妾も行くぞ! 現世巡りの続きじゃ! ククク、楽しくなってきたのう、創太ッ』


 神社からご神体そのものを持っていく事も考えたが、流石に重すぎた。なのでいつかの現世巡りみたいに、俺は勾玉の首飾りをかけている。

「ほほう。これが俗世の街並み……お、あれは何じゃ?」

「ビルですね。そしてここがホテルです。昔の言い方をすれば宿屋ですね」

「これが宿屋かッ? 妾の知る宿も大概大きいが、時代が変われば大きさも変わるものじゃのう。とても木造には見えぬぞ」

「どう見ても木造じゃないでしょうが。それより命様、俺との約束覚えてますか?」

 その一、可視の存在と会話中は割り込まない。

 そのニ、注目されている状況で俺の身体に触らない。

 たったこれだけなので忘れる筈がないし、忘れたとしても悪意が無ければ破られるものではない。命様は勢いよく胸に手を張って頷いた。黒の振袖がはためくが、道行く人々には当然気付かれない。

「妾を何だと心得ておる! あれは忘れもせぬ数千年前―――」

「俺何歳ですかッ?」

「冗談じゃ。お主のような敬虔な信者との約束を破る筈なかろう。それにほてるとやらでは、個室なのであろう? そこでたんと過ごせる事を考えれば、僅かな我慢じゃ。うむ、では行こうか。あの者に心配されても厄介であろう」

 それもそうだ。アイツは何をするか分からない。『心配だから同じ部屋に居るよ』と言われた日には、命様との時間を全て奪われる。少々早足で自動ドアを通過。エントランスはメアリ様御一行のせいでかなり人が居る印象だ。そうでない人物もメアリの美しさに目を奪われ、足が止まっている。

 邪魔だ。

「流石は現人神、と言った所かの。人種を問わず魅了しておる。まるで本来の妾じゃ」

「命様の全盛期もこんな感じだったんですか?」

「山に縛られてはいたがの。何百もの信者が妾を崇め奉っておった。その頃はお主のように妾の姿が見える者も数多く居たが……過去を想起させる光景を見ると、やはり新たな信者を求めてしまうのう」

「俺一人じゃ全盛期には程遠いですものね」

「うむ! じゃがお主がどうでも良いという訳でもない―――大好きじゃぞ?」

 命様は悪戯っぽく笑う。尊い以外の感情が沸き上がってこない。俺は彼女の笑顔を見る為だけに生まれて来たんだと。この力を持って生まれたのだと。間違いなく信じられる。自らが示した約束の手前破る訳にはいかないが、許されるなら今すぐにでも命様に抱き付きたい。

 彼女の前では俺も、母親に甘える子供同然だ。命様と触れ合っているだけで俺にとっては無上の喜びに等しい。

「……嬉しいですけど! い、弄らないで下さいよ」

「ククク。照れておるのか? やはりお主を弄るのは面白くてやめられぬ。二人きりになった時が楽しみじゃなあ♪」

「……なんか、不安になってきました」

「ほう、そうか。ではやめるか?」

「ぜひ弄ってくださ…………あッ。ちが―――何言わせるんですかッ」

「ククク♪」

 上機嫌なのは良い事だが、こういう弄りがエスカレートするとどうなるかは想像に難くない。声は極力抑え込んだつもりだが―――良かった。周囲の人間はメアリに釘付けで俺処ではない。大丈夫そうだ。

「有難うございますッ! みんなー! この人数だとエレベーターが止まっちゃうから、階段を使ってね。押し合っちゃ駄目だよ? じゃあ一時間後にビーチ集合ねッ」

 教祖様の指示に信徒共は忠実だ。高級ホテルの階段が幾ら広々としていても、あれだけ人数が居ると狭苦しく思える。俺にはあんなごちゃごちゃした人波に揉まれてまで個室に行きたいという気持ちは無い。

 あの波が過ぎてから行こう、と心に決め込み命様と二人で棒立ちしていると、同じく取り残されたメアリが駆け寄ってくる。

「私達はエレベーターで行こ!」

「え? アイツ等には階段で行けって言ったのにか」

「創太だって早く自分の部屋行きたいでしょ? ほら早く早く!」

 拒絶する理由は無いので、されるがままに引っ張られ、エレベーターの中へ。彼女がボタンを押すと同時に、自動ドアが閉まった。

 二人きりの気まずい空間……と言いたいが、命様が観光名所の顔出し看板みたいに自動ドアからひょこっと顔を覗かせているものだから面白くて仕方がない。笑いをこらえるのに必死だった。

「ねえ、創太」

「ん?」

「今日はありがと! 何があったのか知らないけど、創太と一緒に海水浴に行けて私嬉しいよッ!」

「気まぐれだ。気にするなよ」

「―――私の事を嫌いって言う割には、優しいね?」

「嫌いなのは感情で、優しいのは性根だ。お前にだけって訳じゃないから、勘違いするなよ―――」


 バンッ!


 メアリの顔が鼻先まで近づいた。互いの息が掛かる程、互いの視線がどうやっても外せぬ程の至近距離。これが俗にいう壁ドンか。顔を挟むように両手を突かれているせいで、彼女の吐息から逃れられない。

「私、創太とだったらもっと楽しい思い出……作りたいな。大切な友達との大切な思い出だもん。創太はどう? 私と一生の思い出作りたい?」  

「……何が言いたいんだよ。大体一生の思い出って言うなら、お前と過ごした日々は一日たりとも忘れた事はねえよ」

 人はネガティブな感情程よく覚えている。いじめられっ子が虐められた記憶をいつまでも引き摺っているように。嫌味で言ったつもりだったが、メアリは顔を真っ赤にして固まっていた。

「そ………………そうなの?」

「自分のした事分かっておいてよくもそんな口が叩けるな。もうすぐ扉が開くぞ。他の奴等にこんな場面見られたらどうする」

 メアリは珍しく忠告を聞き入れてくれたようで、直ぐに俺から離れた。お蔭で信者共に誤解を招く恐れはなくなったが、壁ドンなんて初めてされたからとてもドキドキする。恋慕ではなく、恐怖として。

「―――良かった」

「は?」




「何もかも、順調だからさ」  

 という訳で曖昧明鏡の始まり始まり。

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[気になる点] 隣町...プール...ホテル...Σ(゜ロ゜;!)ハッ!
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