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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 03 群痛殺人

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命知らずな遊びは程々に

 ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー!



「うるせえ!」

 俺の睡眠を邪魔する奴がメアリや清華以外にまだいたとは思わなかった。何らかの緊急速報……いや、窓は揺れていないし、地面も揺れていない。これは一体何の警報だ! 

 ……と思ったら、アラームだった。初めて音を聞いたものだからつい動揺してしまったが―――待て。碌に眠れない俺がどうしてアラームをセットしなけりゃならない。前述したように俺は初めてアラームを聞いたのだ。考えられる原因は一つだけ。俺が眠っている間に誰かがアラームをセットしたとしか考えられない。

 携帯にはパスワードをつけているのだが、どうやって破ったのだろうか。あまりにも煩いので一刻も早くアラームを解除せんとホーム画面を開くと、メッセージアプリから通知が届いた。メアリからだ。


『これ見て~(*'ω'*)』


 顔文字が腹立つ。

 こいつとの個人チャットには動画が添付されており、どうやらそれを見て欲しいという事らしい。普段の俺でなくても無視するのだが、開始地点が異様だ。恐らくこの動画は校門から屋上を撮影しているのだろうが、男女問わず何十人と一列に並んでいる。並びきれない人数は後ろで同じ列を作って待機していた。

「…………何だ、これ」

 屋上で合唱でもするつもりか。だがそんな動画を俺に送り付ける意味が分からない。わざわざ叩き起こして見せるものが合唱だった日には罵られるのを承知でアイツをぶん殴りに行くだろう。そうは思いつつも、動画から発せられる奇妙な魔力に引き寄せられ、いつの間にか俺の指は動画開始ボタンを押していた。




 カメラが反転。メアリの顔がドアップされる。

「あ、創太ッ? おはよう、この動画見てる? んーとね、実は聞いて欲しい言葉があるんだよね。朝早いと思うけど、聞いてあげて!」

 再びカメラが反転。動画開始地点と同じアングルになる。

「「「「僕達/私達は、四季咲絢乃を殺してしまいました。集団で暴行を働いてしまいました。檜木創太君には心からのお詫び申し上げます!」」」」

「はーい! じゃあみんあ飛び降りて!」

 メアリの号令と共に最前列の男女が飛び降りる。カメラの死角にあるせいで落下直後の姿は見えないが、学校程度の高さから降りてもバラバラにはなるまい。多分。

「あ、動ける人はもう一回並んで降りてねー。はい次の人ー!」

 とてもとても直視出来なかった。一人の投身自殺を見ても常人には多大なダメージが残るというのに、この動画はそれだけ衝撃的な行為を誰一人として躊躇せず、誰一人として文句を言わずこなしているのだから。足が使える限りは階段を上り、足が使えなくなるのなら後列に居る人間が止めを刺す。

 メアリの言葉から、その様な風景が脳裏に浮かんでくる。死に時とか最早関係ない。これはやたらと手間のかかった集団自殺だ。死ぬまで繰り返される投身には当たり前だが死に時も何もない。死ぬまでやるのだから死なない限り続くのは当然である。

「今から私も屋上あがるから、続けてねー」

 あろうことか、メアリは人間の雨がふりしきる中を淡々と進み続けた。俺の精神を僅か短時間の内にノックアウトしてのけた光景を彼女は何とも思っていない。何事も無く昇降口を過ぎ、五段飛ばしで階段を駆け上がる。

 

 ―――まさかこいつも飛び降りるのか!?

 

 見たくないが、見たかった。僅か一言の矛盾だが、本当にそう思ったのだから仕方がない。最低だとか屑だとか死ねよだとか罵られても、それでもメアリが居なくなってくれるなら、これに過ぎる喜びは無い。

 メアリが屋上に到着した時、人の列は存在していなかった。メアリはとても嬉しそうに声をあげた。

「おっけー! みんなありがとねー! 動ける人は帰っていいよー!」

 こいつは自分の身分を分かって物を言っているのだろうか。人の生死を簡単に決める権利がたかだか人間様でしかない奴の何処にあるのだ。再びカメラが反転、メアリの笑顔が気持ち悪い。

「という訳で創太。これで許してあげてね。創太も蒸し返さないでね。みんな反省してるんだからさ」

 

 シークバーから読むに、動画はもうすぐ終了する。最後にカメラが翻った時、俺は言葉を失った。校庭に掘られた穴に血や肉片、人間そのものが溜まる事で、俯瞰して見ると赤文字として成立していたのだ。

『ごめんなさい』という謝罪が。














  

  


 ―――合成だよな?

 俺がそう思ったのには訳がある。この世で何よりの非現実はメアリの存在だが、まあそれはいいとして、アイツが人間の降る中を進んでいたという所だ。普通に考えて、あれだけの人数が無差別に飛び降りていたらメアリも避けなければなるまい。だが動画では一度もそんなそぶりを見せなかったし、飛び降りた生徒がカメラを横切るという事もなかった。

 直ぐに確認しようとも考えたが、もし現実だったらという認識が邪魔をして、結局本来の時間帯になるまで俺は動けなかった。分かる人には分かるだろう。もし本当だったらという想定は、時に先んじて現実を体感する。心が自殺を考えた時、自然と涙する様に。俺は否定したい気持ちと同じくらい、この動画を信じている。

 仮にこの動画をネットに流した場合、有識者ぶったユーザーから『合成乙』『デマ乙』と言われるのが精々だろう。だって俺もそう思う。流石に信じられない。人は己の許容量を超える現実を突きつけられた時、実際の真偽はさておきあり得ないと言ってしまうものだ。見える世界だけが全てではない。それは俺が一番良く分かっているのに。分かっていた筈なのに。

 もし合成なら、それでも良い。メアリが性質の悪い奴だという証拠を握ったも同然だ。いつか使えるかもしれない。だがもし……いや、もしなんて無い。あり得ないと信じたい。

「…………はあ、はあ。ん?」

 ペースを考えず走ったせいで息が乱れた。一度整えようと大きく足を開いて下向きに呼吸を繰り返す。ふと顔を上げると、向こう側から来た男子生徒が校門を通過する光景が映った。屋上はここからでも見えるが、誰も居ない。動画でも終いには空っぽだった。これだけでは真偽を図れない。


 ―――行かないと。


 直ぐに息を整えて、学校手前の坂を駆け上がる。校門まで来れば石垣越しに真偽がハッキリとする。それさえ分かれば良い。それさえ分かれば今日は登校しなくても良い。

「はーい! それじゃあ一列に並んで~!」

 屋上から聞こえる透き通った声。この世の穢れを欠片とも知らぬ美しい声。メアリだ。俺にとってはこの世のどんな音よりも耳障りなクソミソ声。足を止めて屋上を見遣ると、彼女に連れられてきた教員達が動画と同じように縁へ並んだ。

「メアリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」

「あ、創太! おはよー!」

 腹の底から沸き立つ憎悪を言葉に叫ぶと、彼女は直ぐに気付いて手を振ってきた。同じ土俵に居る気がしなくて調子が崩されそうになったが、アイツと調子が合わないのはいつもの事だと持ち直した。

「お前、何してんだああああああああああああああああああ!」

「何って、動画見てくれたでしょ? 既読ついてたし。あれで終わらせるつもりだったんだけどさ、先生達がどうしても教え子の非を詫びたいって聞かなくて。また動画にするつもりだったけどいっか。見ててねー!」

「ちょ―――はあ!? お、お前待て! 待て待て! もう謝罪は良いから、十分だから! 先生! やめてくださいよ!」

「先生、準備は良いですか? それでは行きましょう―――!」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 

 全速力も空しく、校庭の真ん中付近で俺の意識は途絶えた。   


 メアリが直接手を出してる訳じゃなく、飽くまで自主的なのです。

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