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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 01 欺心暗鬼
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学び舎にて輝く女神様

古戦場勝利記念

「遅ーい! 創太を待ってたら学校に遅れちゃいそうだよ!」

「じゃあさっさと行けよ。待つな」

「そういう訳にはいかないよ。創太は中学校の時、何度も遅刻で怒られてたから。また反省文で残されるの嫌でしょ?」

 メアリに見透かされているみたいで癪だが、反省文はマジで嫌だ。普通の反省文なら家にも帰らないで済むし大歓迎なのだが、俺の通った学校はどこもかしこも気が狂っており、反省文のついでにメアリの長所を書かせるのだ。まあ遅刻の原因が『メアリに会いたくなかったが家族に行かされた』と正直に言った俺も俺だが、だからってどうして長所を書かせるのだ。他の奴等は『こんな簡単な課題は中々無い』と笑っていたが、俺には難しいとかそれ以前の問題で、書けなかった。

 苦手な人でも長所に目を向ければ苦手じゃなくなる、なんて綺麗事だ。確かにメアリの長所を書くのは簡単かもしれないが、俺はその長所が何より嫌いなのだ。嫌いな点をわざわざ書きあげるなんて俺には出来ない。五時間かかった末に何も書けなかったので、隙を突いて脱出しその時は終わらせた。

「嫌だが、お前と一緒に登校するのはもっと嫌だ。迷惑かけるのも嫌だし、俺の事なんか気にせず登校しろ」

「どうして創太はそんなにツンツンしてるの?」

「お前が嫌いだからだ」

「私は創太の事そこまで嫌いじゃないんだけどなッ!」

「むしろ嫌われる様な事しかした覚えがないんだが」

「創太が優しい事は知ってるよ?」

「俺が優しい訳無いだろ。あんまりいい加減な事言うと殴るぞ」


「殴れば?」


 メアリは後ろ手を組みながら、笑みを絶やさない。

「それで創太の気が済むなら、殴っても良いよッ」

「―――気は確かか?」

「冗談でこんな事言うような私じゃないのは知ってるでしょ? それで、どうするの?」

 俺の言いたい事が分からない奴にこの発言を録画して聞かせてやってもいいかもしれない。殴ると言われて『いいよ』と答える奴が一体何処に居る。これだからコイツと話していると鳥肌が立って仕方ない。何度でも言わせてもらうが、やはり人間と話している気はしない。

 これ以上話していても時間の無駄なので、俺は説明もせずに親から受け取った弁当を彼女に投げ渡して、学校までノンストップで駆け出した。

「あ、創太! 待ってよ!」

 誰が待つか阿呆らしい。アイツが待っていたからと言って俺まで待つ道理はない。それこそ本当に遅刻する。朝食が出なかったせいで体全体に力が入らないが、多分何とかなる。

「待ってって言ってるのに!」

 などと言いつつ、もう追いついてきた。不意を突いたからと、女子だからと侮ってはいけない。メアリは校内で一番身体能力が高いのだ。三〇メートル程度の先手を取ってもすぐに追いつかれる。中学の時は陸上部でさえ彼女に敵わなかった。

「来るんじゃねえよ!」

「いや、来るよッ? だって学校に行くんだもん!」

「じゃあさっさと行け! 何で俺と並走してんだよ!」

「私はいつでも間に合うからいいんだよ! それよりも創太、もっと早く走らないと間に合わないよッ?」

 遅くて当然だ。体に力が入っていない。むしろ力が入らないなりに俺は全力で走っている。しかしその速さは夢の中で走っている時よりは早いくらいだ。遅いと言われても仕方がない。

 不意にメアリが俺の前に飛び出してきた。

「もう、仕方ないな! ほら、行くよッ!」

「うわ、ちょっ―――!」

 彼女に手を掴まれた瞬間、俺の速度は限界を超えた。







 仮にも俺は高校生だが、それを引っ張って始業時間に間に合わせるとは何事か。転べばひょっとしたら置き去りにしてくれたかもしれないが、痛いのは嫌だった。足をもたつかせながらも引っ張られ続け、ようやく手が離された時、俺は校門前広場に立っていた。

「ほら、着いたよ。行こう!」

「お前……はあ…………はあ。勝手に行けって…………言ってんのにさあ……!」

「そういう訳には行かないよ。友達が怒られる姿なんて見たくないし」

「勝手に友達認定するんじゃ……ねえよ! 俺とお前が友達だった事なんて…………一回もない! 分かったら……さっさと行けよ!」

 どの道息切れだ。脇腹も痛いので動きたくない。メアリの事は大嫌いだがこんな事で迷惑を掛けるのも嫌なので、俺の為を思うならマジでさっさと行ってほしい。ここで見放された所で今更嫌ったりなんかしない。もうとっくの昔に彼女への好感度は地底をぶち抜いて神も知らぬ虚の底へと落ちている。

 移動したくないと意思を表す様にその場に座り込むと、メアリも噴水の縁に座り、動かなくなってしまった。

「…………な、何してんだ?」

「一緒に遅刻するよ」

「は? そんな事される義理はないんだが」

「いいよ、気にしないで。どうせなら一緒に遅刻しようよ」

「…………怒られても、知らねえぞ」















 

 もう許せねえ。

 ほんの少し見直そうかと思わなくも無かったが前言撤回だ。いや、元々見直す気は無かった。どうせそうなると心の何処かで分かっていたが案の定だ。

 確かに俺とメアリは遅刻したが、怒られたのは俺だけだ。曰く『メアリは確かに遅刻したが、それはもとはと言えばお前が遅刻したからであり、彼女に一切の落ち度はない』そうな。


 いやいやいやいや。


 落ち度しかないだろう。俺が行くなと言って、むりやり彼女を拘束したなら話は分かるが、事実は逆だ。俺は何度も行けと言った。行ったのに彼女は行かなかった。それを遅刻の落ち度として何と言う。何故俺だけが怒られなければならない。

「おい、知ってるか? あいつメアリの評価を落としたいが為にさ、わざと遅刻したって」

「え? どういう事よ」

「メアリの優しさに付け込んだんだよ。マジで最低だよな。人間の屑ってああいう奴を言うんだぜ」

 ふざけんじゃねえよ。

 直接口に出すのも良いが、こういう場合に切れれば逆効果だ。所詮は陰口を叩く事しか出来ない小心者だ。落ち着け、落ち着くんだ。

「ああいう男とは絶対仲良くなりたくないよねー。マジしんどそうだし、束縛してきそうだし」

「分かる―! あいつって如何にも彼女とか大切にしなさそうだよねー! メアリちゃんも良くあんな奴の為に遅刻出来るよね。私だったら無理だわー」


「「キャハハハハハハ!」」


 今だけでいい。どうかこの発言を赦して貰いたい。

「帰りたい…………!」

 高校生活は二日目から早くも地獄の様相を呈しているが、残念ながら帰る事は出来ない。配布物が色々あるし、部活見学もしなければならない。放課後まで予定が詰め込まれている状況で帰る奴は馬鹿だ。

 馬鹿で良いから帰らせてくれ。

 俺は一刻も早く命様に会いたいのだ。

「おい皆、席に着け。今日は上級生とのレクリエーションだからな。体育館に移動するから、上履き忘れんなよ?」

 考えられる限り最悪の行事だ。メアリを知らない人とだったらワンチャンス仲良くなれると思ったのに、上級生と交流しなければならない時点で、そんな細やかな希望は潰えてしまった。メアリが嫌いというだけで、高校生活をまともに過ごす事も許されないのだろうか。この街はどうかしている。いや、どうかしているのはメアリの方だ。

 嫌われている奴に構えば普通は同じように嫌われる。それが嫌な人が多く居るからイジメの構造は成立するのに、メアリだけは何故か構造の外に居る。だからこそ周りにどれだけ嫌われても彼女だけは俺に構う。気持ち悪いくらいに。

 それにしても、レクリエーションか。




 体育館の端にでも行って、目立たない様にしておこう。

 

          

 最近不意に意識が途切れる様になった。

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