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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 10 時律背反

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花心創惚の試練

 まるで俺一人のみを歓迎するかの如く、入り口が自動的に閉鎖された。いつの間にか背後には何重にも撒かれた鎖と鉄板が見事に扉を塞いでいる。突貫工事も甚だしい雑な塞ぎ方に見えるが、音も無く過程もすっ飛ばして塞いだと考えると恐ろしい。何としてでも俺を逃がさないという強い意志を感じる。空花が一緒に入っていたらどうなっていたのだろうか。

 尤も、入ったのは俺一人だし逃げるつもりはない。曰く、次に会った時には消すつもりらしいので、どちらにしても一発勝負になる。セーブとかロードとかそういう都合の良い機能は無い。使うとしたらメアリが使う。

 足音の反響に耳を澄ませながら歩いていると、壁一面に大きな文字が記されていた。


『貴方にとって理想の私は?』


 今更だが、この塔は『メアリ』になっていないらしい。文字を見たのが随分久しぶりに思えてくる。読み終えたと同時に壁の中心に大きな亀裂が入り、崩れ去った。


『創太~!』

『早く来なさい、良いから』

『…………』

『こっちこっち。案内するよ』


 奥の部屋は樹木園になっており、その真ん中にメアリ四人。左からかつてのメアリ、高圧的なメアリ、無言メアリ、親切なメアリ。壁の文字をそのまま鵜呑みにするならこの中から理想のメアリを選ぶらしいが、選んだ所で何があるのだろう。

 四人に接近して違いを探してみる。

「お前等、メアリか?」


『そうだよ! あれ、忘れちゃったの?』

『私がメアリ以外の何だって言うの? 忘れたなんて言わせないわよ』

『………………ぅん』

『変な事聞かないでよッ。本当のメアリだって』

 

 鬼妖眼には何の変化も無い。全員本物ではある様だ。ではどうやって偽物を見分ければ良いのかを考えた所で、今回の趣旨を思い出した。そう、本物ないしは偽物を見分けるのが今回の目的ではない。『貴方にとって理想のメアリ』を探す事こそがそうだ。

「……お前、もう限界なんだな」

 あの日記を視なければ、俺をおちょくりたいだけだと思っていたかもしれない。だが違う。メアリは……好かれる自分が分からなくなっているだけなのだ。嫌わせる為だけに人生を費やし、その一方で嫌われている事実に傷ついて―――多分、メアリの人格は破綻しかけている。人はそれを歪みと呼ぶ。

 全ては推測に過ぎないと言われればそれまでだが、この珍妙な行動の趣旨はメアリの本心が影響しているのではないだろうか。言葉にすればややこしくもあるが、嫌わせなければならない俺に好きになって欲しいから、こんな茶番を始めたのではと。

 しかし嫌われる努力をし続けたせいで彼女には俺の理想が分からない。だから俺に決めて欲しいのではないだろうか。

「………………なあメアリ。お前、自分のした事分かってねえだろ。もしここで選んだ性格になったとしても、俺はお前が大嫌いだ。こんなゲームするだけ無意味だ」


『……何を言ってるの?』

『アンタ馬鹿なの? え、っていうか人の話聞けないタイプ?』

『………………』

『無意味ってどうして分かるのッ。無意味じゃないかもしれないでしょ!」

 

「分かるよ。俺はお前の事を何も分かってなかったけど、これが無意味だってのは分かる。外側変えたって駄目だ。俺は『お前』を見て嫌いだって言ってるんだからな」

 返答を待たずして俺は言葉を続けた。

「出会った時からお前に感じてたあの妙な嫌悪感。あれの正体、ようやく分かったよ。確証が無かったから黙ってたけど、この状況に置かれてようやく確信が持てた。つかさ先生は脳を改造してるとか何とか合理的観点から言ってたが、分析は一方向からじゃ出来ない。複数の観点から見て総合的に結論を出す必要がある。お前、対峙した人間に合わせて最適な人格を作ってるんじゃないか?」

 それはいわば鏡。相手に対して最も相性が良い人格をその都度作っているのなら万人に好かれるという不可解な論理にも説明がつく。何も表層に出す必要はない。人の無意識にのみ干渉し、人格を見せればいい。他人の脳を無断で改造出来る奴に出来ないとは言わせない。

 そしてそれこそ嫌悪感の根源。鬼妖眼を持つ俺からすれば全てがメアリ本人であり、同時に彼女が隠していた本来の人格も見える。それは俺にとって相性最悪な性格と、最高な性格と、そうでもない性格を一度に見せられるのと同義であり、その全員が『周防メアリ』一人に集約されていたから俺は気持ち悪がっていたのだ。

 人間味を感じないのもそう。纏まる筈のない即席の人格が集っているだけのものに中身を感じる筈がない。本来の人格は破綻しかけているし。

「正解とか不正解は言う必要ないぞ。ただな、お前はお前だ。理想も糞もない。周防メアリはこの世界に一人だけ。莢さんの主人で、對我さんの妹で、俺の同級生。天畧のせいで理想を追求しなくちゃいけなかったのは分かるが、作ってどうなる。なりきってどうなる。理想を追い求めても現実のお前が傷つくだけだ」



「…………聞きたく、ない」



 瞬きの瞬間、四人のメアリが消失。声は部屋全体から聞こえるが、その生気を感じない声は紛れも無く周防メアリだ。

「お前、自分でも分かってるんじゃないのか? 分かってないならとんだ大馬鹿野郎だ。神の力なんて使っても空しいだけ、お前は決して満たされないし、至上の美にも辿り着かない。お前はずっと救われない。俺が寿命で死んでも、今の赤ちゃんが老人になっても、この国が滅んでも。お前がそうあり続ける限りな」



「酷い事……言わないで」



「……お前の目的は散々聞かされたよ。自分でも考えたりしたよ。どれが正解なのかは分からないけどさ……もうお前、自分でも止まり方が分からなくなってるんじゃないのか? だから俺に止めて欲しいんじゃないのか? じゃなきゃヒントなんか置かない。外国にでも籠ってればこっちには打つ手なしだ。なのにお前はこのタワーに居続けた。本当の気持ちを聞かせろよ。お前は―――」



「聞きたくない! キライキライキライ!」



 刹那、塔全体を揺るがす大地震。

 天井の罅に気を取られた瞬間、樹木園の木々が次々に倒壊。一番大きな木が地に叩きつけられると共に全方位に地割れが全方位に発生。

「うおおお……」

 体感での揺れは記録的大地震にも引けを取らない。重心も整わない内に左右へ身体を揺さぶられる以上、俺はその場に這いつくばる事しか出来なかった。たとえ地割れが広がり、正に俺を呑みこまんとしていても―――

「う゛わあああああああああああああ!」

 こちらに広がった地割れは不自然なくらい素早く広がり、有無を言わさず俺を呑みこんだ。 

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