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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 01 欺心暗鬼
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彼女の手は穢れなき救世の手

これだけを投稿しておく事で、他の作品の投稿を誤魔化していくスタイル。実はまだ致命的なミスが改善で来てません。投稿はそうですね。後数時間くらい掛かりますかね。

「……ッチ」


 甚だ不本意だ。


 集団リンチを喰らう覚悟でぼろくそに言ってやった。当然信者共は怒ったし、下手すれば殺される危険性すらあった。死ぬのが怖くないとは言わないが、言いたい事は言ったので悔いは無かった―――のだが、そんな俺に手を差し伸べた奴が居た。


 メアリだ。

 

『みんな、待って!』

 あれだけぼろくそに貶したから、流石に擁護されないだろうと思っていたが、考えが甘かった。十一年間付き合ってきて何だが、俺の見通しは全然甘かったのだ。周防メアリという人物を嫌い過ぎるあまり、俺は彼女を正当に評価出来ていなかった。嫌いな人物に対する認識はともすれば歪みがちだ。彼女の発言を聞いて、俺はそれを痛感した。


『創太の言いたい事、私分かるよ。確かにそうだよね、学校でとやかく言っても仕方ない。それで二人を見つけられる保障なんて無いもんね』

『は?』

『そうだよね、学校で勉強する事も大事だよね。私達はここで勉強をしたいから入学したんだ。気づかせてくれて有難う創太! メリーさんの捜索は放課後になってから改めて声を掛ける事にするッ。創太ってばやっぱり優しいねッ』

『……は?』

『じゃあ皆、一旦解散しよう! 先生も早く職員室へッ。HRの時間が後ろにずれこんだら大変ですよね? あ、創太もメリーさん探しに協力してね』


 もう何を言うべきか、語彙が見つからなくなってしまった。頭がお花畑とかそういう次元じゃない。かといってポジティブという次元は遥かに超えた勘違いをしている。一切悪口に触れないのもそうだが、もしかするとメアリは、悪口が認識出来ないのか? それとも檜木創太は口が悪いだけで優しい人間だと、本気で信じ込んでいるのか? 流石に少し反省しているが、俺はアイツを殴った事もあるんだぞ?

 教祖を馬鹿にされた信者は殺意を剥き出しにしてきたが、その教祖が庇ったともなれば手を出す訳にはいかない。その場に座り込む俺に再度危害を加えようとする奴は居なかった。罵声を浴びせる奴も居なかった。まるでメアリの意識が共有されているかのように、校門前に集っていた人々は黙って各自の教室へと向かっていった。


『メアリちゃんが優しくて良かったな』


 一人そんな事を言ってきた奴が居たが、俺は全く感謝していない。誰のせいでこんな事になったと思っているんだ。一回くらい助けられた程度で掌を返す程俺は軽い男じゃない。今まで受けた仕打ちの全てを覚えてるくらい陰湿でねちっこい男なのだ。そして誰に何と言われようと、俺は彼女を嫌い続ける。

「当然の様に俺が協力するみたいにするのやめてくんねえかな。俺、絶対協力しねえぞ」

 放課後は命様と過ごす事にしている。これはメンタルケアの観点から見れば最善策に他ならない。自己肯定感が皆無に等しい俺にとって、命様は代わりに俺を肯定してくれるから必要な存在なのだ。勿論、この十一年間で培われた自己肯定感の無さはそう簡単には埋まらない。他人が代理を務めた所でそれは同じだ。しかし信用出来ない人間ならばいざ知らず、命様は心を見透かす神様だ。俺以上に俺を理解してくれている神様の存在は、辛うじて自己肯定感の向上に貢献している―――

「俺を理解…………か」

 そう言えば『視る力』の本質について教えてくれたメリーさん……茜さんはどうしているだろうか。都市伝説として振り回される事から解放されて、彼女は(性別は分からないが、声が女性っぽいので便宜上女性という事にしておく)とても喜んでいたが、その彼女が翌日に事件の渦中に居るというのもおかしな話だ。わざわざ俺に感謝しに来たくらいだから、よっぽど『メリーさん』として振舞うのに疲れていたのだろう。あれを知っていると、とても彼女が犯人とは思えない。

「まあメアリに協力は絶対しないが、せっかく解放された茜さんに迷惑が掛かるってのもちょっと考え物だよなあ」

 茜さんとはあれっきりの仲だが、袖振り合うも多生の縁とも言う。用が無ければ二度と会うつもりはなかったが、『視える』者として、話を聞きに行くくらいはした方がいいかもしれない。もし関わっていないのなら、不当にメリーさんの立場を利用している存在が居るという事になる。

 命様の事も見逃してくれたし、茜さんは通常の怪異とは明らかに何かが違う。現に仲間外れにされている状態だからか、俺はどうにもそういう『特別』な存在に親近感がわいて仕方ない。メアリは例外。

「後で命様に相談しに行こうかな……」

 視える事に違いは無いが、視えるだけだ。居る場所に心当たりが無ければ視えていても見つからないものは見つからない。この事件に首を突っ込もうというのなら、遅かれ早かれ命様の手助けは必要になるだろう。

 よし、決めた。

 本当は勝手にしてくれと言いたい所だが、知人が巻き込まれているから仕方ない。彼女の言う事に従ったみたいで業腹だが、今回ばかりはちゃんと足を突っ込ませてもらう。

 ただしメアリ側ではなく、真相がどうあれ俺は元メリーさんこと茜さんの味方だ。助ける理由は色々あるが―――俺らしい理屈を敢えてつけるならば。


 メアリと同じ勢力に居たくない。












 


 学校は予定外にも早く終わった。先程のメアリの演説が効いたのだろう、授業を進める先生も、受ける生徒も、メアリの行動に賛同したくて仕方ないらしく―――有り体に言えば、授業が成立しなくなった。授業中に「こんな事してる場合じゃない!」と叫んだ奴も居れば、「今もメアリは二人が居なくなった事に負い目を感じて追い詰められてるのに、俺達はのんびり授業を受けていて良いのか!」と本気で意味の分からない事を言い出した奴も居た。これは俺のクラスに限った話ではなく、なんと全クラスで同じことが起こっていた。

 昼休みに差し掛かった頃、生徒からの要望、及びその意見に対する校長含めた教師全員の賛同(要するに反対者が居なかった)もあり、学校は早く終わったのである。メアリは満面の笑みを浮かべていた。俺は軽蔑の視線を彼女に向けながら、今度ばかりは黙って帰る事にした。俺の帰路を邪魔する奴は誰も居ない。まるで全クラスが卒業し、俺だけが留年してしまったような寂しさを覚える。メアリを筆頭に、ここの生徒及び教員は全員町へと散らばっていった。最早ここはゴーストスクールだ。

「さて、俺も命様の所へ行くとするか―」

 あれだけの人数を相手に歯向かうには、先手を取る事がとにかく重要だ。『視える』奴があの中に居るとも思えないが、とにもかくにも茜さんを先に見つけ出し、話を聞こう。あの神社まで連れてこれれば、まず誰も来ない筈だ。

「…………え? また走るのか?」

 誰も強制していないが、のんびり歩いていたらメアリに絡まれる危険性がある。一気に突っ切ればそのリスクも無いので、実質的な強制だ。体力には自信があるから神社までは走り切れると思うが、何だろう。山と上ったり下りたり、上ったり下りたりしているせいで最近無駄に体力がついてきた気がする。陸上部に入れば、或は活躍出来るかもしれない。


 ―――まあメアリにはどうせ勝てないし、命様と過ごす時間を取られたくないから入らないんだけどな。


 あの演説のせいで、遂に彼女を知らない人間は居なくなった。裏を返せば、俺に優しくしてくれる人間が居なくなったという事でもある。そんな奴らと過ごさねばならぬ部活など、誰が入るか。それをするくらいなら命様を神として改めて宗教を興した方がマシだ。

 信者は集まらないと思うが。

 信者はクラウドファンディングで集めよう!

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