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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 08 悪鬼掌悪

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在りし日の?

 神社では空花や命様が側に居てくれるが、自分のベッドに別の人間を招いたのは初めてだ。下心はないつもりだが、あったとしても不思議はない。服の乱れすら許さぬ女性が気の抜けた服装を着るのはある種の反則だ。

 莢さんとは協力者以上の関係性はないのだが、とてもドキドキする。

「メアリ様を思い出します」

「は?」

「何もかも狂ってしまう前……私はメアリ様の友人でした。今にして思えばほんの僅かな期間でしたが、よく一緒に眠ったものです」

「変な力持つ前は割とまともだったんですね。やっぱり」

「今でも鮮明に覚えております。メアリ様が私の手を握りながら眠ろうとするお姿を……っと。昔話が過ぎました。どうかお許しを」

「大丈夫です。アイツの情報が少しでも得られるなら無駄でもなんでもないので」

 一緒に布団に入って気づいた事がある。莢さんは基礎体温が高かった。身体が接触している訳でもないのに、もう布団の中が暖かい。メアリが求めたのかどうかはともかく、きっとその頃のメアリは熟睡出来ていたのだろう。

 俺もいつになく眠気を覚えている。

「床の上であったとしても、ご要望が有れば何なりとお申し付けくださいませ」

「因みにメアリはどんな要求をしてきたんですか?」

「スリーサイズを尋ねてきました」

「アイツゲスいなぁ……」

「天畧様が完璧の定義を語らずして教育をなさっていたので、メアリ様なりに完璧な女性を模索していたのだと思われます」

 その受け取り方をどう見るかは人次第だ。日記を見る限りメアリは母親の教育方針にすっかり参っていた。怒ってさえいた。そんな中でも変わらず接してくれた莢さんの存在はきっと彼女の目には完璧に映ったのではないだろうか。

「因みに答えたんですか?」

「スリーサイズの意味を理解していなかった様で、まずはそこから教えました」

「馬鹿じゃん……って言いたいけど、まあ三歳くらいならそんなもんなんですかね」

 むしろ幼児のする事ではないのかもしれない。俺は三歳の頃に月喰さんの現実離れした妖の肉体を味わっているせいで見事に煩悩丸出しのスケベとなってしまったが(心理学的には母性に飢えているとかなんとか?)、それは大いなる例外で、普通の人間ならまだ異性に興味を持たない頃だと思う。俺自身が特殊なのであまり攻めた事は言えないが。

「天畧様はどんな男も籠絡出来る女でなければ無価値とも断じておりました。メアリ様に悪気はなかった筈です。実際、身体を触らせましたが特別何かに気づいた様子ではありませんでした」

 無理がある。人様の身体に触って何を気付く事があるのだ。俺は触らなくてもわかる。メアリよりは莢さんの方が胸があるという事に。少なくとも俺の手を広げたらギリギリ覆えるくらいの大きさはあるだろう。

 空花や命様、月喰さんがおかしいだけで、これでも十分大きい部類だ。もっと言えば、妖や神様が極上の女体を持っていても不思議はないが、そこに比肩する空花がおかしいのだ。なんだアイツ。

「因みになんですけど、メアリの母親のスタイルはどんな感じだったんですか?」

「どんな感じ……と言われましても、日によって違うのです。胸が大きい時もあれば小さい時もあり、お尻が大きい時もあれば小さい時もあり。唇が厚い時もあれば薄い時もあり」

「……気持ち悪いなあ。整形って訳じゃないんでしょうけども」

 命様と月喰さんを知っていればなんとなく分かる。例えば命様は月が満ちた時に僅かな力を取り戻すが、その時の姿は曰く全盛期だ。ようするに本来の姿に戻っただけだが、変えようと思えば幾らでも変えられるだろう。

 月喰さんはもっと簡単だ。彼女は幾らでも姿を変えられる。俺に強烈な下心を与えた……殆ど羽織っているだけで臍まで丸見えの……美女の姿にもなれれば、不定形の怪物にもなれる。(婿の話からすると美女形態が本体だろうが)

 神の力を保有した存在に肉体の縛りはない。頻繁にスタイルが変わっていたのはそういう事だろう。面白いのは、完璧を望む本人が完璧なスタイルについて回答を出せていない事だが、それを思うとメアリに問われた完璧は至極理不尽だ。答えのない問題に確実な答えを出せと言うようなもの。それくらいの無茶苦茶である。

「……ちょっとメアリが可哀想になってきましたよ」

「同情ですか、ここに来て」

「そんなんじゃないです。俺はアイツをずっと許さないし、大嫌いです。でもそれって他の何かと一切両立しない訳じゃない。アイツもアイツで、凄く理不尽な目に遭ってきたんだなって思ったんですよ」

「……序の口ですよ、こんなものは」

「え?」

「私は止める事が出来なかった。天畧様の愚行を。止めようとはしました。私は周防家に忠誠を誓っておりますが、それだけは看過出来ませんでした。ですがメアリ様に庇われて……ああ。情けない。本当に」

「あの、話が全く見えないんですけど。なんの話をしてるんですか?」


「…殿方の扱い方など三歳で覚える必要はない。少なくとも私はそう思います」


 降って湧いた俺の興味は、刹那の内に消滅した。そこまで言ってくれたらおおよその内容は想像出来る。そして偶然にも、俺の肉親が同様の被害に遭った。いや、遭わされたと言うべきか。

「……マジですみません。聞くべきじゃなかったですね」

「お気になさらず。就寝前の一時をお楽しみいただければ幸いです」

 莢さんはあくまでメイドとして気丈に振る舞っているが、その心境はさぞ複雑であろう。見てみたいとは思わない。聞きたいとも思わない。莢さんの事は嫌いじゃないどころか本当に雇いたいくらい好きだが、どうにも俺は周防家の人間が大嫌いだ。

 母親も、メアリも。

「父親の方はどうしてたんですか?」

「メアリ様に興味を持たれた事は数える程しかなかったと思います。ヨヅキ様は天畧様とラブラブでしたから」

「でも力を失ったら亀裂が入ったんでしょう? 愛なんてなかったんですよそれ」

 所詮は神の力に魅入られただけだった訳だ。笑えない話である。女性を視る目がなかったか、それとも男性を視る目が無かったか。面識がないので分からないがどちらかだ。

「……この辺でやめときますか。いよいよ本気で眠くなってきました」

「子守唄はいかがでしょうか」

「いや〜いいです。…………お休み、なさい」

「お休みなさい。良い夢を」

 俺の意識が途切れる寸前、莢さんはそっと俺の手を握りしめ、同様に目を閉じるのだった。
















「あー! もうやっと起きた!」






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