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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 08 悪鬼掌悪

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彼女に痕された手がかり

パソコンインサートキー無限発動現象により携帯からの投稿となります。妙ちきりんなミスはご報告いただけるとありがたいです

 二人がお風呂に入ったせいで俺は暫く一人ぼっちになった。一人ぼっちが嫌だと言うなら一緒に入ってしまえばいいと思うかもしれないが、男性一人に女性二人。誠に残念ながら俺は男女共用の価値観の下に生まれていないので、夫婦でもないのに異性同士が風呂に入ると言うのはとても破廉恥な事だと思っている。

「いけません、幸音様。髪を拭かなければ風邪をひいてしまいます」

「き、気にしないでください」

「いいえ、幸音様。こればかりは従っていただきます。御自身の体調に関わる事ですよ、あまり無理強いはしたくないのです」

 何故幸音さんは俺と全く同じ下りをしているのだろう。男の俺が勝てなかったのに彼女に勝てる道理はない。結局流れは変わらなかった。

「莢さんは馬鹿力なので従った方が身の為ですよっと」

「心外ですね」

 コルセットで締めているだけかもしれないが、細身の割には随分と筋力がある。あの家でメイドさんをやっているとそうなってしまうのだろうか。いつか裸を見てみたいものだ。

 下心はない。多分。

「それはさておき創太様。後で知らせておきたい事が」

「ん? なんですか?」

「ここで教えるのは少し不都合かと。所で幸音様の寝る場所は何処にいたしましょう」

 俺の家にあるベッドは三つ。両親のベッドと妹のベッドと俺のベッドだ。間違いはまず起こらないが勘違いされても嫌なので俺の側はなし、そうなると両親か妹だが……

「清華の部屋に案内して下さい」

 両親は知らない間に何処かへ行ってしまったが、いつか帰ってくるかもしれない。だが妹はよっぽどの事がない限りまず帰ってこないだろう(何処で暮らしているのかは気になるが)。

 両親のベッドを使わせると万が一帰ってきたら色々と誤解を生みかねないし、それなら消去法で彼女の部屋になるのはある意味必然だ。

「畏まりました。それでは幸音様、ご案内致します。迷うことなきよう、私の手を離さず居て下さいませ」

「俺の家そんなに広くないですよ?」

 ここがメアリの家ならともかく、一般人の住宅の広さなどたかが知れている。階段を上がればすぐにあるのに、何処で迷う要素があるのか。文字通り異次元の方向音痴でもない限り目的地には辿り着けるだろうに。

「……」

 やけに素直だな。

 偏見だが、あれぐらいの年齢ならもう少し夜更かしするものではないだろうか。この程度の差異に違和感を覚える俺がおかしいだけかもしれないが、何だろう。育ちが良すぎる気もする。

 この程度で育ちが良いと思う俺の育ちが悪いだけだろうか。

 間も無く莢さんが降りてきた。

「創太様はまだご就寝なさりませんか?」

「俺はまだ…幸音さんはもう寝たんですか?」

 莢さんが向かいの席に座った。幸音さんと一緒にお風呂を済ませた影響か束ねていた金髪が解けている。今はホワイトブリムもメイド服も無く、真面目な彼女にしては白のパジャマという緩い格好をしていた(自前だろうか)。

 ギャップでちょっとドキドキする。

「布団を被ったら、直ぐに寝息を立てました。余程疲れていたようですね。それで、先程お話しした件ですが」

「教えたい事の話でしたね。何ですか?」

「幸音様とお風呂に入らせていただきました。その時の話です」

 ……え?

 全く期待してなかったのに、ある種ご褒美みたいな……いや、幸音さんには全く興味ないのだが、お風呂のじゃれあいを話すには当然自分の事も話さなければいけないので、つまり。

「何か勘違いをなされているようですので、補足いたします。猥談をするつもりは毛頭ございません」

「ですよねー。一ミリくらい期待した俺が阿呆でした。で、何の話ですか?」

「……幸音様は一人で身体を洗えないとの話でした。おかしな話だとは思いませんでしたか? 身体的障害はない……全く洗えない筈がない、と」

「まあちょっとは思いましたけど、トラウマがあるのかなあなんて思って流しましたよ。違うんですか?」

 莢さんの瞳に陰が差す。上で煌々と輝く電球が僅かに明かりを失う錯覚を覚えた。



「彼女の背中には、無数の古傷が存在しておりました。いや、背中だけではありませんね。日常生活において露出頻度の低い場所全てに傷を確認しました」



 虐待の痕……だろうか。しかしつかささんがそんな事をするとは思えない。彼ならさっさと殺して解剖するくらいはやる。

 もしかしてブカブカの白衣を着ていたのは出来るだけ身体を隠す為だったのだろうか。

「傷の内訳は切り傷、刺し傷、火傷、打撲痕、縫合痕といった所でしょうか。創太様は何かご存知ですか?」

「全く。でも……」

「でも?」

「心当たりはあります」

 ひょんな事から足を運ぶ事になったトイレでの会話が思い起こされる。


『月天燐の森を知っていますね?』

『真っ白い家があります。名前はつばき。それを見つけ出してみてください。私に言えるのはここまでです』


 そして鍵は藍之條幸音が握っている。つまり彼女とその建物にはなんらかの関係がある訳だ。事態をややこしくするだけなので空花達の前では話さなかったが、莢さんには話しておくべきだろう。

「……つばき、ですか」

「何か知ってるんですか? もしかしてメアリもそこの出身とか?」

「いえ、そういう訳では。しかし天畧様がメアリ様を出産なさる前、その様な施設を運営していた記録がございます」

「メアリの母親がッ?」

 ある意味では全ての元凶とも言える周防天畧。彼女が運営していた家と幸音さんが繋がっている……? 話が全く見えてこない。どういう訳だ。

「それ、何年前の話ですか?」

「六十年以上前だったと記憶しております。飽くまで紙面上の情報に過ぎないので審議は定かではないのですが……」

「莢さんは何歳ですか?」

「女性に年齢を尋ねるのは感心しませんね。ですが、十九歳です。それが何か」

 分かっていたが、やはり天畧は不老だったか。今まで集めた情報からしてもメアリに譲渡されたのは確実に常邪美命の力。それは良い。

 問題はそんなに前の建物と幸音さんがどう関係しているかだ。莢さんの年齢から逆算するに、既に運営はやめていた筈。流石に現行運営していたら気付いているだろうし。

 ……駄目だ、思いつかない。

 こういう時は大抵ドツボに嵌っていて、考えれば考える程無意味な時間が過ぎていくもの。収穫がなかった訳ではないし、ここはいっそ考えるのをやめて就寝するべきか。

「……莢さん」



「もし嫌じゃなかったら、今日から俺と一緒に寝てくれませんか?」

 


 これは下心から来るお誘いではない。俺なりに考えあっての提案だ。



「畏まりました。もうご就寝なさりますか?」

「これ以上考えても発展望めなさそうなんで」

 下心はない。多分。


 



 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] その場所に幸音さんは行かせてくれるだろうか... トラウマっぽいけど... [一言] インサートキーの存在を知らなかった時の地獄を思い出す...
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