全てはゴミ箱へ
途中から文字数が大幅に増える恐れ。
「年代別?」
そう言われると、主婦が成人女性、教師が成人男性、大学生、高校生、中学生、小学生と年代別になっている気もする。しかしわざわざ年代別に狙うのは何故だろう。体の仕組みは分からないが、高校生から成人男性までは大体一緒ではないのか。高校生の癖に大人みたいな体格をしてる奴はごまんと見て来た。
性徴期について知らないとまでは言わないが、ここまで分類出来る程続いただろうか。そもそも大学生も年齢で言えば大体成人だし。
「……何の意味が?」
「それは犯人に聞いてくれたまえよ。私は犯人ではない。単に猟奇的殺人事件としても良いが、それにしてはあまりに規則性がある……まあ、たまたまという可能性もギリギリ考えられなくはないがね」
「ええ? そっちの方があり得ないでしょ」
「さて、どうだろうね。人類の生産物の中には偶然が絡んだ物もある。まあ考えるに値しない可能性だ。取るに足らぬリスクと言っても良いだろう。もしそうならお手上げだからね」
茜さんは咳払いを経て話を元に戻す。
「さて、正確な規則性を見出せたのなら事件の解決は目前だ。先回りすれば良い。現行犯で取り押さえれば推理なんて必要ないんだ。私には思いつかなかったが……少年、どうだ?」
「ん~いや、俺も特に。空花はどうだ?」
「え? 何が?」
忘れていた。空花には茜さんが見えていないのだ。俺達は一緒に居る様で一緒に居ない。一つのグループにみえても、茜さんと俺と命様、命様と空花と俺の二グループに分かれているのだ。ああややこしい。茜さんにもご神体とか無いのだろうか。
俺は当人の許可を得て、一言一句違わず空花に伝えた。翻訳者の真似事と言いたいが、二人の間にあるのは言語の壁ではなく存在の壁だ。それは俺以外には決して破れない。翻訳とは似て非なる行為である。
「正確な規則性ねー。んー年代別だけでいいんじゃないの?」
「それは今までの被害から見た規則だろ。俺が求めてるのは正確な規則性だ。じゃあ聞くが、今の状況だけで次に誰が狙われるかお前は分かるのか? 現行犯で捕まえられるならその方が良いだろ」
「ん~被害者の性別はどうなの?」
「……どうなんですか茜さん?」
「被害者の内女性が半分以上を占めてはいるが―――まあ、関係ないだろう。理屈なんてこじつけようと思えば幾らでもこじつけられるんだ。女性は奇数で殺して男性は偶数で殺すとか、その時の人口密度が云々……何も無い所から強引に見出す必要はない。関係ないと思うな」
「……関係ないらしい」
「えーそうなの? でもさ、どうして決めつけるの? そのメリーさんが思いつかなかっただけで、言ってくれたら思いつくかもしれないじゃんッ」
「それは俺も思ったけどな、空花。よく考えろ。『キリトリさん』の噂はともかく事件は確実に起きてるし、警察が動いてるんだ。安易に気付く規則性なら警察も詰まったりしないだろ? アイツ等は無能だけど、メアリが関わらないなら真面目に仕事をする筈だ」
警察を舐めては行けない。あれはあれでこの国の治安維持に貢献している素晴らしい組織なのだ。メアリの犬である事を除けば手放しに賞賛してやりたいくらいだ。
メアリの犬である事を除けば。
俺にとっては何においても優先される事項なので再度言っておく。他のどんな項を満たしていてもこれに当てはまるならソイツは糞だ。もしメアリの影響を逃れた幸運な奴がいるなら覚えておくといい。
「特に偉い人の家系って訳じゃないよねー」
「まあその辺の教師とか学生だからな」
「ん…………………分かんない! パス!」
「妾も見当がつかぬな。まして次に狙われる者の予測など出来よう筈もない。情報が足りぬのではないか? 情報の絶対数が足りぬ限りは推理も出来まい。茜よ、お主の持つ情報はこれで全てか? 出し渋りは無しじゃぞ」
「少年に隠す必要性が分からないな。無断で捜査に参加して得た情報はこれで全てだ……けれども、仕方ないな。警察の方で進展があったかもしれない。一日ばかり猶予が欲しい。明日、再度落ち合おうじゃないか」
「あ、それは俺も賛成です。別の所から意見貰いたいので……」
メアリの帰還まで時間はたっぷりある。焦る事はない。警察がやる様な捜査だって日々の積み重ねがカギを握るのだ。ここまでの情報があって何も分からないなら、これ以上は集まっていても仕方がない。話すだけ無駄だ。
「えー! もう解散なの? 私おにーさんともっとデートしたかったなー」
「そもそもデートしてた訳じゃないだろ! 空花は命様と一緒に……命様。空花は一人じゃ神社まで行けないので案内していただけますか?」
「承知した。お主は家へ帰るのか?」
「家…………ああいや、最終的には帰りますけど、意見もらい終わったら神社の方に向かいます。俺も二人と一緒に居たいので」
神社での宿泊は当分お預けだ。莢さんを一人で放っておく訳にも行くまい。俺なんぞより遥かに強いのは承知しているが、それでも女性だ。しかも協力者だ。俺には守る義務がある。二度と失ってたまるか。
絢乃さんの悲劇は二度と繰り返させない。
救えなかった命というものは中々ドラマチックには零れない。既に手遅れな場合が殆どだ。彼女がその最たる例と言える。交流時間も少ない内に裏切り者と認定され殺された。莢さんは周防家のメイドだが、同時に俺の協力者でもある。あの時と同じ状態になったとしても不思議はない。信者達はメアリを盲目的に信じる分、他人への信用を遥かに縮小してしまうので、迂闊な行動は命とりだ。
全員の方針が決まった所で茜さんは足早に右側の壁をすり抜けてしまった。彼女が向かった先には警察署がある。一日の猶予を提案した割には今からでも情報を手に入れるようとする姿勢には感謝しかない。
「そういえば落ち合う場所決めてなかったな……」
まあ、茜さんが相手なら特に問題はないだろうが。
「では直ぐに戻ってくるので、命様。空花をよろしくお願いします」
「うむ! 妾にどんと任せるが良い! その代わり、ちゃんと酒を貰ってくるのじゃぞッ!」
「え?」
「お主が言うた事じゃぞっ? それともお主は、自らが信ずる神に虚偽を……」
「あー酒ですね! はいはい分かりました分かりました思い出しましたよッ。大丈夫です、貰ってきます。俺は飲みませんけど!」
「それでこそ妾の信者じゃ! では行くか空花よ。創太がとびっきりのお土産を持ってくるでの、ここは引き際じゃ」
意気揚々と自らの山に帰らんとする彼女を見ていると、神様とは何ぞやと哲学的なテーマが浮かんでしまう。絡んでいるのが美女二人だからそこまで絵面は酷くないが、酒好きの人間に振り回される連れという構図は現実でも割と見る光景だ。
「えっと、命ちゃん。私はもっとお酒飲めないんだけど巻き込まないでよ?」
空花は完全に困り果てていたが、酒が届くと信じている命様には何も見えない。あれもその場凌ぎの嘘……のつもりはなかったが、彼女が忘れていたならそのまま白を切るつもりだった。俺は神様の記憶力を舐めていたのかもしれない。今となっては何故舐めていたのかも理解出来ない。
常邪美命様は神社を訪れた信者を詳細に覚えている様な神様だ。数時間程度の記憶を忘却する道理はない。まして当人が興味津々なのに。
「…………先生に貰えなかったらどうしようかな」
妙案が思い付かないのは、きっと情報が足りないせいだろう。苦笑いを浮かべながら空を仰ぐ。俺は深いため息と共に梧医院へと歩き出した。
もう一話出します




