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メアリー・スーには屈しない  作者: 氷雨 ユータ
FILE 08 悪鬼掌悪

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探偵御一行様

「被害者は藤堂裕弥。死亡時刻は午前二時十分。つまり深夜だね。遺体の状況は頭部と胴体が泣き別れ。脳だけすっぽり抜き取られて、後は遺体と同じ場所に放置さ。通報したのはそこをたまたま通りがかった……と。少年は皆から嫌われているのだったね」

「はい。続けてください」

 地味に被害者と面識はあるものの、馳せる思いは無い。申し訳ないが俺は聖人とは程遠い性格だ。俺をリンチした奴が死んでも、特別悲しむ事も喜ぶ事もしない。

「死体が発見された場所はここだ、私も目撃している。だがここで解体された訳じゃない。その程度の杜撰な犯罪なら警察が既に解決させているだろう。何処かに運ばれ、そこで解体されたとみるのがベターだが、ここからが不思議ポイントだ。何と、痕跡が全く見当たらないんだよ」

「用意周到な犯人だったんじゃないですか?」

「後々の被害者を見てから言いたかったが、狙われた人物に共通点は無い。君はまさか計画的無差別殺人とでも言いたいのか? 残念ながらそれはあり得ない。完全犯罪を前提に事を為すならある程度計画が必要だ。河原など……見ての通り石だらけだ。目を皿にして探せば痕跡くらい簡単に見つかるだろう。無抵抗で殺される人間はそう居ないからね。何かしらの手がかりはあるのが自然だ。だが、それがない」

「死体に犯人の指紋とかは?」

「少年。それは愚問というものだぞ? 痕跡は見当たらないんだ。それは河原全体の話じゃない。被害者の身体にも無かったんだ。完全犯罪どころの話じゃない、何も無かったんだ。語弊のないように言えば、被害者は無に殺されたと言うべきかな」

「バグったゲームじゃあるまいし、それは幾らなんでも言い過ぎじゃないですか?」

「わざわざ脳を持って帰るくらいだから、実行犯は居るのだろう。しかし痕跡が見つからない以上追跡が出来ない。これを無と言わずして何と呼ぼう。なあ少年」

「……いや。待ってください。俺が関与してるならともかく、そうじゃないなら警察がこの程度で諦めるとは思えない。懸賞金をかけてでも犯人を見つけ出そうとする筈です」

「中々良い事を言うねえ。確かにその通り。しかし少年、君は自分が異常だと知っていながら感性が常識的過ぎる。事を全国にまで広げなくても、この町には神の寵愛を受けし者がいるじゃないか」

 茜さんの言わんとしている事を間もなく理解した。そう、警察は大事にしなくても良い。何故ならこの月巳町の市長はあの周防メアリだ。居るかも分からぬ目撃者、確実に信用出来るとは言えない目撃情報よりも、完璧で完全で非の打ちどころのない彼女に処理を投げた方が成果は確実だ。


 殺人犯には一つの欠点がある。それは一瞬で地球上の人間を皆殺しに出来ないという欠点だ。


 飛躍しすぎな欠点とも言えるし、大体の兵器に言える理屈でもある。だがそれが出来ないという事はメアリの干渉を許すという事でもあり、過去彼女が止められなかった犯罪は無い。どんな完璧な計画も、どんな有利な状況も、彼女の存在一つで犯人の意志は消失する。言いなりだ。

 莢さんの見立てでは二週間は帰らないそうだが、裏を返せば二週間後には解決する保障でもある。果たして警察がそんな合理的な判断を下して良いかは議論の余地がありそうだが、今の所暴動などは起きていないので、良しとされたのだろう。

「さて、次の場所に行こうか」

「え? 現場移動するんですか?」

「現場が一か所じゃないのも、計画性が不透明な理由の一つだね」












 続いて案内されたのは大型ショッピングモールの駐車場。監視カメラも稼働している場所で完全犯罪が行われたなど信じがたいが、事実としてそうらしい。

「ほう、これは何じゃッ? 妾は寡聞にして知らぬぞ! 創太、入っても良いかッ?」

「後で空花と一緒に行きましょうか。今は我慢してください」

「殺されたのは高原光。大学生だ。死亡時刻は午後十一時二十五分。例によって痕跡無し、頭部と胴体が泣き別れ。脳みそも空っぽだ」

「急に紹介が雑になりましたねっ」

「仕方がない。死体の損傷状態は全く一緒なんだ。因みに監視カメラだが、成果はない。その時刻の瞬間だけ、映像に著しい乱れが生じていてね。あんなものは役立たずだ」

 まるで警察関係者のように呟いてみせる茜さん。しかし真実は単なる不法侵入者である事を忘れてはならない。そのお蔭で俺達は詳細な状況を把握出来ているのだから。

「目撃者は?」

「それも前に同じだね。因みに私も見たのは死体までだ。それと警察の真似事をして遊んでたかな。立ち入り禁止のテープ前にたつ警察に敬礼して入る遊びとか中々面白かったよ」

「何してんですか茜さん! もしかしてその……茜さんのモデルになった人が警察志望だったんですか?」

「私個人の欲望だ」

 茜さんは腰に手を当ててふふんと笑った。得意気に語る話でもないと思う。

「さて次の場所に―――」

「あ、ちょっと待って下さい。さっきの雑な紹介から嫌な予感がするんですけど、もしかして語る事あんまりない感じですか? 雰囲気だけならもう移動しなくて大丈夫です。命様もモール行きたがってるんで」

「随分とまあ欲に従順な神様だことで……なんだ、移動した方が探偵っぽい雰囲気とか出るのに。少年は雰囲気を大事にしないタイプか?」

「誤解を招く言い方辞めてもらえますか!? むしろ最高の雰囲気でしか出来ませんよ俺は!」

 多分。

 俺は二つの事件を脳裏に記述し、引っ掛かる点を考えてみる。ホワイトボードが欲しい。事件の相関図的なものを俯瞰したい。

「……因みに茜さんは、『キリトリさん』の噂は誰が吹聴してるか知ってますか?」

「いいや? こうも時代が進むと、言いふらすには肉声よりもインターネットの方が効果が高い。検索してみてはどうかな?」

 そう促され、試しに『キリトリさん』で検索をしてみる。幾つかそれについて語っているサイトを見つけたので覗いてみたが、やはり俺達と同じ所(事件に対して無理やり噂を作ったのでエピソードがない)で止まっており、特別盛り上がっているようには見えない。

「……駄目ですね。別に盛り上がってないし。まあ『キリトリさん』が都市伝説としてはあまりにも稚拙だから仕方ないんですけど」

「少年、それはきっとヒントじゃないか? 飽くまで都市伝説が嘘から始まると仮定させてもらうが、広めるような奴はきっと無類の都市伝説好きだ。エピソードの重さは熱意に比例する。だからリアリティが生まれる。だが『キリトリさん』には熱意がない。この際元ネタなど無くても良い、急に生えてきた設定を使うのも自由だなのにそれすらもない……私が思うに、『キリトリさん』を吹聴している人物は都市伝説の類が嫌いなんじゃないかな」

「は?」

「でなきゃこんなつまらない都市伝説になるとは思えない。あまりにも年季がある故に書物が残っていなくて……なら話は分かる。でもこれは最新だ。私には熱意がないとしか考えられないね」

「いやいや、茜さんの理屈は破綻してますよ。都市伝説が好きじゃない奴はそもそも流しませんから。センスが足りてないだけですよきっと」

「センスの問題ではない気もするが……真相は未だ闇の中か。私の考えでは流さざるを得ない理由か、流す事に意味があるのだけれど―――どちらが正しいのだろうね」

 流さざるを得ない理由。そして流す事に意味がある、か。心の中で復唱してみたが、何の為にする必要があるかと言われると思いつかない。理由さえ思いつけば彼女の推測は随分支持出来るものになるのだが、そう簡単に推理は進まないか。

「因みに次の被害者は?」

「大乃木寧々子。三十代の女性だね。被害は例によって……ここまで来ると幽霊の方かもしれないが……脳を切り取られている。因みに自宅の寝室で発見された」

「不法侵入されたって事ですか? 家族構成は?」

「夫が居るみたいだね。でも気付かなかったそうだよ」

 河原・駐車場・自宅。

 これら三つに関連性は感じ取れない。本当に無差別殺人なのか? 何か共通点が……素人に分かるかはさておき、無差別という事はない筈だ。根拠はない。只の勘だ。しかし物事には必ず道理があると信じて疑わない俺には、どうしても無差別無作為の動機が納得いかない。ただ殺すだけならまだしも、脳みそを奪っているのだ。きっと目的があって集めているに違いない。

「次の被害者は―――」

「あ、もう大丈夫です…………ショッピングモールか」

 手持ちの金は割とある。余程高い買い物をしなければ財布も寂しくはならない。

「……命様。モールの中行きたいですか?」

「お、行くのか!? 妾も付いて行くぞっ! 胸が躍る様じゃ!」

「そこまでですか……?」

「当たり前じゃ! ほれほれ~行くなら早うせい。不可視の者が何か出来る場所ではないと心得てはおるが。見て楽しいならばそれで十分じゃ! ほれほれッ」

「何か用事でも生まれたのかい?」

 命様に背中を押されながら、俺は懸命に背後を振り返ってその質問に応えた。




「ホワイトボードとペン、この際面倒だから買おうかなって思ったんですよッ!」  




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