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第八十六話 アゼルの戦い

「お、おい! お前たちもにげろ!」


 必死に商人のおじさんが走り抜けていった。

 

「ケルベロス。なんでこんな魔物が街なかに……」


 アゼルがそうつぶやいた瞬間。

 ケルベロスが立ち止まった。

 3つの頭が地面を見ている。


「アゼル! あれ!」

「うん。わかってる」


 ケルベロスの前に母親と小さな女の子が怯えて座り込んでしまっている。

 ふたりとも表情は凍りつき呆然としている。

 ケルベロスは大きな口をあけ今にも襲いかかりそうだ。


「あ、あぶない!」


 あたしが駆け出そうとした瞬間。


「あ、あれ?」


 目の前に居たアゼルの姿が無い。


「グルアアアアアアアアアアア!」


 強烈なケルベロスの叫び声が空気まで振動させた。


「ア、アゼル?」


 くずれゆくケルベロスの頭上にアゼルがいた。

 10メートルはあろうかというケルベロスの空中にアゼルは静止している。

 アゼルは、倒れこんだケルベロスのそばにゆっくりと着地すると親子の元へ向かった。


「ア、アゼル! だ、大丈夫!?」


 あたしも親子の元へと向かった。

 アゼルは親子にやさしく話しかけている。


「おにいちゃん! ありがとう!」

「本当にありがとうございました」


 小さな女の子は、先程までの事がなかったように元気に返事しているが母親は泣きながら感謝している。


「ごめん。ごめん。マミ。急に」

「アゼルがこの魔物を倒したの?」

「うん。素手で頚椎に打撃を与えて気絶させたんだけどね。警備兵が来て拘束するまで眠ったままのはずだよ」


 アゼル、もしかしてとんでもなく強いの?


 その後、街の警備兵がケルベロスを拘束し連れてゆくまで見守ってお店へと帰った。

 ケルベロスが街の中で現れた理由を調査し、その後は遠く離れた場所で開放するそうだ。

 この世界では魔物とうまく共存しているようなのだ。

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