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第六十二話 リリウムメイド喫茶へ

 今日は火曜日。

 レイちゃんが出勤して、あたしとアゼルと三人。

 けど、オープンから1時間たって来店されたお客様はシロちゃんだけ。

 今日もマリー様のメイド喫茶『リリウム』にお客様が流れてるみたい。

 

 よし! 一度、偵察してみよう。


「レイちゃん、しばらくホール一人でも大丈夫?」

「はい、大丈夫です。アゼルさんも居ますし」

「それじゃあ、しばらくお願い。あたしリリウムに行ってみる」


 そう言うとキッチンからアゼルが出て来た。


「敵情視察ってとこかい?」

「ええ、外からも豪華な中の様子はわかるけど実際のサービスなんかも見てみたくて。それにあたし達のサービスに改善のヒントあればいいと思って」

「ぜひ、料理も見て来てくれないかな?」

「ええ、わかったわ」


 アゼルとレイちゃんは出口まで見送ってくれた。

 と言ってもそのまま歩いて数秒。

 目の前のマリー様のメイド喫茶『リリウム』へ入るだけなのだけども。

 数秒の間、歩きながら変身スキルでメイド服から私服へと変わった。

 

「やっぱり、この変身スキル便利ね。衣装に合わせてお化粧まで出来ちゃうし。さて、敵情視察よ」


 大きく豪華な木製の扉を押すと、その重厚な見た目に反して軽く動いた。

 お店へと入った瞬間。


「ようこそメイド喫茶『リリウム』へ」


 と左右からクラシックな装いのメイドさんに迎えられた。

 二人のメイドさんにテーブルへと案内された。

 100席の店内にメイドは20名は居るだろうか?

 人件費無視の物量作戦ね。


(けど、常にメイドさんが近くに居てくれて、お客さんとして来るなら最高ね)


 アゼルのことづけを思い出してフードを注文した。

 500デジのスパゲッティ。

 目の前にメイドさんが持ってきてくれて驚いた。

 スパゲッティは魚介のトマトソース。

 ペスカトーレと呼ばれるものだ。

 しかも豪華で本格的なやつ。

 大きなカニにエビ、ムール貝とお皿からはみ出そうだ。


「お、おいしい!」


 パスタを口に運んで思わず声が出てしまった。

 とてもじゃないが500デジの味ではない。

 店内の豪華な内装にあった高級なレストランの味だ。

 あまりに美味しくて無くなったのを気づかないほど早く食べてしまった。


「どう? お気に召したかしら?」


 食事のおいしさの余韻にひたっていると突然話しかけられた。

 見上げると他のメイドさんとは違って、王冠に大きなネックレス、ひときわ目立つドレスが目に入った。

 

「マ、マリー様!」

「あなたのような者には一生味わえないような料理だったかもしれませんね。このお店は私の偉大なる好意により通常の金額の10分の1以下の価格でサービスを提供していますからね」


(うう……。それは資本にモノを言わせた。ただの無謀な行為じゃあ)


「あ、ありがとうございます。店内の内装も素晴らしくて感動しました」


 顔がひきつってないか心配。お世辞を言って早めに退散しよう。


「あらあら、あなたでも素晴らしさをおわかりかしら」


 マリー様の内装や備品、食器まで、延々とお話が続いた。




※ ※ ※ ※ ※




「そんな感じで、とにかく豪華。採算度外視よ」


 あたしは、やっとの事でリリウムを出るとアゼルへと報告をかねて話した。


「それは大変だったね。しかし、採算度外視の上にクオリティーも、ともなってると強力なライバルだね」

「ライバルと言うより蛇ににらまれたカエル。いや、ゾウに踏み潰されそうなアリという感じかしら」


 この日の売上も平日とは言え悪かった。

 このままでは本当に危うい。

 何か対策を考えなくては。


 ―――――――――――


10月22日(火)


メイド喫茶『オスティウム』


 料金 1時間1980デジ 延長30分ごと950デジ


 売上

  日別 36880デジ

  月別 2826140デジ

  年別 4504960デジ


 席数

  28席

  カウンター 6

  テーブル 24


 メニュー

  オムライス(メイドのお絵かきあり) 1000デジ

  オリカク  1500デジ

  メイドドリンク 1000デジ

  チェキ   800デジ

  初心者セット1500デジ

  カラオケリクエスト 1000デジ


  カラアゲ 500デジ


 メイドの心得


  メイドの心得1。

  お客様のプレゼントに遠慮はしない。代わりに全力で喜ぶ。

  メイドの心得2。

  お客様の事は、お客様から話をされるまでは詮索しない。


―――――――――――

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