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第5話 危険区域

「マンションの中にも魔物はいるんだな」


 マンションの廊下の玄関の天井に張り付いていた、ウネウネとツルを伸ばしていた食虫植物っぽい魔物を光を圧縮してレーザーのように放つ”レイ”で駆除しながら呟く。いや……この場合は食人植物か。


「そりゃあいますよ。獣人タイプの寝床になりますし、こういった植物タイプや昆虫タイプ色々も済みついています。不意打ちには注意してくださいね」


「感知は苦手なんだよな。意識すれば多少分かるけど……疲れる上に、精度も酷いものだよ」


「誰にも得意・不得意があります。私は感知や偵察は得意なので、先行しましょうか?」


「それじゃあ、頼もうかな」


 この程度の魔物から不意打ちされるくらいなら問題ないが、攻撃されて嬉しいことは一切ない。彩葉にとばっちりが行くことを考えると、少し情けないが彩葉に先行して貰った方がお互いのためだろう。


「任されました! とりあえずは、一室ず片っ端から調べて行きましょう」


 俺の方を見ながら、笑顔で敬礼した彩葉は、自分の影を扉に滑り込ませて扉の前でジットと立つ。影で部屋の中を調べているのだろう。


 だが、俺はすぐにその影が彩葉の目の前にある部屋だけに伸びている訳ではない事に気づく。

 廊下全体に伸び、一室事に枝分かれして、扉の隙間に入り込んでいるのだ。その様子に俺は感心した目で、目を閉じながら集中している彩葉を見つめる。


 といよりも、ちょっと驚いている。ここまで器用なことは、俺にはできない。なぜ、この子は神によって箱庭に召喚されなかったのだろうか。


 ……生まれていないからか。俺が召喚された時から300年以上経っているんだもんな。


「俺は、他から魔物が来ないが警戒しておくか」


 必要かどうか分からないが、部屋の中に集中しているのなら、他から魔物がきても気づけない可能性がある。それに、ここは廊下。外から弓や銃、魔法などで狙撃される可能性もあるのだろう。


 今は自分1人じゃないのだ。疲れるからといった理由で、感知を怠るのは駄目だ。問題なのは、俺の感知はあまり信頼できない点だ。自分に敵意を向けている存在なら多少感知できるのだが、俺に気づいていない魔物を感知するのは非常に不得意なのだ。


「終わりました!」


 数分静寂の時間が過ぎた後に、ゆっくりと目を開けながら彩葉は調査が終わった事を告げる。


「それで、魔物はいたのか? いたなら、その部屋を教えてくれれば俺が倒しに行くぞ」


「それなら大丈夫です。ついでに影で処理しておいたので問題なしです」


 彩葉は、あっさりと言いながら、おそらく影で鍵のロックを開けたのあろう。扉を開けて、気軽に入って行く。


 どうやら、俺が思っている以上に彩葉は強いかもしれない。俺が心配するようなことはないかも。


 ちょっと呆然しながら彼女に続いて部屋に入り、蜘蛛型の魔物がひっくり返りながら、ぴくぴくとしている光景を見ながら俺はそんなことを思っていた。


 蜘蛛の全身はいたるところに、何かに貫かれたような跡があり、紫色の血を垂れ流しているのを見ると、彩葉が影で突き刺したのだろう。


「よし、次行きましょう! 次!」


「え、まだ碌に調べていないだろう」


「だって、私のような若い女子が居た形跡ないんですよ。探索するだけ無駄です!」


 ぷくっと頬を膨らませながら腕組みをしながら文句言う彩葉。食料なんかよりも彼女にとっては、自分と同じ年頃の服とかが大切ってことか。まあ、思い出してい見ると、食料とかは俺と一緒に探索するために、付け加えただけのような言い方だったし。

 俺はため息をつきながら言う。


「わかった、わかった。俺は食料や使えそうな生活用品、それに自分の服を見ておくから、彩葉は先に調査が終わった部屋に行っていいよ。扉は開けたままで、何かあったら叫ぶんだぞ」


「了解です! あと、大丈夫だと思いますが影だけくっつけていきますね」


「くっつける?」


 パタパタと部屋を去っていく彼女を見つめながら、首をかしげていると、自分の影が伸びていることに気づく。


影は、この一室の外に、そして彼女が走っていった方に伸びていた。


 何かあったら、この影で知らせるということか。つくづく便利だな。


「とりあえず、食料でも探していくか」


 そう言いながら、軽い気持ちで俺は冷蔵庫を開けてしまった。開けた瞬間に生ごみが腐ったような臭いと、目に映る茶色に変色した肉に……


 バタン


 詳細に中身など見る前に、俺は冷蔵庫を叩き壊す勢いで閉じる。うっぷ……気持ち悪い。扉を閉めても、冷蔵庫から漏れ出した臭いだけで、気持ちが悪くなりそうだ。


 それでも、とりあえずは缶詰か何かの保存食がないか探してみないとな。


 結局は、その家は保存食などは、避難する時は持って行ったのか、非常食もなにも見つかることはなかった。


 ただ、ただ、気持ち悪くなっただけだった。


 もう二度と、冷蔵庫は開けん!




「町の中でもないのに、暖かい料理を食べれるなんて思いもしませんでしたよ」


 ハフハフとさせながら、彩葉は俺が作ったカレーを美味しそうに食べていた。俺としても、カレーを食べることができるなんてビックリだった。

 カレールーを見つけることができたのもあるのが、魔道具によって電気やガスが通らなくなくても火を使えることができて非常に便利なのだ。


 彩葉と話し合った時にも使ったのだが、改めてこうやって魔道具と呼ばれるを使ってみるとよくわかる。便利であり、たぶん兵器と化しているものは……おそろしく危険だろう。彩葉から聞いてはいないが、日常生活の道具に使われているのだ。兵器に使われていないとは到底思えない。ましてや、魔物がいる世界になっているのだから。


 国のお偉いさんや、科学者たちは、我先にと作ろうとしたのではないかと思えてしまうのだ。


(まあ、今そんなことどうでもいいか)


「あまり料理は得意じゃないから、適当に作っちゃったけど不味くないか?」


「不味いなんてとんでもないです。滅茶苦茶美味しいです!」


「まあ、カレーで不味く作れた方が凄いって言うくらいだからな」


 俺は、自分のコップに水をつぎ足し、彼女のコップにも入れてあげる。猫舌だからか、水を飲む量も多い。まあ、収納空間に沢山あるし、町に戻れば補充もできるだろうから、節約なんてしなくていいのかもしれないが。


 サバイバルというよりも、遠征先で野営をしているといった感覚なのかもしれない。


(ここまで美味しそうに食べてくれたら文句もないか)


 彩葉は、フーフーとスプーンにすくったカレーを冷ましながら、可愛らしい口にカレーに運ぶのに夢中になっていた。


 そのように自然と口がほころんでいる事に気づき、俺も自分の目の前にあるカレーに手を付けることにした。


「おかわりもあるから、欲しいなら言えよ」


「ふぁい!」


 コクコクと頷きながら答える彩葉を見ていると、恋人というよりも、お父さんになった気分になってしまうな。




 娘はない。


 やっぱり、そんな風に接するのは、俺には無理です。そもそも向こうはそんなこと一切考えていないし……危ない所だった。


 穏やかな気持ちで終わった夕飯だったが、その後は全く穏やかな時間ではなかった。


 風呂どころか、シャワーを浴びるような水は持ち合わせていないので、タオルを水で濡らして体を拭き、その辺で入手した寝間着を着るまではよかった。


 問題は、ぶかぶかのワイシャツだけ着て、一緒のベッドで眠ろうとしていた彩葉の存在だ。


『私の気持ちが本当だと証明するって言ったじゃないですか。ベッドの上で私の全てを悠さんに捧げます』


『色々とぶっ飛ばし過ぎだ! お前に覚悟があっても、まだ俺にそんな覚悟はない。っていうよりも、まだ付き合ってもいないだろうが。もっと自分を大切にしなさい』


『ベッドの上で私のことを好きになって貰えば問題なしです。据え膳食わぬは男の恥って言うじゃないですか』


『そういうセリフが女の子が言わない! そもそも、魔物が急襲してくる可能性がある場所で、2人仲良く寝れる訳ないだろう』


『私が影で警戒しているので問題ありません。悠さんだって結界を張っているじゃないですか』


『…………仮定の話だぞ。仮定の。仮に俺とお前が一緒のベッドで寝ることになっても、影で警戒することはできるのか』


『そ、それは…………』


『俺は無理だ。それに、俺は出会ったばかりの女性とそういう事ができるような男でもない。俺に好意を寄せてくれるのは嬉しいが、お互いのことをもっと知る段階があってもいいはずだ。体以外でね』


 ついでに、後数年経たないと色々とアウトだとも言いたかったが、それを言うとまた暴走しそうになったのでやめておいた。


「ふ~」


 俺は、先ほどのやりとりを思い出しながら、コーヒの入ったカップに口をつける。


 女性にここまで好意を示されるの始めてだ。箱庭で好きだった女性はいるが、それに俺が気づけた時は何もかもが手遅れになった後だった。懐かしくも、辛い記憶。自分の馬鹿さ加減にうんざりしてしまう。


「どうなんだろうな~」


 過去のことはとりあえず置いて、彩葉のことを考えることにしよう。一目惚れといっていたが、流石に出会って初日の夜に迫ってくるのは行き過ぎだ。何か理由があると思った方が普通だろう。……普通だよね?


 恋する女性の気持ちなんて俺には分からないことから、いくら推測しても、確信が得られないのが辛い。まあ、仮に本当に俺が好きだったとしても、暴走していることには変わりないだろう。


 彼女に裏があるのかどうか。こんな場所で、単独で行動している彼女が眠っている俺に一目ぼれして、裏工作してまで関係を構築しようし、積極的に迫ってくる……どういう事情があるのだろうか?


 単純に俺が強いから、一緒にいたいという理由が一番考えられるのだが、彼女の実力を考えると……そこまで身の安全に困っているようには思えない。最強系ヒロインを選択肢に入れていたらしいし。


 悪い可能性を考えるなら、俺を騙して魔力を奪ったりとか、人身売買とかか?


 俺から力を奪ったりとかできると思えないが、彩葉はどう考えているかまでは分からない。人身売買は……世界がどれくらい荒れているかで変るだろうな。そもそも、自分よりも強い可能性のある俺を捕まえるなら、信頼関係を作るよりも、食事に薬とか混ぜた方が手っ取り早いだろう。効かないけど。


 後は、魔力を奪ったりするタイプか? そもそも、そんな能力や魔道具があるのだろうか。だから体の関係に積極的とか?


………………あり得そうで怖いな。


 ズズズ


 苦みのあるコーヒーをもう一口すすりながら、俺は暗い天井を見つめる。横には俺が作った照明ようなほんのり明るい光球。あまり明るいと、夜行性の魔物に光でバレる可能性があるからだ。


「いや、ないか」


 彩葉は、戦っている俺ではなく、眠っている俺を見て一目惚れしたと言っているのだ。眠っている俺が強いかどうかなんて分からない。俺は別に、魔力を垂れ流しなら過ごしている訳でもないし。

 それに、最強系ヒロインも考えていたんだから、やっぱりない。人身売買なら、眠っている俺をどうにかすればいいだけ。


……うん、やっぱりないわ。


「俺も疲れているのかな。疲労感はあまりないけど、少し頭がボ~としている気もするし」


 ここまで振り返ると阿保らしい憶測をしていたような気がしてならない。まあ、俺が馬鹿なだけという可能性が一番高くて泣きそうだが。そもそも、13歳の女の子が何を考えているのか何て分からない。考えるだけ、無駄な気がしてならない。


「なるようになるか」


 俺を騙して、悪意をぶつけてきたら適当にあしらえばいいし、俺にどうにかして欲しい事情があるなら彼女が俺に頼んできた時に手を貸せばいいだろう。


 そう結論をづけて、俺は天井をぼ~と見つめる。俺は感知が苦手だから、眠る訳には行かない。途中で彩葉と見張りを交代することになっている。別に数日間眠らなくても大丈夫なのだが、彩葉が俺に一方的に負担を押し付けるのを嫌ってか、交代しなくてもいいといった俺の言葉に断固として頷かなかった。


 カチ、コチと家主がいなくなってからも時を刻む時計の針の音だけが部屋に響き渡る。


 平和だ。アンデットだらけの、死者の憎悪がの声が木霊する地下墓所のダンジョンで何週間も引き籠っていたこともある俺としては、いつ魔物からの急襲あるかもしれないこの環境でも、静寂の中で休めるだけで贅沢に感じてしまう。魔物も弱いし。


 ガチャ


 扉の開く音が俺に耳に届く。まだまだ、交代まで時間はある。トイレか何かだろうか? トイレは残念ながら外で垂れ流すしかない。


 幸いお互いに自衛はできるので、付き添う必要はない。付き添う必要がないのに、同行して欲しいというような性癖もお互いにない。


 だが、彩葉は外にでるのではなく、ソファで寝っ転がっていた俺がいるリビングに入って来た。


「どうしたんだ? まだ、交代の時間じゃない……ぞ」


 彼女は、真っ青な顔で汗をダラダラと流し、怯えたような表情で涙を流しながら立っていた。

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