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第4話 解体処理

 オーガやカマキリ型の魔物の死骸は、当然だがそのまま残っていた。血の臭いで他の魔物が寄ってくるかと思ったが、どうやらそんなことはなかったようだ。


 こうみると、なかなか壮絶な光景だ。


 魔物とは言えば、オーガと上半身が人型、下半身がカマキリの死骸が数十体横たわり、コンクリートの地面はオーガの紫色の血とカマキリの緑色の血で染まっているのだ。グロイな。自分でやっておいてなんだが。


 箱庭だと倒すとドロップアイテムを残して、消えてしまうので、このような光景を見れる機会はなかった。

 そしてこれから、この魔物達から魔石と素材の剥ぎ取り。マジでやるの? 彩葉は「それじゃあ、やりますか~」と呑気に言っているのを見ると、抵抗感はないようだ。可愛い顔して恐ろしい子。


「オーガは素材になるようなものがないですし、肉も不味いので、魔石だけ回収しましょうか。デカイ奴の魔石が楽しみですね」


 そう言う彼女の下から黒い何かが伸びてきた。これは……


「影を……操れるのか?」


「です。私は自分の影や、周囲の影を操れます」


 そう言いながら、彼女の影は一番近くのオーガに影を突き刺す。グッチャグッチャという音が鳴り響く数秒後。引き抜かれた影の先端には、小さい濁った紫色の石が縛り付けられていた。


「便利だな。魔石の場所は決まっているのか?」


「個体によって違いますが、大体は体の中心となる胸の部分だったりしますよ。悠さんは私みたいなことは?」


「無理だな。似たようなことはできなくもないけど、見もせずに魔石かどうか判断して取り出すなんてできないよ。彩葉はどうやっているんだ?」


「触感はを知ることはできませんが、影の一部に目をつけて、視界を共有することができますからね。それで判断しています」


「へぇ~、凄いな。俺はそんなことできないな」


「感心して頂けるのは嬉しいんですが、悠さんも魔石を取り出すの手伝って貰っていいですか? 数が多いですし、オーガの肉ってけっこう固いんで面倒なんです」


「解体なんてしたことありません。はい」


「……今まで一度もですか?」


 顔をちょっと引きつらせている彩葉を見ながら俺は目を逸らしながら頷く。仕方ないじゃないか。その必要なかったし。


「だからまあ……なんだ。魔石やら、素材の方は頼むよ」


「女の子に血なまぐさい解体を全部任せるんですか!? ちなみ悠さんはその間何をしているつもりですか?」


「見守っているよ。他に魔物がきたら、倒しておくから、安心して解体してくれていいよ」


「堂々のサボり宣言ですか!!」


「駄目……か?」


 俺も女の子に任せる仕事ではないと思っているのだが、解体方法なんて覚えたくないし、彩葉みたいに便利なこともできないから服が血で汚れそうだ。やってくれるなら、やって欲しいのだ。

 男としてどうかと思う発言なのは認めるけど。あんな小さい魔石を、胸のあたりと分かっていても、ナイフで切り裂いて行くのは遠慮願いたい。魔法で切りさいたら、魔石を破壊しそうだし。

 

「む~仕方がないですね。それじゃあ後でご褒美を――」


「自作自演を忘れてあげてもいいぞ」


「この程度で許されるんですか!? さっさと終わらますね♪」


 けっこう数があるし、労力だと思うのだが。あのデカイ個体から魔石を探すとなると結構な手間なんじゃないだろうか。

 まあ、本人がラッキーといった感じで喜んでいるんだからいいだろう。とりあえず、俺はその辺で座りながら周囲に結界でも張りながら見ておくとするか。


 そんなことを思っていると、彩葉の魔力が強まるのを察知する。あれ、影から伸びる触手の量がどんどん増えて行ってないか。1本、2本どころか、10本、20本とウネウネと増えているではないか。明らかに彼女自身の影の面積以上はあるだろう。

 魔力で自分自身の影の面積など関係なく増やすことができるのかもしれない。


「♪~」


 聞いたことが無い軽快な鼻歌をしながら、彼女は触手をオーガやカマキリの死体に向かわせていく。もしかして、この数を全て操作できるのか。しかも、全部に目をつけているとなると……彼女の視界は今どうなっているのだろうか。後でちょっと聞いてみよう。


「他の影も操れるっていってたもんな」


 何本かの触手は、魔物の死骸に向かわずに、建物や瓦礫の影に付着して、そこから更に枝葉が分かれるように触手を生み出し、改めて魔物の死骸に向かっていっていた。

 どうやら、彼女が言っていた最強系ヒロインにという選択肢を持っていたのは嘘ではないのかもしれない。実際に、戦っている所をみていないから確証はないが。

 っていうか、これなら本当にあっという間に終わってしまいそうだな。自作自演を許すには、ちょっと軽すぎるお願いだったかもしれない。


「それにしても、なかなかの光景だな」


 13歳の小柄な美少女が、黒い触手を大量に生み出して、グチャグチャと音をたてながら魔物の死骸に影の触手を侵入させて行く。背徳的であり、猟奇的な光景に見えてしまう。しかも、本人はご機嫌そうに鼻歌を歌っているのだ。将来、天然系のドSになったりしないかちょっと心配。


 そんな馬鹿なことを考えていたら、続々と伸びていた触手が彼女の下に戻って行き、彼女の足下に魔石が置かれていっていた。

 また、魔石とは別には、カマキリの鎌の部分が腕の関節部分で切断されて隣に積み上げられていく。


「カマの部分が素材になるのか?」


「切れ味がいいですから、武器に利用することができるんですよ。意外に丈夫で魔力耐性もあるので、加工次第では防具にもできるらしいですし」


「へぇ~」


 武器や防具の制作か。どうやって作るのか、ちょっと興味がある。箱庭だと全部ドロップアイテムだったし。

 異世界人がいるということは、ドワーフとかもいたりするのだろうか。


「オーガの武器や防具は人間が扱うものでじゃないですし、粗雑なものっぽいのですしどうでもいいですかね」


 戦利品を見て、「よし」言いながら、彼女は魔石と鎌を収納空間に入れていく。


「あ、私が預かってしまってよかったですか?」


「構わないよ。どっちみち一緒に行動するんだし」


 仮に持ち逃げされたとしても、別に恨みもしなければ、追いもしない。そんなことをするような子にも……見えなくもなくないような。いや、普通にオーガやカマキリを倒せるらしいし、彼女にとって持ち逃げるする必要性もないだろう。


「それじゃあ、換金するまで私が預かっていますね!」


「よろしく頼むよ」


「はい、頼まれました。そして、これで私の自作自演もチャラですね!」


 ものの数分で終わる頼み事でチャラにさせてしまったか。まあ、彼女と出会えて色々とこの世界のことを教えて貰えたり、これから案内して貰えることを考えると、メリットしかないしな。

 下手にわだかまりを残すよりも、これくらいで簡単に解消してしまったほうがいいだろう。


「そんな感じでいいよ。それで、換金できる街って遠いのか?」


「普通に歩いて2日ってところですかね」


「案外近いんだな。その割にはハンターは彩葉しかこの辺りにいないんだな。住んでいる人は少ないのか」


「町の人口は正確には知りませんが、数万人はいると思いますよ。ハンターが少ないというよりも、この辺りは危険区域になるので、私のように強いにハンターか命知らずの馬鹿しか来ませんよ。その日を生きるためにお金を稼いでいる人は、パーティーを組んで、もっと弱くて、魔物があまりいない安全な場所で狩りをしています。歩いて2日の距離という日数も、ハンターからしたら決して近いにはあたりません。野営は極力避けたがりますし」


 危険区域。つまり、あのオーガやカマキリは強い部類ってことなのか。それに、泊りがけになるような場所に向かう時点で遠いという判断になると。この程度が危険と判断されるなら、俺としては楽ができそうだが、人類的にはかなりヤバイような気がするな。


「ここで狩りをできる人間の数が少なすぎるっていうことか。それじゃあ、魔石や素材が結構な値段で売れるのか?」


「売れますね。今回収したので、私と悠さんの2人だけなら、数カ月はのびのびと暮らせちゃうと思いますよ」


「そんな金額になるのか。でも、無許可の町なんだろ? 治安が悪そうだが、それでのびのびと暮らせるものなのか。無駄に目立って面倒なことになりそうだが」


「目立ちはすると思いますが、この危険区域で狩りができる実力者と思われて、むしろ絡まれません。チンピラは強者から大金を奪うんじゃなくて、自分よりも絶対に弱い弱者から小金を奪うものですよ」


「まあ、そうなんだろうけど……見た目で判断するような奴だと絡んできそうだけどな。俺も彩葉も、見た目に的には強者には見えないと思うし」


「大丈夫ですよ……行けば分かります」


 彩葉は、妙に陰りのある笑みを浮かべながら、意味深なことを口にする。まあ、とりあえず町に行くのは決定事項だし、後は自分の目で見て確認するしかないか。どこぞの世紀末のように、ぶっ飛んだ髪型をした人達が当たり前になっている町ではないことを祈ろう。適応できる気がしない。


…………ちょっと、面白そうだから観光気分で数日間は楽しそうだけど。


「どうしたんですか? 引きつったような笑みで黙っちゃって」


「いや、どんな街なのかなと思ってな。それじゃあ、とりあえず町に案内して貰っていいか? こいつらから剥ぎ取った魔石だけでも十分なお金になるみたいだし」


 彩葉は俺のその言葉に、「うーん」と唸りながら、何かを考えるように辺りを見回す。どうしたんだろうか? 俺も、彩葉同様にあたりを見ますが、特に変化も変わった事もない。


「提案なんですが、この辺りの住宅街の中を物色していきませんか?」


「物色っていうと、もしかして放棄されている家にあるものを盗んでいくつもりのか?」


「その通りです」


 人差し指を俺にビシっと向けて、俺に詰めってきた。いや、それ泥棒だろう。


「そんなことしていいのか? もし、家主が戻ってきたりしたら――」


「戻ってきませんよ。絶対と言いませんが……さっき、ここを危険区域といいましたよね。この辺りに住んでいた住人の99.9%以上の人は戻って来れません。そして、残されたものは、このまま放置され続けるだけです」


 俺は、改めて辺りを見ます。人気など一切なく、先ほど入ったマンションの部屋もほこりだらけだった。彩葉の言葉正しければ、2年前に避難してから一度も帰宅していなかったのだろう。


「それに盗んだところで、バレやしませんよ。ましてや誰が盗んだなんてね。それとも悠さん、周りに迷惑を掛けることがなくても、悪い事は絶対にやらないお方だったり、許せない人だったりしますか? もしそうなら、諦めますけど」


「人並の善悪の価値観はあるけど……まあ、こういった状況の漁りはお約束か。高値で売れるものでも探すのか?」


「意外に話が分かりますね! 悠さんの好感度を下げたくなかったのですが、やっぱり服や下着といった加工製品は不足しがちなんで、あるだけ確保しておきたいんですよ。町でサイズピッタシの自分好みの服を探すのは難しいんですよね。あと、保存食系は回収して損はありませんよ。高値でも売れますし」


「町で生活用品や食料は確保しにくいのか?」


「新品となるとオーダーメイドになりますし、お金も時間もかかります。食品も高いですよ~ まあ、私達にとっては問題ない金額になると思いますが。問題なのは、商品の種類が少ないことですかね。悠さんだって、いざ勝負の時に私が可愛くも、色気もない下着を着ていたら少しガッカリするでしょう? まあ、そんなこと気にならない程に私が魅力的だとは自覚して――」


「あ~はいはい。町では買えないような服や高値の食品を探しておきたいってことね。オーケーオーケー。それじゃあ、行こうか」


 頬を赤らめて俯きながら、人差し指をツンツンと合わせてモジモジしながらよからぬ発言をしている目の前の13歳の少女の言葉を遮るように叫ぶ。


「――いるんですけど、やっぱり乙女のたしなみとして、恥ずかしくない整えておきたいんですよ。あ、悠さんは私にどんな服が似合うと思いますか? できれば下着の色も」


 先ほど居た建物に向かおうとすると、彩葉は俺の腕に抱きつきなが、俺の割り込みも完全無視しながら、上目遣いでとんでもないことを聞いてくる。しかも、自分の胸を押し付けるようにしながら。


「何でも似合うと思うぞ。自覚通り、美少女なんだから。だから、とりあえず離れようか。後、下着は自分の好きな色を選べばいいだろう」


「好きな人の色に染まりたいという乙女心を理解してくださいよ。ちょっとくらいリクエストしてくれてもいいじゃないですか」


「悪いが、俺にファッションセンスはない! 無難でシンプルな服が一番落ち着くと思っているんだ。学生時代もほとんど制服で済ましていたからな」


「せい……ふく……ですか。なるほど」


「?」


 彩葉は俺のことを探るようにジット見つめてくるが、「よし」という言葉と共に、抱き着くのを止めて、俺の前を軽快に歩きだす。


 柔らかい感触から解放された俺は、小さくホッと息を吐く。グイグイくる女の子は苦手というか、弱いな俺……色々と。


「それでは、行きましょうか! いざ、宝探し」


「宝探し……か」


 やることは、盗みのようなもだけど。意気揚々に歩いて行く彼女の後ろを俺は苦笑いを浮かべながらついて行った。


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