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第3話 可愛ければ許されるのか

 これから2人で仲良く行動を共にしようという暖かい空気から一転して、氷河期にのように凍てつくことになった部屋に、湯気が出ているカップが二つ。

 俺が、とりあえず話を色々と聞くために入れたコーヒーだ。


 俺は、ゆっくりとカップに口をつける。


 目の前にいる彼女……柊木彩葉は身を縮こまらせ、目を泳がせながら俺の言葉を待っている。


「それで、どういうこと?」


「ご」


「ご?」


「ごめんなさい!!」


 椅子から転げ落ちるように床に移動して、そのまま土下座を決めきただと! そんな今の状況は、静まり返る部屋で、俺は優雅にコーヒを飲み、かたや13歳の少女はそんな男に額を床にこすりつけて土下座。

 俺が悪くないはずなのに、ものすごい罪悪感を感じるのだが。だが、俺は表情を崩さずにすまし顔を続ける。


「カマキリの魔物を連れてきたのは、わざとなの?」


 俺は落ち着いた声で質問する。


「はい」


「一応聞くけど、もし俺が眠ったままならどうするつもりだったの?」


「まぶたの下がぴくぴくしていたので、眠りが浅いと判断して……はい。助けを呼べば起きるかなと。何回かチャレンジしてもいいと思っりもしなかったり」


 そこまでしっかりと確認した上での行動だったと。それじゃあ、一番聞きたいことを聞くとしますか。


「それじゃあ、どうしてそんなことをしたんだ?」


「む! もしかして、時雨さんは鈍感系を目指しているお方ですか。駄目と言いませんが、度を超えると面倒な奴と思われたり、収拾がつかなくなったりしまよ」


 土下座していた顔をガバッと上げて、座っている俺にズイっと顔を近づけてくる。距離感近くないかな、この子。そして、彼女の言いたいことは分かるが、この子は眠っている俺に一目ぼれでもしたというのかね。

 そして、結界を解いた時の涙目から、俺への抱き着きまで全て演技だとすると、信じられる根拠なんてないぞ! 何か裏があっての行動としか思えないのだが。


「もし、俺が弱くて、カマキリもオーガも倒せずに腰を抜かしていたらどうしたんだ?」


「そこは、あれですよ。最強系のヒロインとして、代わりに魔物をばったばったと倒していきます」


「追われて逃げていたのにか?」


「力のない時雨さんには、私しか頼れる人がいないはずなので、どうとでもする自信があります」


 グッと手を握り締めて力説するのはいいが、もう謝罪する姿勢をひとかけらも感じないのだが。しおらしいかった雰囲気も崩壊している。


 そして、この勢いでこられたら、普通にやり込められていた気がしてならない。


「一応、口にして貰おうか。どうして、こんなことをしたんだ?」


「最初は何とかお知り合いになりたいという気持ちだけで、テンプレ演出してみました。恋愛は憧れていたんですが、人を好きなるという感情を持ったことがなかったので、この気持ちは何なんだろうか……て感じで、とりあえず縁を作るために行動してみたんです。そして、頭をポンポンとされながら抱き合うことができて私は気づいたんです。私は、一目であなたの事が好きになっていたんだと。好きになるのに時間など関係ないのです! というわけで、結婚……というのは流石に速いので、結婚を前提にたお付き合いしましょう」


「その言葉を聞いて、では付き合いましょうっていう訳ないだろ。裏がある気がしてならなんわ」


「……確かに、すぐに信じて貰うのは難しいかもしれませんね。運命の出会いとして、あのまま時雨さんが何も考えずに喜びながら私と行動を共にする展開が最良だったんですんが」


 本当に後一歩でその展開になるところだったよ。俺って馬鹿なのかな?

 

「えっと何をしようとしているの」


「私が本気であることを証明しようと思いまして」


 そう言いながら、彼女は自分の黒のワンピースに手をかけ始める。本気ですと? その言葉と彼女が今やろうとしてるいうことが結びつき、俺は高速で彼女の両腕を掴み、これ以上の行動を阻止する。


「時雨さんは、もしかして自分での手で脱がせたい派ですか? では、どうぞ!」


「どうぞ! じゃない。色々と過程をぶっ飛ばし過ぎだし、女の子が出会ったばかりの男にしていい行動でもないぞ」


「恋に時間は関係ないと聞きます! それにここで勝負にでないと、時雨がさんは私と一緒に行動してくれなくなるんじゃないんですか?」


「俺も今のこの世界のことがよく分からないんだ。とりあえず、一緒には行動したいと思っているよ」


「それじゃあ、私から知りたい情報を得たらどうするんですか?」


「…………」


 黙り込んで、目を逸らす俺を見て、再び脱ぎ出そうとする彼女を何とかおしとどめながら、


「分かった。分かったから。とりあえず、一緒に行動しながら、お互いのことを知って行こう。俺からしても、柊さんが本当のことを言っているのかどうか見極めたいし、君だって本当に自分の直感が正しいのか確認してからでも遅くはないだろ?」


 虚しくなるが、自分の顔は普通……だと思っている。モテたことはないし、実はファンクラブがあったりなどもない。それは、学校に通っていた時の黒歴史が証明してくれている。


 一目惚れなんてありえないと思っている。だが、仮に嘘だとしても、それが目の前の彼女が悪人で、俺を騙して何かをしたいと思っていることを証明している訳ではない。仮に騙そうとしても、どうにかなるだろう。

 だったら、とりあえず行動を共にして、それから結論を出せばいい。まあ、彼女の好意が本当だったとしても、俺がそれを受けらいれるかどうかは別だが。


「彩葉」


 俺の提案を聞いてジッと俺を見つめていた彼女が俺にはっきりと言う。


「年上の好きな人に苗字のさん付けは、何か距離感があって嫌です。私も……時雨さんのことを悠さんって呼びます。いいですか?」


「えっと、それは構わないけど」


 我が意を得たりといった感じで、ガッツポーズをしてきた。その表情は喜びに満ちているように見える。


「エヘヘ。それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね。悠さん」


 ワンピースを翻してながらクルリと一回転した彼女は、はにかむような笑みを浮かべながら俺に手を差し出してきた。


 悠さんという呼び名にむずがゆさを覚えながら、俺は彼女の手を握る。


「よろしく。彩葉」


「すぐに私の気持ちが本気だって教えてあげます。そして、メロメロにさせてあげます」



 今まで生きてきた中で、ここまでストレートに好意を伝えられたことも、魅力的な笑顔を見たことが無い。胸が一瞬高鳴る感じがしたのだが、俺はチョロイのだろうか。


 深呼吸だ。深呼吸。目の前の少女は、演技で涙を流せる女の子だ。でも、俺なんかを騙してなんか得するのだろうか。それに、俺とフラグを作るために、自分から『魔物に追われるヒロイン』を演じただけだ。あざといが、俺に好意が姿勢には、嘘は見えてきていない。


 分からん。分からないが、とりあえず一緒に行動して見極めるとしよう。


 俺は、顔が引きつるのを自覚しながらも、何とか笑み作り、「期待しているよ」と言葉にだす。


 とりあえず、感情を隠して演じる力は、目の前の少女よりも遥かに劣ることだけは理解することができた。


 嘘を暴いた事で、俺の立場がむしろ悪くなったような気がするのだが、どうしてこうなったんだ?

 誰か年下の女の子の扱い方を教えてくれないだろうか。


 気持ちを落ち着けるために、テーブルに置かれているコーヒーに口をつける。


「あ、私はコーヒー苦手なんです。他に何かありませんか」


「……コーヒー以外だと、紅茶とお茶だけどどっちがいい?」


 コーヒーに口をつけなかったのは、遠慮じゃなくて苦手だったからですか。右手をちょこんと挙げて、首を傾げながら飲物変更を希望する彩葉にため息をつきながら聞く。


「それじゃあ紅茶でお願いします。ミルクがあれば最高です」


「畏まりました、お嬢様っと」


「え、あるんですか! 腐ってませんよね、そのミルク」


 立ち上がって、キッチンにある魔力で作動するIHコンロという、俺がいない間にどれだけファンタジーな技術革命があったんだよと突っ込みたくなる魔道具らしいもので、湯を沸かすために立ち上がろうとすると彩葉が驚いた声を出す。


「そこのパンドラの箱と化している冷蔵庫の中身から取り出していないよ。俺がこっちに戻る前に、収納空間に入れておいた牛乳だから安心しなさい」


「それなら安心……なんですか? 数日間経っている可能性のあるミルクはちょっとお断りなんですが」


「数日間だろうが、数百年だろうが、俺の収納空間は取り出す時以外は時間が止まっているから腐らないよ。お前のは違うのか?」


 彩葉も収納空間を持っていることは、この一室に来る際に聞いている。リュックも武器も持っていないから、収納空間が使えるのかと聞いたら、『そうなんです』と少し照れた感じで答えてくれいていた。


「収納空間は時間が止まっていて当たり前みたいな言い方!? そんな訳ないじゃないですか。普通に時間は進んでいますって。悠さんは、どれだけ魔法が進んでいる世界に行ってたんですか。後、お前じゃなくて、イ・ロ・ハです!」


 当たり前じゃないのか。ということは、彩葉の収納空間に食べ物を入れたりすると腐敗が進むと言うことか。だとしたら、基本的に俺が収納空間に食料とか入れた方がいいかもな。

 それと残念ながら魔法が進んいるもなにも、神が用意した箱庭空間に拉致されたから、どれだけ進んでいたかなんて全く分からないんだよ。


それと呼び方か。

……彩葉……ね。下の名前はやっぱりちょっと恥ずかしいが、ドングリをほっぺた詰め込んだリスのようにしながらこっちを見ている、彼女を見ていると諦めしかないよな。彩葉と呼ぶまで何度でも訂正を要求してきそうだし。


「気をつけるよ……彩葉。それじゃあ、紅茶いれるよ」


 その言葉に、彼女は一転して嬉しそうに笑みを浮かべる。


「それでいいのです。それにしても、時間が止まっている……か。悠さんの世界では空間を作り、時間も止めることができる方法が体系化されていたんですか? まるで、収納空間が使える人は、時間を止められて当たり前みたいな言い方でしたが。もしよかったら、教えて貰えたりするとうれし~な。なんて」


「教えたいのはやまやまだが、俺の世界にいた人間は、神から収納空間の力を与えられていたから、どうやって使えるようになるなんて分からいよ」


「す、素晴らしい神様ですね。神の祝福ってことですか。他の世界からしたらチートですよ。チート」


 チートって言われてもな。まあ、便利なのは確かだが。それに、素晴らしい神なんてことは……この力を与えたのは、あのクソ女神なのか? それともアウラ様なのか? 後者ならあながち間違っていないかもしれないな。素晴らしいは言い過ぎかもしれないが。


「チートかどうかは知らんが、とりあえず紅茶ができたぞ。牛乳は自分でいれてくれ」


 残っていたお湯を温め直して淹れた紅茶と牛乳を彩葉の前に置く。ついでに、一口も口にしていないコーヒーの入ったカップを手に取る。


 このまま残すは勿体ないからな。


「つ、冷たい。本当に時間が止まっているんですね」


 彩葉は、ビンに入った牛乳を手のひらに包み込み、牛乳が冷たいままの状態であることに驚いていた。

 

「収納空間については、とりあえずいいだろう。教えることもできないし。それよりも、これからどうするかだが――」


「まずは、魔石の回収からですね」


 彩葉は、ミルクを入れた紅茶を両手に持ち、フーフーと冷ましながら答える。猫舌なのか。狙っているのかどうかは分からないが、彩葉の容姿も合わさっていちいち可愛いな。


 それにしても魔石……? 知っているのが当たり前のように、断言されてしまったのだが、魔石ってなんだ。いや、魔力がこもっている石や結晶とかで、ゲームとかだと採掘したり、魔物を倒す事で手に入るもの。


……もしかして。


「さっき、俺が倒したオーガとカマキリからか?」


「はい。他に魔物が寄って来ても大丈夫だと思いますし、むしろ獲物が増えてラッキーです。後は、使えそうな素材があれば回収しておきましょう」


「魔石や素材は売れたりするのか?」


「もちろんです! 悠さんが居た世界でもそうでしょう?」


 倒すとゲームのように、ドロップアイテムのように皮や鱗だけになったり、捌かれた肉のようになっていたけど。それを言うと、説明が面倒だしかいいか。


「俺がいた時は魔物なんてこの世界にいなかったから、どうなんだろうって思ってな」


 彩葉はポンと手を叩きながら「なるほど」と頷く。


「それじゃあ、とりあえずさっきの場所に行きましょうか。これを飲んだら」


「了解」


 俺は、最初に自分のために淹れたコーヒーの入ったカップを飲もうとすると、テーブルの向こうからほっそりとした手が掻っ攫っていった。


 なんで?


「苦手を克服するために挑戦させてください。もしかしたら、飲めるようになっているかもしれませんし。口直しのための紅茶もありますし」


 なるほど。確かに、苦手だったものが、年を取ると平気になったり、むしろ好きになることはある。俺も、コーヒーを最初に飲んだ時は、こんな苦い飲み物二度と飲まないと思ったが、今は好んで飲んでいる。さて、彩葉どうだろうか。心配なのは、少量しか残っていない冷めきったコーヒーだから、そもそも美味しくないのではという点だが。


 彩葉はじっとカップを見つめて、クルリと回転させて飲み口を逆にして口に付ける。なぜ、そんなことをしたのかは気にしない。気にして、顔に出した時点でたぶん俺は、彩葉に負けたことになる。


 彩葉の言葉に納得した表情でいればいいのだ。


「どう?」


「苦いです。美味しさを一切感じませんね」


 舌をチョコンと出しながらウヘェ~といったような表情でコーヒーの入ったカップをテーブルに置き、代わりに紅茶に口をつける。


「仕方がないので、慣れるまで偶に悠さんのコーヒー少し貰いますね」


「勝手にしてください」


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