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プロローグ

「昔やっていたゲームで、当たり前のように見ず知らずの家の棚や壺を漁ったり、明らかに保管されている宝箱を、鍵を開けてまで手に入れてたりしたけど……普通に強盗以外の何物でもないよな」


 俺はロックのかかっていたマンションのドアが無理やり開けられた光景を見ながら呟く。やっていることは、完璧に強盗。いや、室内には誰もいないから強盗にはならないのか。どちらにしても、泥棒には違いないけど。


「バレなければいいんですよ! バレなければ! そもそも、家主が生きているかどうかも怪しいと思いますし、私達が漁った事を突き止めれるとも思いません。そもそも、戻ってこれませんよ」


「いや、まあそうなんだけどね」


「ではでは、今日もRPGに出てくる主人達になった気持ちで、無人の家をどんどん漁って行きましょう」


 テンションを上げながら、俺の横を通り過ぎていく女の子。俺が地球に戻ってから最初に出会った人間であり、この子以外とは誰とも遭遇してはいない。


 おそらく、今俺達がいる住宅街の一つのマンションにも、周辺のマンションにも、一軒家にも誰もいない。


 ほんの数年前までは、まだ人が住んでいたらしいが、安全なシティと呼ばれる場所とかに逃げてしまったらしい。代わり徘徊しているのは、オークやゴブリン、オーガといった獣人型の魔物や、昆虫タイプ、そしておそらくは俺がまだエンカウントしていないだけで沢山の種類の魔物がいるのだろう。


 俺が神に拉致されて箱庭にいた間に世界は、随分と様変わりしてしまっていた。


「やったー! ついに念願の制服をゲットーしましたよ! しかもセーラー服です」


 女の子の喜びに満ちた悲鳴が耳に届く。俺は苦笑いをしながら室内に入っていく。どうやら、ようやく彼女と同い年くらいの女の子が住んでいた部屋を探し当てることができたようだ。制服で大喜びするあたりがよく分からないが。


 室内の奥からバタバタと足音たてながら、先ほど俺の横を通り抜けいった女の子が嬉しそうに飛び跳ねながらひょっこりと俺の前にでてくる。


 本人曰く13歳。身長はあまり背が高くなく俺の肩くらいしかないので、150㎝少しあるか程度だろう。顔は美少女と言って間違いなく、猫っぽいというか、小悪魔っぽい愛嬌のある顔立ちをしている。髪は、背に届くほどまで伸ばしており、癖のない綺麗な黒髪だ。ほっそりと伸びる手足は白く、傷などはない。


 そんな彼女は、セーラー服を俺にみせびらかすようにどや顔で俺に突き付けてきた。


 彼女が持っているセーラー服は白ではなく、紺色タイプだった。俺としては白色の方がイメージに合うのだが。いや、どちらでもでいいけどね。 


「どうですか! サイズもピッタシですよ! まさに私のために用意されていたと言っても過言ではありません」


「いや、それはこの家に住んでいた女の子のための制服だから。それで……彩葉は制服に着替える訳?」


 彩葉の今の服装は、特徴のない黒のドレスを身に着けている。魔物に見つかる可能性を下げることを考えるなら、目立たない色のままでいいと思うのですが。


「私は学校に通ったことが無いんです。制服に袖を通してみるのが私の夢の一つだったんです」


 彩葉は、制服を自分の胸にギュッと抱きしめるようにしながら、頬を赤く染める。そんなことを言われてしまっては、着るなとは言えない。それに、俺も彩葉の制服姿を見てみたいと言えば、見てみたい。


 俺はロリコンではないと自分を信じている。可愛い女の子のセーラー服姿を見たいという欲求は健全だろう。うん。


「それに、これで悠さんの希望通りの制服プレイをすることができます! 下着に他の部屋で入手したアレもあるので準備は――」


「俺が何時そんなことを言った!? それと、まるで既に関係を持ってしまって、俺がリクエストしているようなセリフを吐かない!」


「っむぐぐ……あむ」


「な、なにを」


 塞いだ俺の手をペロンと舐めたのか。俺は湿った手のひらを見ながら、彼女の方をみると、舌をチロリと見せながら、勝ち誇った笑みをしていた。6歳も年下の女の子に完全に遊ばれているだと。


「ではでは、私は着替えてきますので、悠さんはキッチンで食料がないかのチェックをお願いします」


「分かったから、着替えるなら早く着替えてこい」


 彼女は、「りょ―かーい」という言葉と共に、おそらくは制服があったであろう部屋に入って行く。他にも服が無いか等のチェックもするだろうから、まだ時間は掛かるだろうな。


 俺は、ため息をつきながらキッチンに向かおうとすると、彼女が入って行った部屋の方からカチャという音が耳に届く。どうしたんだと後ろを振り返ると、半裸の状態の彩葉がこちらをニヤニヤとしながら見ていた。なにしているの? 暗くてあまり分からないが、シンプルな黒色の下着も少し見えてしまっていた。俺は顔が赤くなっていくのを自覚して、「うお!」と思わず言いながら慌てて目を逸らす。


「鍵はかけないので、覗きたいのでしたら遠慮せずにどうぞ♡ そのまま興奮して押し倒しても私は構いませんよ。ベッドもありますし」


「いいから着替えるなら、さっさと着替えろ!」


 アハハハという可愛い笑い声と共にも、再び扉がバタンと閉じる音が俺に耳に届く。俺は、ゆっくりと閉まった扉を見ながら、一拍置いて頭を抱える。これでは、どちらが子供で大人なのか分からない。いっそのこと、本当に突入して驚かしてやろうか。いや、それはリスクが高すぎる。


 驚いてキャーと叫んでくれればいいが、余裕の表情で押し倒せるなら押し倒してみないといった態度を取られたら、俺がフリーズする。

 それはあまりにも情けない。

 では、有言実行するのかといわれたら、駄目駄目。ここに警察はないが、犯罪はだめ。それに、本気で怯えられたりしたら、これからの一緒に行動するのに支障をきたすことになる。


 結論は、いくら振り回されても、やっぱり13歳の女の子にむきになっては駄目ということだ。


 むしろ、可愛い女の子にマセた悪戯をされて、振り回れるなんて羨ましい経験をしていると開き直ろう。


「可愛い下着がいっぱい!! これも貰っちゃおう」


 喜色の混じった彩葉の声は聞こえなかった振りをして、俺は食料を探すために改めてキッチンに向かう。心の中で、この家の娘さんに、いやご家族に謝っておこう。


 俺は冷蔵庫をスルーして(最初の家で不用心に開けてしまって二度と開けないと誓った)、洗面所の下にある収納スペースや、棚の中といった場所を調べて行く。


 パスタや素麺、缶詰、乾燥ワカメ、パックのご飯、カップヌードルそれに塩や砂糖、コショウといった調味料まで片っ端に収納バックに詰め込んでいく。


 賞味期限が1年程度切れていても、乾燥ものなら大丈夫だろう。


「非常食を玄関に置いてたりするのかな。確認してみるか」


 キッチン周りを一通り確認したら、避難グッズとして水とか乾パンといった携帯食料がどこかにないかを探し始める。

 

「予想通りだな。これがあるってことは、何かあって家に戻らずに避難したんだろうな。それとも……」


 部屋はそれ程散らかっておらず、保存がきく食料も残されていることを考えると、家に戻って来れなかった事情があったのだろう。せめて無事に避難できたことを祈ろう。


 無事を祈りながら、無断で食料や衣類などを盗んでいく。何とも言えない気持ちになりながら、俺は彩葉がいる部屋以外の場所も物色していく。


「悠さ~ん! 着替え終わりました。私の部屋に来てください」


「ようやく着替え終わったのか。持って行く衣類はとりあえず全部俺が預かってや……る……」


 俺は部屋を開けた先に広がっていた景色に言葉を失う。条件反射で扉を光速で閉めるべきだったのだが、あまりの光景に目を奪われ、呆然としてしまったのだ。


 そこには、スクール水着を装備した彩葉が立っていたからだ。


「スクール水着も一部の男性に需要があると聞いたことがあるので着用してみたんですが、悠さん的にはどうですか。ムラムラしますか?」


 凄くいい笑顔で、前かがみになりながらじりじりと近寄ってくる彩葉。我に返った俺は、素早く扉を閉める。


「ふ~」


 色々とヤバかった。控え目に主張する胸に、雪のように白い肌、そして計算されつくしたように俺を覗き込むような斜め下からの目線。

 俺の限界を探るのを楽しんでいるようにしか思えない。


 ガチャ


 その音が聞こえた瞬間に、俺はかつてない速度で振り返り、小動物じみた動きで突撃してきた存在に自分を庇うように右手を前に突き出す。


「あぐぐぐぐ」


「何をするつもりなのかな?」


 必死で俺に突撃しようとしてくる彩葉の頭を抑えて、これ以上の進行阻止する。俺の問に、彩葉はニヤリと笑みをしながら、恐ろしいこと言う。


「ヘタレな悠さんを焚きつけるために、このまま抱き着こうとしているんです。だから、早く手をどけて私を受け止めましょう。コスプレにならない年齢のスクール水着の美少女に抱き着かれるチャンスなんて、そうそうありませんよ」


「コスプレじゃなくて、年相応だからこそ危ないの。もっと慎みを持ちなさい」


「私は草食系ではなく、肉食系を目指しているので問題ないです。一緒に肉食系になりましょう」


「断る!」


 肉食系が悪いとはいはないが、ロリコンの肉食系とか単なる犯罪者だぞ。犯罪者になれと?


 ウグググと言いながらの10秒ほどの攻防。当たり前だが、俺が負けるわけない。


「分かりました。悠さんのヘタレっぷりには負けました。大人しく制服に着替えてくるので、手をどけて貰っていいですか?」


「だったら、そのまま後退して部屋に戻ればいいだろう。舌打ちをするなッツと!!」


 彩葉をとらえていたはずの視界が、無理やり天井へと変わる。何かを俺の足と床の間に滑りこまされた?


 背中と胸の両方に受ける衝撃。痛くはない。だが、胸に圧し掛かっている、俺を転ばした張本人であろう彩葉が俺に与えているのは衝撃だけではない。防御力が限りになく0に近い装甲を纏った体の柔らかさと暖かさが、ワイシャツ越しから伝わってくるのだ。ついでに控えめな柔らかさも。


 慌てて視線を自分の胸に抱き着ている物体に向けると、そこには作戦成功といった笑みを浮かべている彩葉。離れるつもりが無いのか、がっしりと俺の腰に手を回している。


「…………」


 俺はその視線に対して無言で答える。とうよりも、どうすればいいのか対応が思いつかない。もう警察もいないんだしいいんじゃないかという悪魔のささやき一瞬聞こえた気がしたが、それは無視する。そんな覚悟はまだない。引き離すにしても、がっしりと掴んでいる彩葉を引き離すとなると色々触ることになる。あれ、詰んでね?


「固まってどうしたんですか? そろそろ何かリアクションを」


 無言で静止している俺を不信に感じたのか、ここにきて初めて戸惑ったような表情をする彩葉。顔も少しずつ赤くなってきているように見える。悪だくみが成功したはいいが、彩葉もこの後どうすればいいのかまでは考えていなかったようだ。それとも、こここまできたら流れでどうになるとでも思っていたのだろうか。俺のヘタレっぷりを甘く見ないで欲しいな。とりあえず、彼女に言う事は一つだ。


「離れて貰っていい?」


 ほんのりと顔が赤くなっている彩葉は、目をぱちくりした後に、真顔で答える。


「嫌です」


 その言葉の合図に、俺は理性を強く持ちながら、横倒しになりながらの攻防を数分間続けて、何とか引き離すことに成功した。


 引き離した彩葉は、「次は覚悟してください」と言いながら、年齢にそぐわない妖しい笑みを浮かべて、ようやく着替えに戻ってくれた。


 引き離す際に、いろいろとヤバい部分を触った気がしなくもないが、そこは考えないことにしよう。きっとセーフだ。


 俺は閉じる扉を見て、脱力感を感じながらため息をつく。彼女と出会った日のことを思い出しながら。


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