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いつか橋のたもとで  作者: 荒瀬ジュン
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ロングドリーム

 マイは最愛の妹である。それはもう溺愛していて、私自身よりもマイの事が大切で、この命さえも惜しみなくささげることが出来るのである。幼い頃より私の後をついてきて一緒に秘密基地を作ったり、崖を登ったり、修行ごっこしたりするなど全く女の子っぽい遊びはしてこなかった。

 しかし、小学・中学・高校と進学するにつれ近所でも有名になる程に整った顔立ち、見事な8頭身といった容姿である。また、アルビノなので氷のように白い肌、髪の毛は白髪であり、日本人に見えない…妖精、エルフといった方がピンと来るであろうか。

 そんな最愛の妹と私の物語をこれより綴っていこうかと思う。


              ロングドリーム


 異様なアラームが惰眠を裂いた。真夏の昼下がり。スマホとタブレットが一斉にけたたましくアラームが鳴る。恐ろしく眠かったのだが、一瞬で眠気は冷める。国民保護サイレンだ。

 各種アプリが『北朝鮮より未確認飛翔物体飛来!屋内に隠れろ!』の文字を1字と違わず伝えている。今話題の国が、恐れていた行動を実行に移したのか、本当にこの辺りにひらいするのか、と跳び起き、急ぎ着替えながら考えた。


 「おい!マイ起きろ!ミサイルが飛んできてるらしい。」


 慌てていたのでドモリ気味にまくしたてる。物音がしない。


 ドンドンドン!


 返事がない。ただの妹のようだ。じゃなくて、まだ寝てるようなので部屋に入ることにする。カチャリと軽い音を立てながら、やや緊張しながら妹の部屋に入る。

 ふわっと風が流れ込み、レースカーテンが舞った。オレンジ系に配色されたベッドの中央に小柄なマイが静かに寝息を立てている。マイのスマホもアラームは鳴っているのに微動だにせず、何事もないかのように寝ている。


 でもまぁ、素っ裸で寝ているとは知らなんだ。こんな非常事態だというのに色々意識してしまう私にややゲンナリしたいところだがそれどころではない。


 「おい!起きろって!」


 左頬を軽く叩き起こす。ビクッと反応した振動がベッドを揺らす。


 「な、なに!?お兄ちゃんどうしたの!?え・・・?」


 驚いたマイは状況が飲み込めず呆ける。北朝鮮がミサイルを撃って、今国民保護サイレンが鳴っていることを身近にあったマイの制服をかき集めながら伝えた。も、勿論下着一式一切もだ。


 「なんで下着の場所そこだって知ってるの?」


疚しいことは無い。マイが病気で寝込んでいた時選択したのは私である。よって、たたみ、タンスに入れたのも私なのである。我家に親はいないので。クンカクンカしたから知ってるとかでは間違ってもないのである。

 それよりも早く着替えて斜向かいのアニメ会社の地下に逃げようと提案する。なかなかの有名制作会社で、町ビル1本丸々会社で、結構広い地下室があるのを知っていた。そこの御曹司と俺は幼馴染なのである。


 「警報でてから3分経った。もう行くぞ!パンツなんか後ではけって!」


 だんだん状況が飲み込めてきたようで、慌てて着替えながら目を白黒している。


「お待たせ。いこッ」


 階段を駆け降り、兄妹ふたりしてローファーを突っ掛ける。オオカミ少年化していた北朝鮮がまさか本当に日本に向けて攻撃してくるのかどうか未だに疑心暗鬼で。それにマイは裸を見られたというのに対して驚くそぶりも見せず。そう、私は混乱していた。何もかもが異常事態であった。


 アニメーション制作(有)ツェルマット


 古臭く板に墨で描いた表札のドアを叩いた。応答はない。思いドアノブを回してみる。


 ガチャン


 重さのわりに軽い音が廊下に響いた。そこには見慣れたアニメ制作現場が広がる。異様に冷やされた空調と、パソコンのファンの音だけがしている。

 飲みかけのコーヒーマグカップ、エナジードリンクにポテチの空袋の山。お世辞にも清潔とは言えない環境である。


 「誰か、誰かいませんか?鹿嶋田さんいないんですか?」


 応答はない。寝てると何をしても起きないので寝室にいるのかとも思い向かう。ふすまを開けると真夏だというのに厚手の掛布団が、主の寝ていたであろう形のままポッカリと空洞を作っているだけである。

 居ないのであれば仕方がない。私たちに残された時間は大してないはずだ。マイの手を取り地下室に向かうことにする。地下への階段は案外深く長い。途中2か所に裸電球が吊り下げられているのみである。上側の電球は何時までも切れたままである。

 なんでだかたいそうなドアというかハッチで密閉された部屋。回転式の、銀行であるようなタイプのドアノブというのか?を回してやたら重いドアを開けて閉める。自動的にキュルルルと再度回ってしっかり密閉されるのである。何でも前の持ち主が筋者だったそうで、この部屋はパニックルームというらしい。


 と。


 耳をつんざく轟音と共に激しく振動した。今までに経験したことのない激しい揺れ。直下型の地震を喰らったかのような揺れが私たちを襲う。ココはパソコンや重い機材が多い。マイを守る為マイを強く抱きしめ床に突っ伏した。


 「お兄ちゃんコレって本当に・・・。しかも近くに落ちたよね。外とか、学校とか。み、みんなは!?部屋に残してきたハムちゃんは!?」

 「今は何も考えるな。ココなら安全だからしばらく居よう。もしこれが核なら今外でちゃだめだ。」


 この震えは地震でも核でもない。マイと私の震えが合わさて共振して。それは揺りかごのように心地よく、こんな時だっていうのに二人は眠ってしまったんだ。そうとても、穏やかで。


 どのくらい経ったのだろうか。トラックの荷台に乗せられてるかのような振動が私たちを緩やかに覚醒させる。分厚い鉛の壁に覆われているので外の様子がわからないのだが、どうも外らしい。そして何故か運ばれているようなのである。地下にあったものをどうやって掘り起こしたのか、この短時間で?

 好奇心には勝てず、少しだけドアを開けてみる。と。


 一面が真っ白で、他には何も見えない。移動している感じは伝わってくるのだが、景色が一切変わらないので実際に移動しているのか目ではわからなかった。そして、夏だというのに暑くも寒くもなく、ただひたすらに白の世界が広がっているばかりである。


 無 それが一番この世界に相応しい言葉ではないだろうか。マイは驚きもせず全て受け入れたようである。おそらく私たちは死んだということを。きっとミサイルは本当に落ちたであろうことを。


 「案外何も変わらないね、痛いとか悲しいとか無いし。外も真っ白だし。お兄ちゃんいなかったら発狂しちゃいそうだけど。いるしね。昔も今も変わらず傍にいてくれてるもんね。改まって言うのは気恥ずかしいけど、ありがとう。」


 そう思っていたんだなぁと、やや感慨深くなる。いつもくっついて、ひっついて、ついてきていた。そんな最愛の妹と共に死ねたのなら思い残すこともない。もし別々で死んだとしたら、半身が欠けたように思えたことだろう。2人で1つの間柄。好きとか大事とか、そういう次元じゃない。どちらかが欠けたら自分じゃない。欠けたら探しに行く、どこへでも。どこまでも。マイはMyでまい。昔から、その昔からマイだった。色々、思い出した。過去も未来も現在も。

 

 一筋の光が見えた。白の世界に瞬く光。あそこへ行こうとマイに促す。待っていたとばかりに私の手をひき駆け出す少女。 光に近づくにつれ犬に、人に、鳥に・・・いろんなものに変わるマイ。すべてがマイだ。私もだんだんと体がなくなり、眩い光に変わっていく。

 明るい広場、多分草原でしばらく私たちは待つことにした。他にも何人も何匹も何体もそんな光がゆったりと過ごしている。どれも世界に一つだけのメモリーを携えて。生きている。この二律背半。それが真実であtった。


 不忍池上空300M。ミサイルは爆発した。3重水素方式を採用。強力なパワーが東京東部を焼き尽くした。

地中の、それも鉛に覆われていたパニックルームにいたというのに、強力すぎるガンマ線に私たちは殺された。細胞壊死。私よりも早く弱るマイは死を悟り、ただ、ありがとうを囁いて微笑み、死んだ。その刹那に暗転し、この世界に戻ってきたのだ。優しくて暖かくて懐かしい。多分生命の故郷はココなのである。天井の光の園。悲しみはない。穏やかにマイに寄り添い微睡む。


 長く夢を見ていたような気分に浸り、マイに頭を撫でてもらっている。さて、しばらく時間があるようなので、私たちのメモリーを記してみようと思う。

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