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7.謁見

「では、時間ですので私のお父様、ラインハルト・アウゲスト・ハイネルとの引見です。謁見の間に案内しますのでついてきてください」


 謁見の間。まさにお城ですね。それにしても王様かぁ。怖い人じゃないといいですけど。


「ふふ、緊張しなくても大丈夫ですよ。今回は私たち王族と宰相、騎士団長だけですので。礼儀作法も気にすることはありません。楽に構えてください」

「そういわれてもなぁ。やっぱり緊張しちゃうよ」

「そうですねぇ。あっ。こう考えてみてはどうですか?私たちお友達でしょう?そのお友達の両親とのお話会みたいな」


 あ、それはいいかもしれません。


「ん、そう考える気が楽かも」

「でしょう?」


 リーゼはふふっっと微笑みます。


「じゃ、リーゼのご両親に挨拶に行こうかっ」

「はいっ」


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 グネグネと廊下を曲がりどんどん道を進みます。態々こんな風にグネグネ曲がる廊下は敵の侵入を妨げるためだと聞いたことがありますがどうなんでしょうね?


 そんなどうでもいいことを考えながら4分ほど歩いた先に大きな扉が見えました。扉の両脇には白銀の甲冑を着た人が直立不動の構えをとっています。


「リーゼ・アウゲスト・ハイネルと近衛騎士団長ヴォルフ・グロウズ。そして勇者チカゲ・ナナシです」


 リーゼの言葉を聞いた甲冑の人たちは息をのみ私のほうへ視線を向けてきます。と言うかこの一緒にいる厳ついおじさん近衛騎士団長だったんですね。ビックリ。


「はっ。中で国王陛下と王妃様。宰相様がお待ちです」


 そういって甲冑の人たちは扉に手を当てます。すると何でしょう。何かが甲冑の人から流れ出し扉に浸み込んでいきます。浸み込み終わると扉が物音を立てずゆっくりと開いていきます。


(何もしてないのに……。自動ドアなのかな?)


 開いた扉の隙間から室内が見えてきます。扉からまっすぐに伸びる深紅の絨毯。床は大理石のような真っ白の石材でできており、よく磨かれているのがわかるぐらいピカピカです。天井は大体4,5m。アーチ状になっていて大きなシャンデリアがいくつもぶら下がっています。壁際には精巧な模様が彫られた柱が立ち光る石が埋め込まれています。あれ何なんでしょうね?シャンデリアにも同じようなものが吊るされていますが何なのかわわかりせん。


 真紅の絨毯には金糸や銀糸で模様が縫い付けられていますがあまり派手さはありません。ですがおしとやかで威厳を感じられます。その絨毯の先には階段が設けられておりその上に椅子が三つ置かれています。その二つは先客がいるようです。


 一番前の席には40代前半の優しそうなおじさんです。その少し下がった位置に置かれる椅子には20代後半の女性が座っています。優しそうな目元がリーゼにそっくりです。さらにもう一人、なんだかちょっと怪しそうな雰囲気を持つおじさんが優しそうなおじさんの少し後ろに立っています。


 十中八九優しそうなおじさんがリーゼのお父さん。女性のほうがお母さん。怪しいおじさんが宰相という人なのでしょう。


 リーゼが部屋の中央に向け歩いていきます。私はその背を追うように歩き出します。


「国王陛下。勇者チカゲ・ナナシをお連れしました」


 リーゼは先ほどとは全く違う、威厳のある話し方をします。まるでお姫様のような、あ、お姫様か。


「そちらの少女が勇者チカゲか?」

「はい、異世界から召喚魔法により召喚いたしました。チカゲ」


 リーゼに名前を呼ばれたので隣に立ちます。隣に立つとリーゼが私にしか聞こえないように呟きます。


「……自己紹介お願いします……」

「え?……。私の名前は名無 千影。こちらの名乗り方ならチカゲ・ナナシです」


 隣をちらっと伺うとリーゼが笑顔で頷いてくれます。どうやらこれで良かったようです。


「そうか。それでチカゲは魔王討伐を助力していただけるのか?」

「はい。私の力で良ければ」


 私がそういうと国王様はニッっと笑う。


「近衛騎士団団長ヴォルフ・グロウズに命じる!勇者チカゲを育てろ」

「はっ」

「こ、国王陛下っ」


 よくわからないけど近衛騎士団長、私たちの後ろにいる人が私の教育係になるみたいです。でも今まで喋らなかった宰相が慌てて話に入ってきます。


「国王陛下っ。ヴォルフを教育係謎にさせてよろしいのですか!?彼はこの国の主戦力!そんな彼を小娘なんかにっ…」

「宰相!場を弁えろ」

「…っ。申し訳ございません……」


 なんだか険悪な雰囲気です。宰相はなぜか私を睨みつけています。何もしていないのに。


「これにて謁見を終了する。ヴォルフ。勇者チカゲとリーゼを連れて後で私の部屋に来なさい」

「はっ」


 言い終えると国王様と王妃様は出ていきました。宰相は最後まで私を睨んでいたけど二人が出て行ったそれを追うように出ていきました。

 残ったのは私とリーゼと団長だけです。


「勇者チカゲ」

「はい?」


 団長に呼ばれます。


「チカゲの教育係になるヴォルフ・グロウズだ。よろしく頼む。俺のことはヴォルフと呼んでくれ」

「じゃぁヴォルフさんで」

「では国王陛下の書斎に向かおう」


 ヴォルフさんはそう言って入ってきた扉とは違う扉から出ていく。その後ろを私とリーゼが付いていく。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 暗い部屋の中ガツガツと何かをぶつける音がする。


「くそっくそっくそっ!

 私がどれだけこの国に貢献していると思っているんだっ!

 それをあの男は!」


 そういうと男は近くにあった花瓶を壁に投げつける。


ガシャンッ。


「必ずっ、後悔させてやる!ラインハルト・アウゲスト・ハイネルッ」


 男は暗闇の中に消えていった。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 コンコンッ


「ヴォルフです。リーゼ様とチカゲをお連れしました」

「入れ」

「失礼します」


 黒い重量感のある木の扉を開くと本棚に囲まれた部屋が見えます。装飾というものはほとんどなく実用性を重視した部屋です。


「よく来たね。そこに座りなさい」

 

 さっきまでの威厳のある喋り方とは違うまさに優しいお父さんといった感じです。


「はははっ。さっきまでと違うから驚いているのかな?」

「さっきまでのはお仕事モード。今のが素なんです」

「なんだかすっごく優しいお父さんな雰囲気です」


 私がそういうと国王様はハハハッと心底面白そうに笑っています。


「面白い娘だ。娘を頼むね」

「は、はいっ」

「娘もパーティーの仲間になる予定だからね。私は反対なんだけどね」


 え?今なんと?


「今なんと?」

「私は反対なんだけどね?」

「もっと前です」

「娘もパーティーの仲間になる予定だからね?」

「そう、それです!」


 娘?誰のこと?もしかしてリーゼ?


「娘って、リーゼのことですか?」

「そうだが…」

「へへへっ。驚きました?私もチカゲと一緒に魔王を倒すのに同行するんですよ」

「リーゼお姫様でしょう?いいの?危ないところに行くんでしょう」


 私は勇者だから強くなれるみたいだけどリーゼってお姫様でただの女の子で……。


「リーゼ様は天才と言われるほどの魔法の使い手なんだ。宮廷魔術士団主席には届かないがいずれ宮廷魔術士団主席を超えるだろうと言われている」

「リーゼ、強いんだ…」


 リーゼはえっへんとない胸をそらしています。あ、ごめん睨まないで……。


「チカゲはこれから訓練を始めます。それに私も付き合います。魔法ができても接近されたら意味がないですから」

「よく考えているんだねぇ」


 リーゼはまたない胸あ、ごめんなさい。もう言いませんから!

 うぅ、リーゼが怖い……。


「さて、いろいろ話が脱線してしまったが自己紹介といこうか。私はこの国の国王、ラインハルト・アウゲスト・ハイネル。呼び方は好きにしてくれ」

「じゃぁ、ラインさんでいいかな?」

「ち、チカゲっ。それはさすがに無礼……」

「はははっ。やっぱり面白い娘だ。それでかまわんよ。ヴォルフ、チカゲを武具庫に案内してあげなさい。訓練するにあたって武器を決めないことには始められないからね」

「はっ。リーゼ様のほうはどういたしますか?」

「私もまだ決めてないから一緒に行きます」

「ということらしいから任せるよ」

「承りました」


 ヴォルフさんは失礼しましたと言って書斎を出ていきます。それに私たちもついていきます。


「武具庫はあまり行ったことがないですから少し楽しみです」

「いったことないんだ」

「私は一応この国の姫ですからね。そういう危険のありそうな場所には行けないんです」


 なんだか皆フレンドリーすぎてリーゼたちが偉い人だということを忘れそうになってしまいます。


「ついた。ここだ」


 ヴォルフさんがたった場所には頑丈そうな鉄の扉があります。


「厳ついねぇ」

「ここは多数の武具が保管されている場所だ。危険なものがあるため警備も厳重になっているのだ」


 ヴォルフさんはそう言い終わった後扉に手を当てます。するとヴォルフさんから何かが流れ出し扉に浸み込んでいきます。

 またです。なんなんでしょう。


 扉の中にはとてつもない数の武具が所狭しと並んでいます。


「わぁ……壮観だね」

「我が国自慢の武具庫だからな。一般に浸透されていないようなマニアックな武具まで揃えてある。手に馴染むものをじっくり時間をかけて選べ。命を預けるものだ。いくらでも時間をかけろ」

「「はいっ」」


 武具庫に入ります。鉄臭い……。


「武器かぁ。私が触ったことのある刃物なんて包丁ぐらいしかないしなにがいいのかなぁ」


 自分に合うものなどよくわからないのでとにかく見渡しながら歩きます。


 ん?今何か……。


 なんだか視界の端に映った何かに目がひかれました。

 そちらに目を向けると一振りの鐺から柄頭まで真っ白な刀がありました。申し訳程度に金色の装飾がなされています。


 なぜか、すぅぅぅぅぅぅっごく気になります。

 手に取ると柄が手に吸い付くように感じます。これが手に馴染むというものでしょうか。


 重さも心地よくこの刀が私に使ってほしいと言っているようです。


「チカゲー。どうですか?」


 リーゼがこちらにやってきます。手には錫杖のような杖を持っています。全体的に白く先のほうに環がつながった飾りがついています。


「リーゼ、それは何?」

「ロッドです、このロッド仕込み杖になってるんです!ほらっ」


 リーゼはそう言って杖をいじるとカチッと音がして中から細い刀身が出てきました。レイピアのように細い刀身です。

 そんな武器を笑顔で見せてきます。ヤンデレの様です。正直怖い……。


「へ、へぇ。すごいね…」

「?それでチカゲはどれにするんですか?もしかしてその持っているやつですか?」

「かな。なんだかすっごく手に馴染むの」


 私は鞘から抜いてみます。出てきた刀身は白く透き通っていて奇麗な波紋の浮かんでいます。


「わぁ。すっごく奇麗です!」


 本当に、奇麗……。


「決まったか?」


 私が刀の美しさに囚われているとヴォルフさんがやってきました。


「私はこれにします!」

「ロッドですか。魔術師のリーゼ様には合っていますね。それに仕込み刀、接近戦にも向く武器です。良い選択です。銘は白月しらつき。大切にしてやってください。それでチカゲのほうはどうだ?」

「私はこれですね」

「っ」


 ヴォルフさんに刀を見せると息をのむのがわかりました。


「どうしたんですか?」

「それはインテリジェンスウェポン。意思を持った武器だ。インテリジェンスウェポンは持ち主を選ぶ。その刀を抜くことができるか?」

「はい、すごく奇麗な刀でした」

「ほぅ」


 ヴォルフさんは感心したように目を細めます。ヴォルフさんが言うにこの刀はインテリジェンスウェポンとして城にやってきたはいいが誰も抜くことが敵わなかったと言います。


「それじゃチカゲが初めてなんですね!すごいです」

「この刀の銘は白夜叉」

「白夜叉……」


 その銘がすぅっと頭に流れ込んできます。


「うん、今日から私の相棒。よろしくねやーさん」

「やーさん?」

「白夜叉の愛称だよ。可愛いでしょう?」

「か、可愛いですね……」


 なんだかリーゼがぎこちないです。


「さぁ、武器が決まったら訓練だ。訓練場に移動する」


 移動するヴォルフさんの後ろを私たちもついていきます。

 やーさん。よろしくねっ。

真っ白な刀を持った女の子

浪漫ですねぇ

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