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28.覚悟

この前にも一話更新しています

まだ読んでない方はそちらからどうぞ

 町から徒歩2時間ほどの森。そこに私たちはいます。


「ここがアーミーウルフがの生息域なの?」

「そうですよ。魔狼の森って呼ばれてます。この森には狼型の魔物が多数生息していて、森の中央に向かうほどその強さが上がっていくんです」

「……チカゲは無知。依頼の内容は事前に調べるべき」

「マオの言う通りです。まだ私がいるからいいですけど、一人で依頼を受けるときに依頼の内容の調べ方がわからないとなってはいけませんからね」

「うっ。ごめんなさい」

「反省したのらよろしいです」


 ちょっとリーゼに甘えすぎていたようです。反省です。


「では、連携の前にお互いの戦い方を見てみましょうか。ここらあたりはまだ弱い魔物しか出てきませんし、丁度良いことに一匹やってきましたし」

「じゃぁまずは私から行くよ。見ててねマオ」

「……ん」


 さて、相手はウィークウルフです。ウィークウルフは訓練された軍用犬より少し身体能力が高いぐらいのこの世界じゃ雑魚と言っていい魔物です。


「さぁ、いくよっ」


 これからするのは私の戦い方をマオに見せるというもの。本来ならウィークウルフ程度瞬殺できるのですが今回はできるだけ手を抜いて私のバトルスタイルを見せるようにします。


「ガウッ!」

「ふっ」


 噛みついてきたウィークウルフを避けてすれ違いざまに狼の横腹を切りつけます。


「キャンッ」

「そりゃっ」


 切りつけられたことで怯んだ狼の隙を見逃さずやーさんで狼の首を切り落とします。


「うぅ…………」


 手加減してもウィークウルフ相手ではすぐに終わってしまいました。自分の戦い方を見せるというだけの理由でウィークウルフを殺してしまった。その程度の理由で命を奪ってしまった。その罪悪感と肉を切りつけた感触に思わず顔を歪めてしまいます。


「へ、へへへ。どうだった?あまり見せれなかったけど私の戦闘スタイルは早さを重視した戦い方が得意なんだ。スピードで敵を翻弄してその隙にじわじわと敵にダメージを蓄積させていく。それが私の戦闘スタイル」

「……ん。今回は敵が弱すぎたせいで実力はわからなかった。けど、結構強そう」

「へへへ。ありがと」


 ガサッ……。


 そう話しているとまた次のウィークウルフが現れました。先ほどの戦闘で出たウィークウルフの泣き声に反応したのでしょう。


「今度は私です。と、言っても私は後衛の魔術師。戦い方などほかの魔術師と同じですがね」


 リーゼはそう言うとリーゼの武器のロッド、白月を構えます。


「グルルルルゥゥ……」

「『敵を穿て』ファイアアロー」


 唸るウィークウルフに向けてリーゼのファイアアローが狼を穿ちに掛かります。


「ギャッ……」

「……」


 狼はリーゼのファイアアローを避けきれず狼の頭に風穴があきます。頭部にこぶし大の穴が開いてしまった狼は糸が切れた人形のようにぐらりと倒れます。


「やはり手を抜くのは難しいですね」

「……流石銀上級。魔術の使い方が鮮やか」

「だよねぇ。私も魔法の練習してるけどあの域に達するにはいつになるか。やっぱ私は剣主体かな」

「当たり前です。私は何年もかけて積み上げてきたんです。そうそう簡単に抜かれては困ります」

「あはは」


 リーゼは3歳から魔術について勉強してきたといいます。つまり10年近く魔術と向き合ってきたのです。

 実際は第6階位ぐらいの魔法なら無詠唱でできるリーゼですがやはり詠唱アリとなしじゃ発動のための集中度合いが違うようで。緊急時などの場合、気が乱れ集中しずらくなると無詠唱じゃ完璧な魔実を行使できなくなるようです。なので普段から省略していますがキチンと詠唱して詠唱の内容を忘れないようにしているそうです。


 ガサガサッ。


 また出てきましたウィークウルフ。しかも2匹。


「……今度は私の番」


 最後。ついにマオの番です。マオは小柄な背のわりに自分の身長ほどある白と青の片刃の戦斧を持っています。


「……手加減は苦手。だからよく見てて」

「オーケー」

「わかりました」


 マオはそう言うとこちらに背を向け戦斧を構え狼に向かって歩いていきます。


「ガァッ!」

「ふんっ」


 吠え飛び出した一匹の狼に戦斧を振りぶち当てました。たったそれだけで狼の肉が裂け狼が吹き飛んでいきます。辺りに狼の血が咲き乱れます。その光景に私たちやもう一匹の狼が驚いている間に戦斧に張り付く血糊ちのりを振り飛ばし動かない残りの狼に接近し戦斧を一振り。またも狼が引き裂かれながら吹き飛びます。


「……終わった」

「す、すごいね」

「はい。その斧、ここに来る前から気になっていましたがかなりの業物ですね。切れ味も随分いいようですね。頑丈で、かなり重量がありそうです」

「へぇ。ちょっと持ってみても良い?」

「……ん」


 頷くマオから戦斧を受けとりゅっ!?!?!?


「んなっ!なにこれっ」


 マオから受け取った瞬間腕に伝わる重さ。まるで急に手を地面に向けて引っ張られたような。


「グッ。危ない……、落とすところだった」

「そんなに重いのですか?」

「すごいよ。身体能力の上がった今の私でもこれ持つのぎりぎりだよ。よくこんなものマオは振り回せるね」

「……ん。修行の成果」


 これを振り回せるようになる修業とはいったいどれほどきついのでしょうか。


「はい、返すね。もう持ってらんない」

「……ん」

「ふぅっ、疲れた」

「ふふっ。マオはすごいですね。狼が襲ってきたのにも動じない胆力にその戦斧の重さをものともしない腕力。すべてを薙ぎ払うその戦い方。これでお互いの戦い方もまぁまぁ理解できましたし。依頼完遂しに行きましょうか」

「……ん。チカゲたちとなら十分戦える」

「だね。よしっ、がんばろぉ!」


 私とリーゼだけでも銀初級の依頼は簡単でしたがマオが加われば失敗はあり得ないでしょう。

 さぁ、さっさと終わらせーー


「……その前に。チカゲ」

「ん?どうしたの?」

「……チカゲは、生き物を殺すことが怖い?」

「っ、あはは。生き物を殺したのはここ最近が初めてで、まだ慣れてないんだよね」

「……チカゲ、生き物を殺すことに慣れようとするのはだめ」

「え?」


 どういうことでしょうか?生き物を殺すことに慣れないとこの恐怖はなくならないと思うのですが……。


「……生き物を殺すときに必要なのは、慣れじゃなくて覚悟」

「かく、ご?」

「……そう、覚悟。殺すことに慣れてしまったら、それはもはや狂人。私はそう師匠に教わった」

「狂人……」

「……それに、チカゲは根っからの善人。その善人が殺しに慣れるのは、性格的に無理」


 私が、善人ですか……。そうなんでしょうか?


「……チカゲは、殺すことへの覚悟が足りない。殺すことについて、ちゃんと考えてる?」

「考えてるよ」

「……多分、まだ甘い。チカゲ。敵を殺さなきゃ、自分たちが殺される(・・・・・・・)

「っ」

「……自分が殺さなきゃ、仲間が死ぬ。殺される」


 私が殺せなかったら、仲間が、リーゼが死ぬ……。


「……相手は殺しにかかってくる。ならば、殺される覚悟もある。自然は弱肉強食」


 殺すからには殺される覚悟をしろ。そうマオの目が語っています。


「そっか、そうだよね。覚悟もないくせに、相手の命を奪うなんて。殺された相手への冒涜みたいなもんだよね」


 本当、この話をした後に思い返してみればなんと酷いことをしていたのか。

 よしっ。


「……ひとまず、考え方を改められた?」

「うん、ありがと。ちゃんと改めることができたよ」

「チカゲ……、ゆっくり考えていけたらと思っていましたが、私の間違えでしたね」

「ううん。リーゼは私のことを考えてくれたんでしょ?殺しとは無関係な世界からやってきた私を思って」

「……やってきた?」

「うん、まだはっきり覚悟ができたってわけじゃないけど、これからはそう意識してみる」

「はい、頑張ってください」

「じゃぁ行こうか。アーミーウルフはもう少し奥にいるんだよね?」

「ですね。もうちょっと潜りましょうか。行きましょうマオ」

「……ん。頑張る」


 改めて、戦うということと命を奪うということに関して考え直した私とリーゼとマオは森の奥に向かっていきます。

 森の奥に行く間に何度かウィークウルフとの戦闘になり、2匹。私が息の根を止めました。しかし、先ほどのような気持ち悪さはあまり感じませんでした。これが自分の、仲間のために。殺しに来るんだから殺されても文句は言えないだろう。そう考えてみるといつもより力が張り狼を切りつける瞬間もあまり抵抗を感じません。


 これが覚悟をするということなのでしょうか?

 まだはっきりと言えませんが、この世界でもやっていけるような気がしました。

 それもリーゼとマオのおかげです。


 アーミーウルフの討伐依頼、アーミーウルフを24匹討伐を完遂し、証明となる左の犬歯を採取し町へと戻ります。そのころにはだんだんと日が落ちだしてきます。宿屋に戻る前にギルドに寄って依頼完遂を報告して報酬を受け取り宿屋に帰ります。報酬はリーゼのお父さん、国王様からもらった軍資金と比べると微々たるものですがなくて困ることはありませんしね。


 宿屋に戻るとティナに「なんだかすっきりした顔になりましたね」と言われました。それ程私の表情は変わったのでしょうか?

 それと驚いたことにマオの宿屋は私たちと同じだったのです。


「びっくりだねぇ。まさか同じ宿屋だったなんて」

「……本当に、びっくり」

「もしかしたら覚えてないだけで一緒の時間にご飯食べてたかもしれませんね」

「だね」


 この町は結構な規模でこの宿屋以外にもたくさん宿屋があります。

 そんな中でたまたま出会った相手と同じ宿屋だったというのは、とても運命を感じちゃいます。


「……質問」

「ん?どうかしたの?」

「……殺しとは無関係な世界からやってきた私を思って」

「え?」

「……チカゲがリーゼに言った言葉」

「チカゲっ」

「ご、ごめんリーゼ!思いっきり無意識でやってた」

「……世界からやってきた、って。どういうこと?」

「え、えーと。それはぁ……」


 ど、どうしましょうか。マオは私たちとは関係ありませんし……。


「ど、どうしようかリーゼ?」

「むぅ……。仕方ないです。マオ」

「……ん?」

「私たちはこれから先、強大な敵と戦う事になるんです。その戦場にあなたの力がほしい。私たちと共に戦っていただけませんか?私たちと戦っていただけるならお話します」

「……敵、戦う?」

「はい。どうですか?もちろん、マオにこれからの目的などが無ければですが」

「……目的はあるといえばある。強い敵と戦う」

「それならちょうどいいですね。どうですか?」

「……ん。強敵と戦えるのなら仲間になりたい」


 目的が強敵と戦うなど、どこの戦闘狂ですか。


「では、チカゲ。話しましょう」

「わかったよ。あのね、マオ。私、勇者なんだ」

「……?」

「だよねぇ、急に勇者だって言われてもわからないよね。でも本当なんだ。この世界に魔王がまた生まれたんだって。だから、魔王に対抗するために私をリーゼたちが呼んだの」

「……なんで、リーゼ?」

「リーゼはね、なんとっ。お姫様なの!」

「……すごい。本当、なの?」


 ん~、マオは反応までに少し間が開くから驚いているように見えません。


「本当だよ。私たちは今、新しく出現したといわれる魔王を討つために魔物討伐をしながら実戦経験を積んでいる最中なの。でもやっぱり二人旅はキツイかなって。だから、マオが仲間になってくれて嬉しいよ」

「……魔王の討伐。それはとても、楽しそうっ」


 な、なんでしょうか。マオの目が今まで以上にキラキラしてます。


「……行こう、今すぐ行こう。魔王…名前からして強そう。ふふっ」

「ちょ、マオ?普通魔王と戦うって聞いたら恐れるものだと思うんだけど。と言うかもしかして戦闘狂?」

「すごい気迫ですねぇ。でも頼もしいです」

「そうだね。マオの腕力はすごいからね」

「……ん。力だけは誰にも負けない自信、あるから」


 援護の魔術師、リーゼに遊撃の私。そして盾と攻撃役のマオ。なかなかいいパーティーメンバーになってきました。

 このまま順調に行って、必ず魔王を倒す。

 必ず、影にぃを生き返らせてやる!

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