23.依頼
登録し終えた俺は依頼の張られたコルクボードを眺めている。
八等星級の依頼は赤土の採取、ポンショの採取、飲食店の手伝い、荷運び等戦闘には無関係の依頼が多い。八等星級は民兵の見習いのようなもの。一人前の民兵と呼べるのは七等星級かららしい。
「俺が楽しめそうなものはぁ……っと」
五等星級からか。ハントスパイダーやボーンスネーク、軍隊蟻などの討伐だ。ちなみにハントスパイダーは俺が狩った軽自動車大の蜘蛛。ボーンスネークは骨の蛇で大型バスぐらいある。軍隊蟻は地球にいる軍隊蟻とは違い中型犬ぐらいの大きさの群れる蟻のことだ。
これらの魔物の知識は暇なときに城にある図書室で蓄えた。いつか必ず必要になるだろうと思ったからだ。
「何か日帰りで行けそうなものと言えば……ハントスパイダーあたりか?ボーンスネークとかは場所が遠いからな」
そうと決めれば早速。俺は依頼書をもっておっさんのところに行く。
「おっさんこれ頼むわ」
気づかないだろうなぁと思いながらもおっさんに話しかける。
「……っ。いるのか?」
だからおっさんがそう言ったことに驚いた。
「おっさん、俺に気づいたのか?」
「おぉ、本当にいた」
「?」
なんだかおっさんの反応に違和感を覚える。
「いや、気づいたわけじゃない。なんだか空気の流れが微妙におかしかったからな。何かが近くにいるんだろうとあたりを付けてみたんだ」
「く、空気?」
「はっ、俺ぐらいになれば空気の流れを感じることができるのさ!」
嘘くさい……。だが異世界だからあり得るな。
「滅茶苦茶だな」
まぁ方法はどうであれ俺の存在に気づいてくれたことは凄い嬉しいな。
「空気の流れを読める俺に目の前に来るまで気づかせないお前もなかなか滅茶苦茶だがな」
「俺のは故意でやってるわけじゃねぇよ!」
まったく、涙が出てくるぜ。
「それで何の用だ?」
「あぁ、依頼を受けたいんだ。これ頼む」
「あぁ?五等星級って、お前八等星級だろうが」
「別に受けられないわけじゃないだろう?」
「そうだが……。調子に乗っているのなら死ぬぞ?」
「そういうわけじゃない。自分の力量をちゃんと理解しているからここまで下げたんだ」
本当ならもっと上の位のフレイムワイバーンだとか金剛骨とか言う奴らと戦ってみたいんだが、まだこちらでの戦いになれていないからな。徐々に行こうかと思っている。
「お前は……はぁ。まぁいい。受容しよう。死ぬなよ?」
「当たり前だ、俺にはまだやるべきことが残ってるからな」
さて、行こうか。
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王都から近い森に来ている。あのブランたちに出会った森だ。
さてさて、あのでかい蜘蛛を探すか。
魔王の領域を使おうと思ったが思いとどまる。初めてこれを使ったときの後、フィアたちに森が真っ暗になって大変だったと聞いている。かなり広範囲にわたって俺の黒い霧が森を飲み込んでいたのだ。それを聞いてもし他に魔物と戦闘している人がいたら死んでいたかもしれない。なのでこういう場面で使うのはやめようと決めていたのだ。森などでの索敵を目的にした魔法なのに、これじゃ意味ないな。
「仕方ない、自力で探すか。あれだけ大きければ探すのも楽だろう」
五感を集中させる。
嗅覚と味覚、触覚は必要ないな。聴覚と視覚にすべてを集める。
この世界に来て上がった聴覚と視覚を集中して使えばかなり離れた距離でも足音ぐらい聞き分けることができる。
森中のかさかさという木の葉の擦れ合う音と何かの生き物が地を踏みしめる音、這いずる音が聞こえる。
その中に八本足の生き物が歩く音が聞こえる。これが蜘蛛だとしたら、同じ場所をうろうろしている感じからあの糸で作られたステージでも作っているのかもしれない。
俺はその方向へ向かって走る。大体3、400mぐらい来たところだろう。少し開けた場所で蜘蛛が糸のステージを作っていた。
「ビンゴ……」
こんな近くにいるとは運がよかった。
俺は蜘蛛の死角を探しつつ、糸に触れず一撃で仕留められる場所を探すために移動しようと思っていると、
「うりゃぁぁぁ!」
そんな声と共に剣を振り上げた男が飛び出してきた。
そういえば蜘蛛の近くに二足歩行の生き物の足音が聞こえていたが、こいつだったか。
蜘蛛を見つけたことで注意が疎かになっていたな。
振り上げた剣を蜘蛛に向けて振り下ろすが糸を操り剣を受け止める。
「んなっ、そんなのありかよっ!」
男は驚き即座に距離をとる。
「おいおい、こりゃソロじゃキツイか……」
頬を引きつらせこれからどう動くかを考えている。
あの男の実力じゃこの蜘蛛相手にソロで勝つのはきついだろう。どうするか、助けるか。それともほかの蜘蛛を探すか……。
「ふっ!」
張り巡らされた糸を切り捨てながら蜘蛛へと突っ込む。
蜘蛛もまさか真正面から突っ込んでくるとは思っていなかったようで慌てて飛びのき糸で相手を抑え込もうとする。
「ちっ」
縦横無尽に動き回る糸に舌打ちし襲ってくる糸を剣で払いながら蜘蛛に近づこうと頑張るがなかなか蜘蛛には近づけない。
男は蜘蛛に近づこうと、糸は男を捕まえようと両者は拮抗している。
「これじゃ埒が明かないな……」
出るなら今かな。
「手伝ってやろうか?」
気付かないと思いながらも男の前に回り込む。
男と目が合う。目が、合う。目が、合った?
「うおぉぉぉぉおお!?」
「うわぁぁぁぁああ!?」
俺を見て?ビックリする男を見てびっくりする俺。
「な、なんなんだよお前!いきなり目の前に現れやがって、びっくりしただろ!」
「な、なんなんだよお前!俺のことが見えるのかよ、びっくりしただろ!」
男の真似をしながら問う。
「そ、そりゃ目の前に立たれりゃ否が応でも目に入るわ!」
「おいおい、マジかよこいつ……。俺が見えるのかよっ!」
「え?ま、まぁ俺は見ることに特化した種族だから……」
ふぅぅん。見ることに特化した種族?
「それってどういう種族「キィィィイイ!」うるせぇえ!黙ってろ!」
全く。俺は今この男と話してんだ。重要な話なんだ!
俺が蜘蛛に怒鳴るとビクッと体を震わせきょろきょろしている。姿が見えないのに俺の怒鳴り声が聞こえたからだろう。はっ、そうやった間抜け面してろ。
「それで見ることに特化した種族ってどういうことなんだ?」
「え?あ、あぁ。見ることに特化したってのは視界に映ったものをすべて見ることができるんだ。そ、それよりいいのか?あの蜘蛛こっち凝視して威嚇してくるんだけど」
「あ”?」
後ろを振り向くとさっきまで間抜け面できょろきょろしていた蜘蛛がこちらに向かって唸っていた。
「黙ってろっつったよな、俺。今、大事な、話してるから、って?」
話を聞かない奴はお仕置きだな。
無形球を槍状に変化させる。
「死ねや」
槍を蜘蛛の眉間に向けてぶん投げる。
槍は以前のスピードを超えて一直線に突き刺さる。
「ギャピャァァァ!」
生前のブランを殺したことによって身体能力もかなり上がっているようだ。まぁ漁夫の利の様なものだから本来の得られる力よりかなり少ないんだがな。まぁそれでもこれだけ力が得られるんだからブランはそれだけ強かったのだろう。今の俺など片手間に殺せるだろう。
槍はぎりぎり眉間には刺さらず、しかし胴体に突き刺さてしまう。
「ちっ、ハズレたか」
槍から伸びるワイヤーを引っ張り槍を回収する。
「おらもういっちょ!」
もう一度眉間に向け槍を投げる。
「キュバァァアアァァ……」
はじめの攻撃で身動きが取れない蜘蛛の眉間に槍は奇麗に突き刺さり絶命する。
「さ、邪魔はいなくなった。見る種族ってどういうことだ?」
「え、え、え?」
まったく、時間は有限だというのに。何を困惑しているんだ。
俺がさらに男に問い詰めようとしていると周りに結構な数の魔物の気配がしだした。
「はぁ、落ち着けるところで話をしようか」




