17.開発
「エーヴァ―。いるかぁ?」
「だれだっ。うるせぇな」
俺は今、ぼろい小屋の前にいる。扉をドンドンと叩くとその中からは奇麗だが粗暴な声が聞こえてくる。そう、エヴァの家だ。
エヴァを呼んで少しすると扉が開き奇麗な、しかしぼさぼさの髪をした女性が出てきた。いままで気にしてなかったが頭の上に狐の耳が乗っている。
出てきたときは俺に気づかず辺りをキョロキョロ見回している。その頬をつねるとようやく俺に気づいた。
「っ、な、なんだ……お前か」
「よぉエヴァ。今更だがお前獣人だったんだな。狐耳可愛いなぁ」
「なっ、可愛い言うなっ!……ホント今更だなっ」
俺が耳のことを褒めると顔を真っ赤にしながらプイッと顔をそむける。
「そ、それで何の用だ?魔王様が、こんなぼろ小屋に」
「ちょっとお前に用があってな」
「何か作ってほしいのか?」
「あぁ」
「外じゃなんだ。ほら、中に入れ」
エヴァに招かれ小屋の中に入る。なかは外見と違いとてもきれいで可愛らしい部屋になっている。ぬいぐるみや可愛い小物などが飾られている。
「相変わらず可愛らしい部屋だな」
「う、うるせぇ。工房は奥にある。部屋見てないでついてこいっ」
可愛らしい部屋を抜けて階段を降りると急に広い空間が現れた。屋根も高く部屋の半分が地面に埋まってるような作りになっているらしい。これなら外から目立つこともない。
「おぉ、でかい」
「そうだろそうだろ。機能もなかなか凝っているんだぞ」
フフン、と鼻を鳴らしまぁまぁある胸をそらす。
「うんうん、すごいすごい」
「あ、頭をなでるなっ」
まったく、からかい甲斐があるなぁ。
「話はこっちの小部屋でしよう」
広い工房を横切り角にちょこんとある部屋に入る。中は休憩室のようになっており、エヴァがお茶を汲んでくれた。
「それでエヴァに作ってもらいたいものなんだが……結構あるんだけど紙用意しなくて大丈夫か?」
「あぁ大丈夫だ」
「んじゃ言うぞ。銃と千歯、足踏み脱穀機、唐箕、後チェーンとかもほしいな。自転車も作れるし。ここに来る前に見た馬車や荷車も使いやすくできるし。あ、それならサスペンションも作ったほうがいいな。この世界じゃ多分馬車の揺れが酷そうだし。そこまでやるならやっぱり自動化もしたいなぁ。エンジン作れるかな?あんまり複雑な構造は無理だけど。魔法とかも組み込んだらできるかな?もしエンジンができたなら絶対バイクは作りたいよな。前世での愛車も作りたい。地面での移動手段ができたら今度は空の移動手段だな。あ、ここじゃ竜に乗ることとかできるのか?ヘリや飛行機もいいが異世界なんだから竜に騎乗するってのは体験してみたいよなぁ。この世界の竜ってやっぱ西洋風なのかな?でも男としちゃ東洋風の龍見たいなぁ。あ、話がそれたな。この世界じゃ洗濯も洗濯板だったしなぁ。洗濯機作りたいなぁ」
「ちょ、ちょっとまてっ!」
「?どうした?」
何かあったかな?
「お、多すぎる……。しかもな、なんだ、せんば?ちぇ、ちぇーん?さすぺんしょん?えんじん?わけわからない……」
「あ、あぁ。すまない。いまから図を描くから。そしたらわかりやすいだろう。紙ある?」
「羊皮紙ならあるが……、高価だからこういう場面で使えなくてな」
む、この世界じゃ羊皮紙が主流なのか。
「植物でできた紙はないのか?」
「なんだ、植物から紙ができるのか?」
「……紙、作ってみるか」
「どうやって作るんだ?」
「簡単な奴は植物を潰して平たく伸ばし乾燥させたら完成だな」
紙ってのは本当に簡単にできるんだ。まぁ肌触りとか書き心地とかを考えるならもっと細かい作業がいるが。
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場所は変わってエヴァの工房の庭に来ている。
「そこら辺の適当な草集めてくれるか?」
「わかった」
「…それで集めた草を石とかで原型がわからないぐらい潰す。それを平らに伸ばし、板で挟む。その上におもりを乗せて乾くまで待機」
「ほいっ」
俺が乾くまで休憩室で休もうかと戻ろうとした瞬間、エヴァの軽い声と共に一瞬熱を感じ振り向く。
そこには火の玉浮かせたエヴァが立っていた。
「え、何それ」
「ん?早く乾燥させようと魔法を使ったのだが、どうかしたか?」
「ま、魔法か……。あれ?魔法って詠唱が必要じゃなかったっけ?」
「あー。私はいつも使ってるからな。鍛冶には火が必要だし。それに狐人族は魔法が得意な種族だから簡単な奴だったら詠唱はいらん」
はぁ。よくある設定だな。狐人族は魔法が得意とか。
ま、エヴァの魔法のおかげで数分で乾いた。
「それでできたのが、こちらになります」
「ほぉ。すこし茶色いのが気になるが……ちゃんと字が書ける。材料も簡単だし、すごいなこれ!」
「もっと工夫すれば真っ白ですべすべの紙ができるんだぞ材料も安くて作るのもそんなに手間がかからない」
俺はその紙をもって休憩室に戻る。
そしてその紙にさっき言った物の図を描く。
「これが、千歯、こっちが足踏み脱穀機、これは唐箕、んでこの長い紐みたいのがチェーン。そのチェーンを使った乗り物がこの自転車。あと馬車とかの揺れをなくす部品がこのサスペンション」
俺は説明しながらどんどん絵を描いていく。
「す、すごいな……、お前絵がうまいんだな」
まぁ一般人よりは器用だからな。
「作れるか?」
「千歯、足踏み脱穀機、唐箕は作ることは簡単だな。チェーンは少し難しいが……まぁ何とかなるな。自転車とやらはチェーン以外は簡単だから作れるな。さすぺんしょん?も作れるとは思う」
「そうか。なじゃ暇な時でいいから試作品作ってみてくれや。あ、紙なんだけど誰かいい人いないか?いるんだったらその人に頼みたいんだけど」
「あぁ、それなら木工職人のモクルがいいだろう」
「んじゃそいつの紹介頼むわ」
「あぁ、また話通しておく。それはそうと……フィアたちはいないのか?」
「いないけど」
「はぁ?お前魔王様だろ。なんでそんな奴が一人でこんなところに来てんだよ」
あぁ、そういうことか。
「俺、人に見えないからさ……、一応書置きしておいた」
「あ、あぁ。そうだったな。なんかすまん」
「ま、もういい時間だし、今日は帰る」
「おう」
「また遊びに来るから」
「そんときゃフィアもつれて来いよ」
「任せとけ」
そうして俺は城へと帰った。
ま、言うまでもないが帰ったら爺さんやフィア、それにクレハにまで怒られた。
起こったクレハは頬をぷくぅっとさせ上目使いで睨んできた。とても可愛かったです。
ほかに必要なものってありますかね?