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16.食料

 戴冠式が終わった後何も予定はないので自由の過ごして早々に寝た。

 そして翌日。


「今日の予定は食糧難の解決から始めようか」


 俺がいるのは城の厨房。そして安定のフィアに初見で俺を見ることができた俺の癒し、クレハ。と、爺さん。それと今回の件に興味を持つ調理人一同だ。俺を見ることはできていないが何をしているかは見えるらしい。


「カゲムネのぉ、クッキングターイム」

「小僧、何を言っておるのだ?」

「爺さん。ちょっとふざけただけだ。まじめに相手をしないでくれ」


 全くわかってない。こういう時はフィアのように苦笑いでいいのに。クレハはというとよくわかっていないようだが楽しそうだ。


「今回調理していくのはこのコメッコです」

「何を言っておるのだ小僧。それはただの雑草だぞ?」

「なんだか魔王様がもともといた国での主食だったらしいです」

「生態は少々、というかかなり違うのだがな。まぁ毒などの害がないのは確認済みだ」


 米との違いは成長力と繁殖力ぐらいらしい。味は今から炊いてみないと分からないが概ね同じじゃないかと思う。炊く前の味は同じだったし。


「さて、まず用意するのは火魔法で乾燥させもみ殻を取り除きもみ殻やごみ、砂や雑草などを風魔法で選別し終わったコメッコと、鍋と奇麗な水です」


 その他いろいろ細かい作業がいるのだがここは異世界。そんなものをする機械など道具もないため今はおおざっぱだ。いつかエヴァに道具を作ってもらおう。


「まずコメッコを水でザザッと洗い流します。その洗い終わったコメッコを鍋に移し指の第一関節まで水を注ぎます。そして蓋をして火をおこします」


 調理人の人に火をつけてもらう。


「はじめちょろちょろなかぱっぱ。赤子泣いても蓋とるなってな」

「なんですかその歌?」

「これは昔米を炊くときに火の調整を歌にしたものだ。初めは弱火で鍋全体を温めむらなくコメッコに水分を吸わせる。吸わせ終わったら一気に強火にして沸騰させる。沸騰したら少しずつ火を弱め、沸騰を維持したまま炊き上げる。鍋の中の余分な水分を加熱することで飛ばす。加熱後すぐに蓋を取らず高温でじっくり蒸らして完成だ」


 説明しながら炊き上げる。何度も釜や飯盒とかで作ってたからな。多分うまくできてるだろう。

 じっくり蒸らし終わった鍋のふたを開けると途端にむわぁっとした水蒸気が立ち上る。


「おぉ」

「す、すごいです」

「いい、匂いですっ」


 爺さん、フィア、クレハに続いて調理人どもからも声が上がる。

 水蒸気に気を付けながらも鍋の中をのぞくと、ピカピカと白銀に光るコメッコが立っていた。


「おぉ、うまそうにできた」


 ぐぅ……。


 鍋を覗き込んでいると隣から腹の鳴る音が聞こえてきた。隣を見れば眠たそうな目をキラキラとさせるクレハがいる。


「食べたいのか?」


 コクコク。


「かっ、かわ……」


 可愛いぃ!

 匙でコメッコを一口分掬いフーフーして冷ます。


「あーん」

「あーん…ハフハフッ…もぐもぐ……っ!」


 冷ましたコメッコをクレハの口に入れると扱ったのかハフハフしながらもコメッコを噛んでいたのだが急に眠たそうな眼を先ほどよりキラキラとさせながら見開く。


「く、クレハッ!?どうしたんですか?」


 クレハの変貌ぶりに驚いたフィアがクレハに問いかける。


「もぐもぐ……ゴックン……。これ、おいしいですっ!」


 ファァ!っと背後に花を咲かせながら頬に手を当てうっとりとした表情を見せるクレハ。


「そ、そんなに美味い、のか?」

「わ、私も食べていいですか?」

「わ、儂も食いたい」

『わ、私たちもよろしいですか?』


 爺さんやフィア、俺の姿が見えていない調理人達も我よ我よと手を上げる。


「かまわんかまわん。全員一口分くらいはあるからゆっくり味わえ」


 全員が匙にコメッコを乗せパクッと一口。


『ふぉぉ!』


 全員顔を蕩けさせながら奇声を上げる。


「な、なんじゃこれはっ。これがあのどこにでも生えておるコメッコだというのか!」

「あの硬くておいしくないコメッコがこんなふんわりしておいしくなるなんて……信じられませんっ」


 その他調理人からも高評価をいただく。


「うむ。相乗以上のうまさだったし……爺さん、これで食糧問題どうにかなるか?」

「食労問題どうにかなるかだと?……なるに決まっておるじゃろう!?コメッコはもともと繁殖力も成長力も高く手に入れるのはそこら辺の子供でもできてしまう。それに加え調理方法も簡単。少し火の強弱や時間を気にすればいいだけ。たったそれだけでこの美味いものが食えるなど……夢のようじゃ!」


 お、おう。爺さんがとても興奮して顔を近づけてくる。気持ち悪い。


「あぁ…なんということだ。まさか小僧が神だったとわ」

「ちゃうわ」

「で、でも本当にすごいです!あのコメッコをこんなにおいしくするなんて。これでみんなもおなか一杯に食べることができる…。魔王様が神様だといわれても普通に崇めちゃいそうです」


 フィアまでもか……。


「このコメッコは本来は主食であって様々なおかずに合うんだ。作り方も簡単だし、ほかにもお餅やお酒も造れちまうんだぜ」

「まさかコメッコがそんなすごいものだとは……なぜ気づかなかったのだ……」


 まぁ仕方ないわな。繁殖力と成長力も高くいたるところに生えてる奴なんて雑草としか思えないだろう。


「これで食糧難解決だな」

「戴冠早々一番難しいだろうといわれる問題を解決か……。とんでもない奴が来たものじゃ。……ふぅむ」


 爺さんはそう言いながらも何かを考えている。


「しかし、これは……難しいかもしれないな」

「ん?なにがいけな……あっ」

「ど、どうしたのですか?」


 爺さんが何を考えているのか不思議に思っていると俺の頭の中に一つの問題が現れた。そんな俺を見た爺さんは苦笑を浮かべまだわかっていないフィアはどうしたのか問いてくる。


「もぅぅ。完璧かと思ったが、こんな問題がるとは」

「小僧もわかったか。……全く、優秀なのにも困りものじゃな」

「え、何かダメなのですか?」

「フィア、よく考えてみろ。このコメッコは食糧としてとても優秀だろ?」

「は、はい。そうですね」


 俺がそう問うと戸惑いながらも頷く。


「成長力も繁殖力もすごいだろ?」

「そうですね」

「コメッコはそこら中に生えていて刈っても刈ってもすぐ生えてくるだろう?」

「はい」

「……」

「……あっ」


 わかったか。


「?わかんないです」


 フィアは気付いたようだがクレハはわからないようだ。


「あのな、クレハ。そこら中においしい食べ物があったらどうなる?」

「……みんな食べちゃうです」

「そう。そこら中にただでおいしいものが生えてるんだ。それもとてつもない数が。タダでたくさん物が食えたらだれが困る?」

「にゅぅ……あっ。お店の人たちが困るです!」

「そう、そうなんだよ。急に大量の食糧が、しかもおいしくてタダってんならみんなそれを欲するだろう。売ってあるものなんて目向きしなくなるだろうな。コメッコだけじゃ栄養も偏って体に悪いがきっと店の売り上げはグンッと落ちるだろう」


 そうなればどれだけの失業者が出ることか。それにコメッコは少し探せばいくらでも出てくる。働かずして腹いっぱい飯が食えるなどニートが大量派生する可能性がある。それはだめだ。


「まったく。難しいもんだな」

「前まではその食料さえ見つけることができなかったんだ。かなり大きな一歩前進だがな」


 それはよかった。


「これからはこのコメッコをどうやって国民に広めるかだが……」

「それは爺さんたちに任せるよ。俺そういうの苦手」

「……小僧はこのコメッコを見つけてもらっておるしな。仕方ない。後のことは儂らでする」


 よし。面倒ごとは避けれた。頼んだぞ爺さん。

いやぁ、どうやって国民にコメッコを広めましょうか

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