14.戴冠
城に帰った俺たちは明日の戴冠式について聞くために爺さんの書斎に来ていた。
「じぃさぁん!帰ったぞぉ」
「煩いやっちゃのう」
爺さんの書斎に行くと机で書類に埋もれている爺さんを見つけ笑顔で話しかける。
「お?お?お?なんだ爺さん仕事してんのか?邪魔していいか?なぁなぁ邪魔していいか?」
疲れた顔してる爺さん見ると邪魔したくなってきた。
「いい笑顔で邪魔してきているがな?小僧。これが滞ることになれば小僧にも書類が回っていくことになるんだぞ」
「よし爺さん頑張れ。さぁフィア爺さんの邪魔しちゃいけないからあっち行っとこうか」
「え?あ、はい。わかりました」
「すがすがしいほどの変わり身じゃな。まぁ小僧に邪魔されたぐらいで仕事を遅らせるような儂じゃないからな。用件があるなら聞くが?」
何だ。邪魔していいのなら思いっきり邪魔しよう。
「そういうことなら邪魔しよう」
「いや、邪魔しろということじゃないからな」
「それで爺さん。明日の戴冠式について聞きたいんだが」
「スルーしよったな……。まぁいい、明日は午後から始まる。朝に戴冠式に必要なものの準備、主に服装などのことだな。だから9時までに起きてくればよい」
んじゃこれからは何も予定ないのか。
「ん~、今日は疲れたからもう休むか。それでフィアよ」
「?なんですか?」
「ここから私室までの道がわからないんだ。案内頼んでいいか?」
「は、はいっ。わかりました」
爺さんの書斎を出てこれまたグネグネと廊下を歩いていくと前方に見覚えのある黒檀調の扉が見えてきた。私室の扉だ。
「ん~、多分覚えた」
やっぱ安全性を考えて廊下が入り組んでいるのか。これは一度城の構造図を見せてもらわないとな。
「ほんとですか?この城廊下が入り組んでて私覚えるのに結構時間かかったのに。凄いですね」
「生きてく間に自然に身についた技だ。これが無ければ今頃森の奥深いところでサバイバル生活を続けていたことだろう」
森でのサバイバルに必須技能だ。これが無ければ生きてくこともできなかった。
「今度この城の構造図見せてくれ。道覚えておかないと不便だからな」
「わかりました。また用意しておきますね」
ホントよくできた娘だ。
フィアと別れ私室に入る。ふぅ、疲れた。
「ようやく一息つけて休めたが、まだ召喚されて一日経ってないんだよな……」
急なことでちゃんと捉えていなかったんだろう。考え直すと信じられないな。死んで異世界転生なんて。あー、千影残してきちゃったな。最後があれだったから傷ついていなけりゃいいんだが。
「まだ早いがもう寝るか。寝坊することはないが疲れがたまってるしなぁ」
ベットに寝そべるとウトウトしだしてきた。だめだ、睡魔には、さから…え……ない、な。
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チュンチュン、チュン
窓の外から小鳥の囀りが聞こえてくる。窓の外枠に真っ黒な二対の羽をもつ小鳥が二匹。まったく種類がわからない。が、かわいいな。
窓から視線を外し天井を見る。うん、知らない天井だな。
「ふぁぁぁ……。ま、当たり前か。異世界だし」
異世界で初めて迎える朝。全く見たことのない種の小鳥。二対の羽をもつ鳥なんて、やっぱ異世界だな。
コンコン。
「ん、誰だ?」
『あれ?おかしいです。魔王様がいるって聞いたのに返事が聞こえないです。誰もいないですか?おかしいです。おかしいです』
やっぱり気づいてもらえない。扉越しに声が聞こえるが中に俺がいることに気づかない。
仕方なく扉を開ける。外には少し眠そうな眼をした小柄な少女が立っていた。深い青色の長髪に真っ赤な目。なんだか不思議な感じがするの瞳だ。メイド服っぽいものを着ていてとても保護欲を掻き立てられる。
「っ。と、扉が急に開いたですっ。なんですか?怪奇現象なんですかっ」
「やっぱり気づいてもらえない……」
「----っ!急に扉が開いたかと思ったら急に人が現れたですっ」
な、んだとっ……!!こいつ、初見で俺を見えた、だとっ。
「お前…俺が、見えるのか……?」
「な、なんですかっ。お前は幽霊かなんかですかっ」
「本当に…見えている、だとっ」
生まれて、初めてだ。家族、千影以外に初めて初見で見られた。み、見つけた。俺を見てくれる奴をっ。
「君…名前は?」
「え…クレハ、です」
「クレハ…クレハ、か」
この子…大事にしよう。一生、大事に、スル。
「クレハ、クレハはいい娘だな」
「?何もしてないのに褒められたです」
不思議そうにしながらも嬉しそうに笑うクレハ。ぐぅっ。可愛いぞっ。つい頭をなでてしまう。
「にゅ、にゅぅ。お前頭なでるのうまいですっ。むふぅ…気持ちいいです……」
撫でると顔をとろけさせるクレハ。あぁ何だろうこの娘。保護欲が、掻き立てられる!
「ナデナデナデナデナデナデナデナデ……」
「えへへへへぇ」
「あれ?遅いと思ったらクレハ一人で何してるの?」
俺がクレハの頭をなでていると廊下の奥からフィアが歩いてくる。しかし俺には気付かない。
「ん、違和感……もしかして。あ、やっぱり魔王様がいらっしゃったんですね」
な、なんと。フィアまでもが、少し反応が遅かったが自力で気づいてくれた、だとっ。
「お、俺、お前ら一生大事にするから……」
嬉しすぎるっ!!
「え?あ、ありがとうございます。あの、これから戴冠式に向けて準備しますので一緒に来ていただいてもよろしいですか?」
「もちろんッ」
俺がお前たちの言うことに頷かないわけないだろう?
「さぁ行こうか。あ、クレハ肩にごみが付いてるぞ?」
「ん?ありがとうです。それでお前誰なんです?」
「く、クレハッ!失礼ですよ魔王様に向かってっ」
「魔王様っですか!?この人がですか?」
「おう、俺が魔王。影宗 名無だ。カゲムネでいいぞ」
「カゲムネ様です?」
「ん~まぁそれでいいぞ。フィアもカゲムネでいいんだぞ?」
フィアも堅苦しく魔王様じゃなくていいのに。
「そ、それはできませんっ。魔王様は魔王様ですから!」
「そんな堅苦しくなくていいのにな……」
まぁフィアだから仕方ないのか。時間を掛けるしかないのか。
「そ、それより。イージス様がお待ちですので急ぎましょう」
「だな。と、その前にクレハは俺に何の用だったんだ」
「あっ、クレハはカゲムネ様を呼びに来たんです!忘れてたです」
「もう、クレハったら。すみません魔王様」
「イーよいーよ構わないよっ。さ、フィア、クレハ行こうか」
「はいっ」
「ハイですっ」
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フィアについていくとメイドや執事と話す爺さんを見つけ背後から話しかける。
「よっす爺さん来てやったぞ」
ドキドキワクワク。気づいてくれるかな?もしかしたら爺さんも気づいてくれるかもしれない。
だがいつまでたっても俺の声掛けに気づかない。
「あ、あのイージス様……」
「ん?おぉフィアか。小僧はおったか?」
「…イージス様の前にいらっしゃいますが……」
「むぅぅぅ……っお、なんだ、いたのか」
くそう。爺さんは気付いてくれなかった……。
「まぁいい。これがいつものことだし……。それでいまから何するんだ?」
「ん?あぁ、戴冠式にその格好で出るのは流石にまずいからな。戴冠式用の衣類を決めようと思ってな」
俺が着ているのは武具庫で決めたあの黒い服だ。
「さすがにこれじゃいけないわな。で?どれ着るんだ」
「これじゃな」
爺さんが指さしたのは黒色で裾がボロボロに解れた、なんだか禍々しさを感じるザ・魔王って感じのマントだ。黒い複雑な服に同じ色のパンツ、銀の意匠の施されたブーツ。暗殺者然として厨二くていいね。アサシン○リードとかで出て来そうな衣装だ
「どうだ?結構いいセンスじゃろ」
「ん、なかなかいいな」
「隣の部屋できてみろ」
「了解」
マントと服をもって爺さんに言われた部屋に入る。そこでこの服を着てみる。
「ふむぅ、サイズもぴったり。マントというのが少し着慣れないが…うん。いい感じだ」
部屋の壁に取り付けてある姿見と向き合う。
「なんだか着られてる感がある……が、仕方ないか」
服を着たまま部屋を出る。爺さんやフィア、クレハの視線が集まる。
「ふぅむ。少し着られているような気もするが、泣かなか決まっておるな」
「ほんとですねっ。お似合いですよ魔王様!」
「カゲムネ様、かっこいいです」
三人からは結構高評価。声の高さや表情からお世辞ではなさそうだ。
「ありがと。やっぱ着られてる感は仕方ないかな。マントなんて初めて着るし」
「さて、衣装も決まった所で今日の戴冠式の説明をするかの」
それから戴冠式までの時間、爺さんに説明を受けながらどうすればいいのか練習する。面倒くさいが仕方ないのでまじめに受けた。
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そして午後、戴冠式の時間だ。
俺の目の前には大きな扉。俺はその扉を勢いよく押し開ける。
バァンッ。
その扉を潜り中に入る。扉の前には玉座がありそこからまっすぐ 道が伸びている。その両端に幾人かの男女が並んでいた。その中に爺さんとフィアの姿が見える。
フィアと爺さん以外は俺の姿が見えていないようだ。
俺は気にせず堂々と歩く。そして玉座に座る。
フィアと爺さん以外の奴らがゴニョゴニョと話している。
「お、おい。ひとりでに扉が開いたぞ」「どういうことだ?」「まさか今代の魔王様は死霊とでもいうのか?」
そんな話を聞いていると爺さんが口を開く。
「静まれ!魔王様の御前であるっ」
いつもの爺さんらしくない堅い口調だ。
「で、ですがイージス様。魔王様の姿が見当たらないのですが……」
「魔王様はすでに玉座に座られている」
「な、なぜ私たちには見ることができないのでしょうか」
「む、それは……」
爺さんが困っている。このまま見てるのも面白いが……仕方ない。助けてやるか。助けれるかはわからないが。
「すまないな。俺は影が薄くて人に認識されにくいのだ」
俺がそういうと何人かが気付いたのかこちら側をちらちら見てくる。
「声が聞こえた…」「まさか本当にいらっしゃるのか?」「なに?私には聞こえなかった……」
まだ気づいていない奴が多いが続けよう。
「よく見ろ。玉座に今も座っている」
俺の声が聞こえた人たちがこちらを凝視してくる。正直すごいぞこの光景。
「な、何かぼやぁっといるような……」「っ!いる、いるぞっ」「ほ、ほんとですっ。何かいます!」
おい何かって。
それがカギになったのかゾクゾクと俺が見える奴が出てき、最終的には全ての人が俺を捉えることができた。
「よう、初めまして、だな。俺が今代の魔王、カゲムネだ」
「お、おぉぉ!」「魔王様…」「魔王様だぁぁ!」
俺が自己紹介するとそいつらが歓声を上げだした。
「静まれ!静まれぃ!これより戴冠式を開式するっ」
『はっ』
爺さんの言葉で潮が引くかのように静まる。
「戴冠の儀」
爺さんがそういいこちらに歩いてくる。手には何かの羽を飾った一つの首飾り。鮮血のような鉱石が付いていた。
「これは代々魔王様が身に着けておられた伝統ある首飾り」
爺さんがその首飾りを俺にかけてくる。
「ここに、今代魔王カゲムネ様の戴冠を宣言する!」
爺さんがそう言い切ると並んでいる人たちが一斉に姿勢を整え右手を左胸に添える。
これからは爺さんの説明で聞いている。俺の言葉を待っているのだろう。
「今、魔族は困難に立ち向かっている。食糧や人族など様々な問題をこの国は抱えている。先代魔王たちはそれぞれ全力を尽くして問題に向き合っていたのだろう。その姿勢が国民の心を惹きつけた。そのような素晴らしい魔王の後代に俺はなった。ならば、することは決まっている。俺は全力でこの国を支える。支え、より良い国を作る。今まで解決することのできなかった問題を解決し、成果をもって国民に示そう。俺がこの国の王たりえる存在であることを」
俺はそこで区切り玉座から立ち上がる。そして向かいにある扉を開きテラスに出る。その後ろを爺さんたちが従う。
テラスにある手すりに手を添える。そこから見える景色には大勢の群衆が見える。その人々の視線は全て今このテラスに向いている。
すぅぅ……。
大きく息を吸い乱れる鼓動を整える。
カチッ。
ぶわぁぁっっと風が吹き荒れる。
「国民よ、聞け」
自然に出た俺の声は小さかったかもしれない。しかし国民たちは俺の声を一言一句聞き逃さないという意思を感じる。
「この国は今、多数の問題を抱えている。そのせいでこの国を支えることはとても困難だ。しかし、その国を先代魔王、行政官、自衛団、そして国民たちは支え守り抜いてきた。今回俺はその国の代表たる王になる。俺が目指すは先代の魔王達のような素晴らしい名王か?いいや違う。俺が目指すは先代の魔王たちがかすんで見えるような魔王となろう!俺は結果をもって国民に示す。期待して待っているがいい」
一度大きく深呼吸する。
「俺はここに魔国ハーデスの王、魔王カゲムネの戴冠を宣言する!!」
俺がそう強く言い切ると一瞬の間があったのち、
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!』
国民の歓声を耳にした。
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「す、素晴らしかったです魔王様!」
「うむ、国民に宣言するとき小僧から途轍もない存在感を感じたぞ。小僧の影の無さが嘘だったかのような強大な存在感を」
「本当、こんなことは初めてだ。国民の前に出たとき何か鍵が開くような感じがしたんだ」
あれが何だったかはわからない。しかしそんなものどうでもよく感じるほどの熱気を体の内に感じる。
「よし、早速国民に成果をもって示そう。行くぞ爺さん、フィア」
「うむっ」
「はい!」
さぁ、始めようか!
かっこいいセリフ考えるの難しすぎた……。