13.工房
職人区域は、なんというか熱いな。ここは鉱石が多く取れるので鍛冶場が多いせいだろう。そこら中からカンカン鉄をたたく音が聞こえる。
「ん~。いいなこの音。リズム良く響いてくる感じ。好きだな」
「ですよね。私もこの音好きなんです。心地よいんですよね」
フィアもわかるか。
「あ、ここの親方さんが作る武器すごくいいんですよ」
フィアがそう言って指さす鍛冶場。暗い路地の奥にひっそりとたたずむそれはただのぼろ屋にしか見えない。
「私の大剣もここで作ってもらいました」
フィアは笑顔で今まで背負っていた大剣を見せてくる。しかも笑顔で。ヤンデレかね君は。
「エヴァさーん。いませんかー?」
エヴァ?もしかして女の人なのか?
「だれだようるせぇなぁ」
ぼろ屋に向けてフィアが叫んでいると中から奇麗な声で似合わない粗暴な話し方をする女性が出てきた。髪はぼさぼさで身なりも汚れて薄汚い雰囲気があるのだがそれすら織り込み済みな美しさがある。
「もぉエヴァさんまたそんなになって!奇麗なんだからきちんとしないと。折角の美人さんが台無し……じゃないね。なんだかそれすらまさる淫靡さがあるような……」
うむ……エロい。
「それで?フィアはいったい何の用でここにきたんだい」
「エヴァさんを紹介したい人がいるというか、町の案内で腕のいい鍛冶師の紹介がしたくて」
「おいおいおだてても使い勝手のいいナイフしかやらねぇぞ?それでそいつはどこにいるんだ?私に来いって言うんじゃないだろうな」
「そうじゃないよ。その人、というかお方はもうここにおらっしゃるというか……」
そう言いながらこちらをちらちらみてくる。
「見えてないんだろうなぁ。声も聞こえてないみたいだし。あぁ悲しくなってくるなぁ」
俺の影の薄さは半端でないため俺の声なんかは日常の雑音のように感じ無意識のうちに聞き流してるみたいだ。
「だ、大丈夫ですよ!うん、大丈夫です!」
何が大丈夫なのかわからないけどっ。っと言いながら励まして?くれる。
「お、おい。どうした急に一人でしゃべりだして。もしかして仕事がきついのか?」
「ち、違うよ。エヴァさんを紹介したい人は今エヴァさんの目の前にいるんだけど」
そういうとエヴァは何か真剣な顔をしてフィアの額に手を当てる。
「熱は……ないな。もしかして、痛い娘になったのか?」
「そんなわけないじゃん!ホントだって、目の前にいるのっ。魔王様、私にしたみたいにエヴァの頬をつねって!」
おぉ、さっきまでカッチカチな話し方だったフィアが俺に対してこの口のききよう。嬉しいな。
「っ、も、申し訳ございません!魔王様に対してこのような口の利き方っ」
「だから構わないって言ってるのに」
「おい。魔王様ってなんだ?魔王様は他界されただろ」
「そうだけど!新しい魔王様が召喚されたの。それで今新魔王様がエヴァさんの前にいるんだよっ」
ふぅむ。慌てて困るフィアを見るのは面白い。が少し可哀想になってきたな。
「仕方ない。ほれっ、これでええかな?」
目の前にいるエヴァの頬をつねるとエヴァさんはつねった頬を抑え飛び上がる。
「ひゃぁっ」
お?案外可愛らしい悲鳴を上げるんだな。
自分がそんな悲鳴を上げたと気づいたのだろう。途端に顔を赤くしてアワアワしだす。
「ち、違うぞ!今のは…あれだ!あれなんだっ。決して悲鳴などではないぞ!」
必死にフィアに弁解するエヴァはさっきまでと違ってなんだか女性というか少女然とした雰囲気でてきた。
「そ、それよりも今のは何だ?頬をつねられた気が……」
エヴァと目が合う。かなり近い距離でこちらをじっと見つめてくる。別に目を合わし続ける理由はないのだが、なんとなく逸らすと負けな気がしたので俺もじっとエヴァの奇麗な金眼を見つめる。するとさっきよりもより顔を赤く染める。
「き、きゃぁぁぁあ!」
「うおっ」
ビンタが飛んできたのでサッと避ける。
「にゃ、なんだそいつは!急に目の前に現れて……し、しかも奇麗だとか。は、恥ずかしいことをっ」
ん?声に出してたのか。
「そ、そいつって。無礼ですよっ。この方が今代の魔王様になられるお方なんです!」
「こ、こいつがか?この目の前にいるのに存在しないかのような影の薄いこの男が?」
「悪かったな影が薄くて。俺が今代の魔王、名無 影宗。こっちじゃカゲムネ ナナシだったか?」
エヴァは俺が魔王だということを信じたのだろう。左目には魔王の証たる紋様が浮かんでるしな。
「マジで魔王様なのかよ。てことは私結構やばいことしてたんじゃ……」
さっきまで真っ赤だった顔がだんだんと青ざめていく。
「ご、ごめんなさいっ。魔王様だとは露知らず無礼なことを…」
さっきまでの強気な姿勢はどこに行ったのかと思うほど腰が低い。
「そんな畏まんな。別に気にしてないしどっちかというとさっきのほうがまだ良い」
「いや、だけどな、だけどでしゅ、すね?魔王様は国の王様だし、であって…」
使い慣れていないのだろう。たどたどしく噛みながらも頑張って敬語を使っている。
「んなことじゃ怒ったりしないって。そんな権威を振りかざすの苦手だし。フィアに接するようにしてくれて構わないぞ」
「ほ、ほんとにか?」
「ほんとだ」
「わ、わかった。…おほん。私はエヴァ。よろしく、えぇっと……」
「カゲムネでいいぞ」
「ん、よろしくカゲムネ」
そう言って際し出してきたエヴァの手を握る。
「え、エヴァさん。流石にフレンドリーすぎるんじゃ……」
「しかしカゲムネが良いって言ってるし」
「フィアもエヴァに接するような軽い感じで良いって言ってるのにな。頑固なんだよなぁ」
「まぁフィアはずっとこんな感じだし。私のときもはじめは堅かったしな。時間をかけてくしかないな
「そりゃ仕方ない。ゆっくりと仲良くなってくことにするよ」
「魔王様相手に気軽に話しかけるなんてムリですよ!」
まったく。こりゃ先が長いな。
「んでその魔王様が私に何の用なんだ?」
「いや、フィアがエヴァを紹介したいって来たんだが。腕がいいんだってな?」
「え?ま、まぁそれほどでもあるがな?」
頬を赤くして照れているらしい。
「エヴァは武器しか作らないのか?」
「エヴァさんはいろいろ作りますよ。剣だったり小物だったり、意匠も細かくて知る人ぞ知る職人なんです」
「あ、あんまり褒めんなよ…」
「ん~。エヴァなら頼めそうだな……」
「ん、何だ?」
「いや、何でもない」
その後フィアとエヴァが楽しそうに話し時々俺がそれに混じるを続けすでに空は赤く染まっていた。
「ん、もう夕方か」
「そろそろ帰りますか。明日の戴冠式の準備もしないといけませんし」
「そうか。なかなか楽しかったぞカゲムネ。またいつか遊びに来てくれよな。フィアと一緒に」
エヴァの工房を出て城への帰路に就いた。
あ、補足だがエヴァの工房は見た目ぼろ屋だが中は意外にきれいだった。棚に小動物の小物やぬいぐるみが置かれていてなかなか可愛らしい趣味だった。もちろんいじり倒した。
エヴァいじりはとても楽しかったです。
感想いただけたら作者のやる気が上がります。
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