11.兵器
前魔王の私室の扉は黒檀でできていた。金の蝶番に金のノブ。凄く威圧感がある。
「なんかここだけ豪華じゃないか?」
もしかして前魔王とやらはこの状況で自分だけ贅沢する奴だったのか?
「豪華に見えるのは見た目だけじゃ。前魔王様は自分に資源を回すぐらいなら国民のために使えというお方だった。だが国の王たる方の私室がぼろい木の扉というのは問題があるじゃろ?だから見た目だけでもと黒く塗り金色の鍍金をしたのじゃ」
なんだか、聞いているだけで悲しくなてくる話だな。
扉を開き中に入る。中は少し大きなベッドに小さな机。本がぎっしり詰まった本棚。装飾らしい装飾は全くない。
「凄く効率重視な部屋だな」
「必要なもの以外はいらない。という方でしたからね。自分のことはあと回し。国民第一で考えておられる方でしたからね」
ずいぶんな善王様だったんだな。
「その前魔王は?」
「寿命ですでのこの世にはおらんよ」
「国葬の際国民が城前広場に集い黙祷を捧げるほど皆に愛されていたんですよ」
マジかぁ…。俺その後とか国民からの評価基準高そうだなぁ。
「いい評価をされるように頑張らないとなぁ」
「前魔王様はかなり優れたお方だったからのぅ。お主は認められんかもなぁ。シシシッ」
「黙れ爺さん。その髭引っこ抜くぞ」
おおぉ怖い怖い。と爺さんは言ってフィアの背後に隠れる。爺さんがそんなことやっても可愛くねぇ。むしろ気持ちわりぃ。
「さて、仕事を始めるか。まずはこの国の問題点を知りたいな。爺さん」
「そうじゃのぉ。まずは食糧不足。北の地故作物が育ちにくいのじゃ」
農業かぁ。俺農業系詳しくないからなぁ。
「食糧問題は今のところ保留だな。これから食えそうなもの見つけたら報告する。農業関連には疎いが山菜などは結構得意だからな」
昔っからサバイバルよくしてたからな。マジサバイバル。親に気づかれなくて食うもんなかったときとかそこら辺の草や川魚、蛇やトカゲ、鳥に木に巣くう芋虫なんかも食ってたからな。時々食っちゃいけないものとか食っちゃってよく腹壊してたなぁ。死にかけることなんかざらだ。毒蛇食って山の中で倒れたときは本気でやばかった。
「ほかの問題と言ったら……。先ほど言った魔石不足と自衛団の防衛力の低下。それと人族の国の一つ、ハイネル王国との関係じゃな。最近召喚されれたという勇者が力を付け次第こちらに攻めてくるという情報が入っておる。それに付け加え人族の領地で魔族が暴れているという噂もあったのぅ」
「それが本当に魔族がやった可能性は?」
「低いじゃろうな。儂らにはそんなことをしている余裕などない。自衛するだけで精一杯じゃ。それに儂らは基本的争いを好かない。力があるが故に人族たちは儂らを好戦的だと思っているようだがな。もしかしたら人族にうらみのあるはぐれ魔族がやっているのかもしれながな」
真実はわからないと。今のとこ解決できそうなのは……。
「魔石不足の問題と防衛力の問題かな」
「どうにかできるのか?」
「できるといえばできるのだが……」
爆破石、使えれば強力な兵器になるが……。新しい問題を生むかもしれない。
「俺が今からいうものを作ればその二つが一気に解決できるだろう。だが作ってしまえば新しい争いの火種になるかもしれない」
「それ程の物なのか?」
「あぁ、例の爆破石を使うんだが」
「爆破石なんて爆発するだけですよ?あの爆発を使えば敵にダメージを与えれるとは思いますが、こちらもダメージを受けてしまいます」
「その爆破の威力を使って物を飛ばすんだ」
「あれにそのような力がるのか?」
「まだ見てないからどうなるかはわからないが、多分できる」
技術が発達してないからそんなことにも気付かないのか。
「銃や大砲って言うんだが。一方を閉じた筒の中にその爆破石を入れて弾、飛ばすものを詰める。そしてその中の爆破石に衝撃を与えると爆破の力が外に出ようと弾を押し出す。一方向にその力が集中すると爆破の威力はさらに増す。だから弾が高速で飛び出し敵にダメージを与える。そんな感じの仕組みだ」
「初めて聞く話じゃ」
「そんなので魔物にダメージを与えられるのですか?」
「多分ね。実際に魔物の硬さを見たわけじゃないから確約はできないけど。試作品でも作ってみようか。かなり簡単な仕組みだから」
そのためにはまず爆破石とやらを見に行かないとだけど。
「爆破石、見に行ってもいいか?」
「あ、はい。保管している場所まで案内します」
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「ここです」
フィアに案内されたのは城の地下にある。頑丈そうな鉄の扉だ。
フィアが開こうとするが開けるのか?
「フィアで開けるのかこの扉」
「大丈夫じゃ。フィアは自衛団団長だぞ。この扉ぐらい朝飯前だ」
本当か?疑いの目でフィアは苦笑するだけ。そのまま扉に小さな手のひらを当てる。
いやいや無理だろ!?そう思ったのだがフィアは力む仕草もなく扉を開く。ぎぃぃっと音を立てながら鉄の扉が開いていく。
「マジか……」
「幾多もの魔物を屠ってきたのだ。これくらいできるじゃろ。それに鬼人族はもともと筋力が高いからな」
流石ファンタジー。
「魔物を倒せば強くなれるのか」
「そうだ。原理を分かっておらんがな」
レベルアップか?それならステータスなんかもあるのか?
「ステータスなんかあったりするのか?」
「すてーたす?なんだそれは……」
なんだ、ないのか。残念。
「魔王様、これが爆破石です」
話している間にフィアが爆破石を持ってきてくれる。見た目は赤い石だな。
「これを使える場所はあるか?それと鉄球」
「ありますよ。イージス様。魔王様を闘技場に案内していただいてもよろしいですか?私は鉄球を持ってきますので」
「わかった。では先に行っておく。小僧、こっちじゃ」
「おう」
フィアと別れ爺さんの背を追う。階段を上り城から外に出る。そういえばここに召喚されて初めて外見るな。って、城壁に遮られて景色が見えない……。
「何をしておる。こっちじゃこっち」
「あ、あぁ」
爺さんの後をついていくとお椀型に窪んだ場所に出る。傾斜が客席になっていて、そこは広場になっていた。
「ここが闘技場じゃ。主に自衛団の訓練や祭りの時の大会に使われたりする」
「ほぉ」
自衛団の訓練か。見てみたいな。
「魔王様!お持ちしました」
その時丁度フィアが鉄球の入った袋を持ってきた。
「さんきゅフィア」
「いえ」
フィアから鉄球を受け取る。ゴルフボール大の鉄球だ。
鉄球と爆破石は用意できた。
「まずは爆破石の威力を知らないとな」
爆破石の入った箱から拳大の魔石を取り出す。
「これ壁に投げつけたら爆発する?」
「はい、十分だと思います」
それを聞き壁に向けて投げつける。
「うおっ」
予想以上のスピードがでてびっくりした。
壁にぶつかった爆破石が大きな音を立て爆発する。
ドゥンッ!
「おうっ」
人の頭が入りそうなほどの穴が開いてしまった。
予想以上だな。
「結構結構。これなら使える」
早速試してみよう。
無形球を鉄球がぴったり入る大きさの筒にする。もちろん片方は閉じて。その中にそっと小石大の爆破石を入れる。そして筒の空いている方を空に向け地面の固定する。フィアと爺さんを少し離して筒の中に鉄球を落としすぐに筒から距離をとる。大丈夫だと思うが破裂したら嫌だからな。筒からゴツッっと鈍い音がして次の瞬間ボンっっと音を立てて筒から鉄球がものすごいスピードでは射出される。
「っ」
「きゃっ」
「な、なんじゃっ!?」
さっきより大きな音がする。
「おぉ~。うまくいった」
「な、なんなんですか今の!?」
「何か、とび出たようだが…」
「鉄球だよ。爆発の威力が外に出ようと鉄球を押し出すんだ」
かなりのスピードが出てたしこれなら十分使えると思うが。
「フィア」
「は、はいっ。今の魔物に向けて撃てたらどれだけのダメージを与えられる?」
「そ、そうですね。あのスピードでこの鉄球が飛んでくるのなら……、頭部当たれば一撃で行けると思います」
「そ、そんなに威力があるのか!?」
「はい、硬いことで有名なオーアタートルの甲羅も粉砕できると思います」
「ほぉ」
オーアタートル……鉱石の亀?
「これは簡単にしすぎたがもっと複雑にすれば狙いもつけることができるし。連射速度もあがる。戦場でも使えるようになると思う」
「これは……」
爺さんは俺の話を聞いて苦い表情をする。
「気が付いた?」
「あ、あぁ」
「え、何がですか?」
フィアはまだこの兵器の恐ろしさに気が付いていないようだ。
「この兵器は手順を間違えなければ誰でも、もちろん子供でも使えてしまう。それでこの威力。しかも簡単なものなら手軽に作れてしまう。こんなものが戦場に出回ってしまえば今の戦場での犠牲者の数がぐんと伸びるだろう」
「それは……」
「この兵器は俺の世界の武器なんだ。世界中で使われていて、もちろん戦場にも持っていかれる。こんなものよりもっと高性能な奴が。一秒間になん十発も鉄の塊を打ち出せるんだ」
「なっ」
「それを使った戦場は何百万人と死者が出る。ある兵器はその周辺の地域ごと死滅させてしまう物だってあった。だからそんなものをこの世界で作ってもいいのだろうかと思ってな」
「ふむ……、これはそうかんたに決めていいものじゃない。しばらく時間をかけて決めていこう」
「それがいい」
重要なことを簡単に決めて大事になるといけないからな。
「さぁ、このことはいったん保留な。なぁ爺さん、俺外の町見てみたい」
「ん~。戴冠式は明日。まだ時間に余裕がある。フィア、小僧に町の案内をしてやれ」
「あ、はいっ。任せてください!」
「よしっ、じゃぁ行こうぜ」
異世界の町、楽しみだ。
知識チートしたいけど難しいですね