車いす改
人物紹介
豪徳寺高志:俺。24歳。普通のリーマン。妹達いわく「バカな兄」
豪徳寺瑞穂:20歳、171cmでスポーツが得意な妹。体力バk (バコン)
豪徳寺初穂:150cmと小柄だが、ローキックが重い。足が太いかr (ドスン)
車いすの女:名前を八竹玲奈というらしいが覚える気はない。
ぷしゅー
電車のドアが開いたら、やっぱり車いすの女が乗り込んできた。
『今日も負けないから』
奴の目がそう言っていた。
『まぐれは二度続かない、今日は現実を思い知らせてやる。』
昨日は勝負をせずに、こいつのサポートをした。
会社が隣のビルだから、そこまで車いすを押させられたし。
屈辱だ、ゆるせん。
もう俺の前を走らせねえ。
このバカ女は、俺の後ろから涙目で走ってくるのがお似合いだ。
乗り替えの駅に着いたとき、俺は一気に車いすの女を持ち上げて電車から降ろした。
「きゃ、ありがとう。」
「礼はいらない、俺のためだ」
これで奴は俺と同時にスタートすることになる。
一気に走る。
俺の隣を走る車いすの女。
やはり車いすは思ったよりも速い。
徐々に差を広げられてしまう。
しかしそれはこの直線コースだけの話だ。
あのカーブを曲がれば、別の電車から合流してきた人も混ざって、うじゃうじゃ通行人が増える。
そしたら小回りが利く俺が有利だ。
車いすの女に少し遅れてカーブを曲がる。
この程度の差なら小回りで…
そう思ったが、異変に気付いた。
車いすの女が思ったよりも減速していない。
なぜだ!人混みだぞ!
焦った。
そんなバカな。
しかし現実は残酷で、じわじわと差を詰めているが、これでは階段までに抜きされない。
なにが起きたんだ?
くそ、階段までに抜きさることができなかった。
ニヤリとされた。
階段の前で待ち構えるように、笑いながら俺を見る車いすの女。
『あんた、負けたんだから車いすを持ち上げて階段を降ろしなさいよ。』
そう言ってる気がした。
屈辱だ。
しかし、
勝負は勝負だ。
追いつくと同時に無言で車いすを持ち上げ、階段を降りてやった。
まあこうすれば、他の人たちもエスカレーターを止められないで助かるだろうしな。
だが、
階段を降りきって車いすの女を地面に降ろした瞬間、俺の中の何かが叫ぶ。
『加速装置!』
一気に走り出した。
まだ、第二ラウンドがある。
『させないわ!』
車いすの女も地面に降りると同時に走り出していた。
ちっ、勝負に貪欲な女だぜ。
電車までの通路は微妙な角度がある曲がり角が数か所あり、そこで減速した分車いすの女は俺に敗北した。
ふう、引き分けか。
電車に乗るころには、妹達も追いついてきたので、四人で電車に乗った。
おれは疑問を聞いてみた。
「車いすの女よ、なんで今日は混雑ゾーンで軽快だったんだ?フットワークの練習とかしてるのか?」
「八竹玲奈って名前を知ってるのにそう呼ぶの?…まあいいわ。今日のフットワークの秘密を知りたいなら教えてあげる。」
「なんか上から目線でいわれてむかついた。やっぱ聞きたくない。」
下の妹の初穂がローキックを入れてきた。
ドスン
「子供か!聞いたなら最後まで聞きなさい!」
地味に痛いから朝からローキックは勘弁してほしい。
上の妹の瑞穂は車いすの女の前に回る。
「兄さんがスイマセン。私も気になったんですが、今日の玲奈さんはキレキレでしたね。」
すると女は嬉しそうに車いすを叩く。
「ふふーん、じつは車いすを小型の奴に買い替えたんだ。15センチ程度の縮小だけど、想像以上に小回りが利いたわね。」
『おまえ、勝負のために車いすを買い替えたのかよ。信じられないな。』
『バカに目にモノ見せてやるためよ。もうあんたに勝利はないわ。』
ぐぬぬぬ。
むかつく女め。
そんな目で語り合う俺たちを、妹達は微妙な顔で眺めていた。
目的駅に着き電車を降りた後、嫌がらせに全力走りで車いすを押して会社まで行ってやった。
意味もなくS字状に曲がったりしたら悲鳴を上げていたから、ちょっとすっきりしたぜ。
嫌がらせで走ったのに、会社に着いたらいい笑顔で「ありがとう」って言われてしまった。
解せぬ。