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つり革争奪杯

今日も妹達と一緒に出勤。


電車に入ると俺を使ってスマホを固定するように妹達がポジショニングする。

ここまではいつも通り。


だがこの日は少し混んでいた。

どういう理屈なのか、時々妙に混んでいる日がある。

俺は押されて少し斜めになってしまった。


ヤバイな、こんな不安定な体勢じゃ、ささいな振動で倒れてしまいそうだ。


目の前にちょうど吊革があったので掴まろうとした。

すると、

はるか横の方から、俺の目の前の吊革を掴んだ奴がいた。


おいおい、お前無茶するなよ。

俺の目の前の吊革につかまるよりも、網棚のバーを掴んだ方が楽だぞ。


そう思い、俺は親切にもニコやかに軽く会釈し、そいつの指を吊革からはがしてやった。

そいつはブルース・リーみたいな驚きの顔でこっちを見ている。

よし、そのまま手を退けろ!


奴の手をつり革から剥がすと、俺は悠々と目の前のつり革を掴む。

これがあるべき姿なのだよ。


つり革から手をはがされた奴は、怒りの鉄拳みたいな顔でぶるぶる震えている。

おこなの?

しかしこいつ、仕草から顔つきまでブルース・リーによく似たやつだな。


ま、似ているだけだがな。


そう思い、奴から目を離した瞬間。


「アチャァ!」


ベキッ


奴はいきなり俺の手首にチョップを入れてきやがった!

痛えなこの野郎。


その衝撃で吊革を掴んでいた手が少し緩む。

奴はそのまま俺の手首をつかみ、吊革から俺の手をむしり取った。


そして、親指で軽く自分の鼻をこすりつつ吊革を掴む。

凄くドヤ顔でこっちを見てやがる。


この野郎!

ちょっと面白い技使うからっていい気になるなよ。


そこで次の駅に着いた。


いつものようにワルキューレ玲奈が乗り込んでくる。

「おはよー」

「おう、おはよう」


俺は素早く玲奈を電車にひきこむと、元の位置に戻る。

そしてさっきの奴を睨む。


戦いはこれからだぜ。

俺が奴を睨むと、

やつは余裕の表情で、もう片方の手で「かかってこい」と言わんばかりにクイクイと指を曲げた。


面白い、やってやるぜ。


俺は吊革を掴む奴の手にチョップを放つ。

しかし奴は瞬間つり革を放し、器用に手首を返して俺のチョップを受けた。


「オアチャ」


そして奴は小さい切り返しで俺の手首に反撃してきやがった。


ベシ


やるじゃねーか。


当然その攻撃を叩き落して吊革を狙う。

その俺の手をブロックするように、奴は俺の手を叩き落とす。

なんの、反撃してやる。


バシ

バシ

バシ


そんな片手掌だけの応酬が続いた。


「アチャ!アチャ!アチャ!」

「そりゃ!そりゃ!そりゃ!」


こいつは熱い戦いだぜ。

カンフー野郎め、面白いじゃねーか。


お互い片手でつり革を狙う。奪い奪われの攻防を繰り返す。


一瞬のスキを突かれて、カンフー野郎に吊革を奪われてしまった。

くそ、スピードとテクニックは奴が上か。

だがパワーはこっちが上のはずだ。


無理やり引きはがしてやる。


そう思ったとき、


ガタン


電車が大きく揺れた。

「あっ」


玲奈と妹達が一斉の俺にしがみつく。

ヤバイ、今は体勢が不安定だ。


焦った。


しかしその瞬間。

誰かが俺の手首をつかんで引っ張った。


誰だ?


見ると、それはカンフー野郎だった。


そして奴の表情が悲しそうに震える。


「アチョーーー(お前を助けたんじゃない。その女性たちを助けたんだ)」


ち、こいつ・・・カッコいいじゃねえか。


俺は、俺の手首をつかむカンフー野郎の手首をつかみ、吊革を掴ませる。


「ホアアアア(なんのつもりだ)」


ふっ、俺にもカッコつけさせろよ。

俺はゆっくり、吊革の上の革部分を直に掴む。


これで一つの吊革で2人支えられるぜ。


「これで貸し借りなしだ、カンフー野郎」


この光景を妹達は呆れた顔で見ていた。

ふん、女子供にはわからん友情もあるんだよ。


だが玲奈は笑っていた。

「ま、戦って友情を育むのは高志らしいんじゃない。」


さすがワルキューレ、戦う男の心が分かっていやがる。


朝から良い戦いができた。

今日はいい日になりそうだぜ。

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