台風車いす
人物紹介
豪徳寺高志:俺。24歳。普通のリーマン。台風ではテンション上がる。
豪徳寺瑞穂:20歳、171cmでスポーツが得意な妹。台風が嫌い。
豪徳寺初穂:150cmと小柄だが、ローキックが重い。雨が嫌い。
車いすの女:八竹玲奈。こいつはとんだバトルジャンキーだぜ。
台風が来た。
うん、会社行くの面倒くせえ。
しかしサラリーマンは辛いのだ。
妹達も学校に向かうようだ。
おい学校、休みにしろよ。うちの妹達が大変だろうが!
駅まで行くのにすでにズブ濡れ。
電車の中で濡れた服に困っていると、車いすの女が現れた。
雨がっぱを畳んで膝の上にのせている。
まったく、ビニール傘を使えよ、ビニール傘をよ。
いつものように、俺は電車の中に車いすの女を引きずり込む。
まったく世話がかかる女だ。
だがこいつは、俺のピンチの時に義足ハンマーで戦ってくれたからな。
いうなれば戦友だ。
台風でも一緒に生きて帰るぞ。
車いすの女は、ジロジロ俺を見た。
「ねえ、あんた何を持ってるの?」
「これか?ノボリだけど。」
そう、今日のお俺はお米屋からもらってきた「のぼり」を持っている。
ちなみに「のぼり」っていうのは、縦長の旗みたいな布の看板だ。
「この台風の中、なんでそんなもの持ってきたのよ。」
「え?台風だからだけど?」
「意味わからないんだけど?」
女子大生の瑞穂が申し訳なさそうに割って入ってくる。
「スイマセン玲奈さん、兄さんはバカなんです。」
女子高生妹の初穂にいたっては俺をガシガシ蹴ってきた。
「邪魔だって言ってるのに持ってくるんだもの。お兄ちゃんのバカさ加減には呆れるよ。」
「ばか初穂、泥のついた靴で蹴るな!クリーニング代の分、小遣い減らすぞ!」
急に初穂は揉み手をしてニヤニヤしだす。
「いやだなあお兄ちゃん、もう蹴らないよ。それに泥もついてないから大丈夫だよ。クリーニングしなくても大丈夫だよ。」
この野郎、お小遣いの減量をちらつかせると下手に出てきやがる。
その気色悪いおべっか笑いをやめろ。
「まあいい。邪魔でもこれは今日重要なんだ。ガタガタいうな。」
「はーい。」
乗り換えの駅に着いたら、のぼりを瑞穂に預け、俺は車いすの女の乗り換えを手伝った。
そして会社の最寄り駅に着いたらノボリを受け取り、車いすの女を降ろす。
いつもと違い、雨だと車いすの女は機動力を失う。
ぐずぐずと雨がっぱを着ているから、さっさと終わるように手伝ったら妙に嬉しそうにしやがった。
そんなに嵐の中に飛び出すのがうれしいか?
こいつは、とんだバトルジャンキーだぜ。
そんなお前にプレゼントだ。
駅を出る前に、おれはノボリを車いすに縛り付ける。
そこで車いすの女は慌てだした。
「ちょっと、まさかと思うけど車いすにそのノボリを付ける気?」
「おうよ、きっと風を受けて車いすが自動走行になるぞ。」
目を見開いて車いすの女は叫ぶ。
「ちょっとやめなさいよ。絶対車いすにそれつけて駅の外に出さないでよ。ねえ、絶対だめだからね。」
「流石わかってるな。絶対ダメなんだよな。絶対ダメってことは…な。」
「な、じゃないわよ。フリじゃないから。絶対駄目だから!。」
つまり、やれってことだな。
分かっているぞ車いすの女。
俺はビル風が吹き抜ける道に、のぼりを付けた車いすの女を押し出す。
「ちょっと!ダメって言ったのにいいいいいぃぃぃぃぃぃ。」
ゴオオオオオー
突風で車いすは凄い勢いで走り出す。
「いえーい、大成功だぜ!。」
「助けなさいよぉぉぉぉぉぉ」
風の力で前進していた車いすは、スーッと吸い込まれるようにガードレールにぶつかった。
ドン
ガシャラララ
倒れた。
お、おおお?
・・・ヤバイ!
急いで駆け寄る。
「おい、大丈夫か!」
車いすの女が、凄い形相で俺の首を絞めてきた。
「このやろう!大丈夫なわけないでしょう!なんのつもりよ!」
「楽しかったろ?」
しばらく俺を見つめる女。
そして、くたりと車いすの女の力が抜ける。
「あんた、なんで怒ってる私を不思議そうに見ているか理解しちゃったわ。信じられないけど、まさかと思うけど、これってもしかして親切のつもり?」
「おう、そのためにワザワザ、米屋からノボリをもらってきたんだ。スピード足りなかったか?」
車いすの女は、母さんみたいな力の抜けた笑顔になった。
「あんたほんとバカね。まあいいわ。車いすにわたしを乗せてよ。まあ良い体験だったわ。」
車いすに乗せてやると、諦めたような顔で見つめられた。
「まるで小学生ね。」
「永遠の少年だ。」
「あんたモテないでしょ。こんなことされたら普通の女性は怒るわよ。」
「うっせい、モテないんじゃない。姑息にモテる努力をしないだけだ。」
「……」
「なんだよ。」
「まあいいわ、会社まで押してくれるでしょ。」
「まあ、ついでだからいいぞ。」
車いすの女、最後はニコニコ会社に入っていった。
なんだよ、やっぱ楽しかったんだろ。
ちっ、思い切って俺もやらせてもらえばよかったぜ。
帰りに待ち構えて、風力車いすに乗らせてもらおうっと。
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