車いす改二
人物紹介
豪徳寺高志:俺。24歳。普通のリーマン。モテない。
豪徳寺瑞穂:20歳、171cmでスポーツが得意な妹。女子にモテモテ。
豪徳寺初穂:150cmと小柄だが、ローキックが重い。何故かモテる。
車いすの女:八竹玲奈。昔はモテたらしい。
通勤は戦いだ。
妹達と電車に乗り込み一駅進む。
すると奴が乗り込んできた。
そう、奴は車いす界のワリキューレ。
もしくは、通勤界の孫ビン。
悔しいが我がライバルと呼ぶにふさわしい女。
車いすの女が乗り込んできた。
目が合うと同時に勝気に唇の端を上げてくる。
言葉にしなくても語りかけてくる意味は分かった。
『今日こそ完全勝利をさせてもらうわ。』
『おもしろ、その愚かさを思い知らせてやる。』
そこで妹の初穂が女子高生特有のイントネーションで口を開く。
「お兄ちゃんさあ、なんでいつも玲奈さんを目の敵にするの?」
バカな妹だ。
「あほ、これは俺たちの戦いだ。お互いが望んだ勝負なんだよ。」
すると、女子大生妹の瑞穂が、珍しくニヤリとした。
「じゃあ兄さん、今日は賭けをしようよ。勝った方が絶対的な命令を1つできるっていう賭けを。」
俺は鼻で笑ってやったぜ。
「好きにしな。俺が負けたら奴隷でもなんでもなってやるよ。はっ。」
初穂と瑞穂の目が光る。
初穂は、そっと車いすの女に耳打ちを始めた。
車いすの女は驚いた顔をしたがすぐに微笑んで頷き返している。
よからぬ相談をしているな。
俺を見上げてきた。
「私もそれで構わないわ。今日は自信あるから!約束を忘れんじゃないわよ。」
「せいぜい頑張れよ。わっはっはっは。」
そして乗り換えの駅に着くと扉が開く。
さあ、レースの始まりだ!
俺はすぐに車いすの女を持ち上げて電車から降ろしてやった。
ただし、階段と反対向きに向けてな。
俺ダッシュ!
後ろで叫び声が聞こえる。
「信じられない!卑怯すぎるわよ!」
孫ビンよ、敵も兵法を使うと知れ。
だがすぐに背後からシャーという車いすの音が近づいてくる。
バカな!あの狭い通路でそんな素早くUターンできるはずがないのに!
驚いて振り返る。
すると、瑞穂と初穂が車いすの女に並走していた。
そうか!瑞穂たちがUターンを手伝いやがったな!
おのれ、どこまでもお兄ちゃんの邪魔をしよって。
やはり直線コースは不利だ。
なんで車いすはあんなに速いんだ。
ありえないだろ。
追いつかれそうになった。
だがこれからだ。カーブをしたら他の線からの乗り換えの人も合流する混雑エリア。
ここで一気に差を広げる。
だが、うっかりしていた。
今日は…都民の日だった!
(注:都民の日とは東京の学校はお休みになる。だから電車が少しすく。)
合流地点に思ったよりも人がいない!。
ヤバイかもしれないな。
それでも車いすにとっては不利な事には変わりない。
突っ切るぜ!
みよ、俺秘技・人混みでの盆踊り(なつみステップダンシング)!
華麗に人をよけながら走る俺はまさに芸術品。
キュッ
だが、
うしろで不吉な音が聞こえる。
タイヤが良いブレーキングをしている音だ。
キュッ
キュッ
キュッ
リズミカルに聞こえる、良いブレーキングの音。
不安がよぎった。
振り返った。
するとそこでは、まるで蝶のように舞い、蜂のように刺す車いすの女がいた。
細かいカーブを小まめに繰りかえしているのに、減速がほとんどない。
なんてテクニックだ。
いつもよりも人が少ないために、車いすが快調だぞ。
奴は俺を追い抜き、一瞬早く車いすの女はエスカレータに着いた。
だが、とまった奴を抜き去り俺はエスカレーターに飛び乗る。
わっはっは。
これで俺の勝利は確定だ。
と、思っていた時代が私にもありました。
横を見ると、妹達が車いすの女を抱えて階段を駆け下りていた。
しまった!またやっちまった。
おのれ!
しかし階段を降りた後は、緩やかな連続カーブがあるコース。
車いすには不利だ。
ここで何としてでも抜き去るぞ。
俺がエスカレータを降りるのと、妹達が車いすの女を降ろすのは同時だった。
勝負!
俺も車いすの女も同時に走り出す。
そこで恐ろしいものを見た。
車いすの女のカーブが鋭角だったのだ。
なんと無駄のないカーブ。
なぜあんなコンパクトなカーブができるんだ?
横に並でいるが油断できない。
くそあと少しなのに。
キュッ
また車いすの女は鋭角にカーブする。
はっ!
まさか!
こいつ!
タイヤを良いものに変えてやがる!
確実に地面を掴むタイヤだからキュッと音を出しているのか。
キュッ
くそ追い抜かれた。
おれの肺も苦しくてキュウーキュウー言い出した。
だが…負けられん!
肺や心臓が破れても良い、速度を出せ俺!
キュッ!
車いすの女は電車待ちの列に到着し、こっちの向きを変える。
奴の勝利が確定した。
くそ、いいコーナリングだったぜ。
おれは苦しくて膝をついた。
「ひい、はあ、ひい、はあ。お前の…勝ちだ。クッ…殺せ。」
苦しい。
女は嬉しそうに俺をも見下ろす。
「ふっふっふ、高いタイヤにして正解だったわ。今日はとうとう私の完全勝利ね。気分いいわあ。」
おのれええええ。
苦しいから声に出さないけど、おのれええええ!。
電車が到着したので乗り込むと、車いすの女は勝利で顔を紅潮させながら俺に命令をくだしてきやがった。
「私が勝ったんだから命令するからね。」
「ちっ、約束だ。好きに命令を出せ。」
すると、車いすの女はさらに顔を真っ赤にして言葉を詰まらす。
「だからあれよ。つまりあれ、えっと…私に負けたんだから…私と付き合いなさいよ。」
ん?
何言ってるんだこの女は?
「何に付き合わせる気だ?飯とかか?」
次の瞬間、瑞穂のパンチと初穂のローキックが同時に俺を襲った。
俺は棒きれのように倒れるしかなかった。
ひどい仕打ちだ!
「くそ!なんなだ!」
なんとか起き上がり叫んでみたが虚しい。
そんなふうに騒いでいたら降りる駅に着いた。
駅に着いたら、
俺と車いすの女は駅員さんにめっちゃ怒られた。
危険行為は止めてくださいだと!
これは勝負だぞ!
だが、警察に通報してもいいと言われて俺も折れた。
車いすの女と、二度と勝負できなくなってしまった。警察は困るからな・・・。
悔しい!俺は敗北した形で引退に追い込まれてしまったということか。
くそおおおお。
車いすの女、くそおおおお。
腹が立ったので嫌がらせに、会社までガックガックンさせながら押してやった。
すこし悲鳴を上げていたから仕返しになったはずだ。
車いすの女は別れ際、
「じゃあ、今日帰ったら連絡してきなさいよね。付き合うんだから。」
といって怒った顔で会社に入っていった。
なんだよ、お前が連絡してくればいいだろうが。
なんで俺がが連絡しなくちゃいけないんだ!
あ、俺が負けたからか。
くそおおお
くそおおおおお
どちくしょおおおおおお。