妖怪・鮫肌バッグばばあ
人物紹介
豪徳寺高志:俺。24歳。普通のリーマン。ナイスガイだぜ。
豪徳寺瑞穂:20歳、171cmでスポーツが得意な妹。イケメン女子。
豪徳寺初穂:150cmと小柄だが、ローキックが重い。JK様。
車いすの女:八竹玲奈。実は策士であなどれない。
妖怪ばばあ:瑞穂をイケメン男子だと思い込んでいる。化粧が怖い。
電車に乗る。
すると後ろから、妹の瑞穂にすり寄るおばちゃんが乗ってきた。
このおばちゃん、まだ瑞穂が女だと気づかないのか?
満員電車の中、ジリジリと瑞穂に近寄ってくる。
怖ええよ、どこのホラーだよ。
そのおぞましい化粧も直視できないんだよ、ばばあ。
どうして若作り=厚化粧になるんだ。
無理するな、もう頑張らないでくれ。
瑞穂はおびえた顔で、じりじり俺を盾にする。
やめて瑞穂ちゃん。
お兄ちゃんを挟んで、妖怪おばばから逃げないで。
くそ、やっぱりおばばが俺の背中に密着した。
俺サンドイッチだよ。
妹とおばばに挟まれて、俺はベーコンレタスか!
いやBLとか恐ろしいから、いまの無し。
俺はカツか!
ほんと勘弁してくれ。
すると、少しズボンの上からチクチクなにかが刺さる。
痛え、なんだ?
みると、おばばのバッグだった。
おばばのバッグは小さい鱗のようなテカテカしたものがビッシリ張り付いた外見をしている。
キラキラするのが良いのだろうか?
まあそれはいい。
しかし
このバッグにびっしりついている硬い鱗みたいなものが、ザラザラザラと俺のズボンを擦るのだ。
まるでヤスリのように…
やめろ!
ズズーって擦られるのにズボンは弱いんだぞ!
そんな、おろし金みたいなバッグでこすられたら、ボロボロになるだろうが!
このババア、そんなリーマン絶対殺すカバンを持ってきてるんじゃねえ。
今そのバッグに名前付けてやる。
妖刀ならぬ『妖バッグ鮫肌』。そうなづけてやった。
ザラッ
やべ、おばばが瑞穂に近づこうとジリジリ移動してやがる。
ザラザラッ
カバンが密着している俺のズボンも、妖バッグ鮫肌が擦っていく。
やめろー!
もしも耐久限度を超えてビリッっとか行ったらどうするつもりなんだ。
逃げたい。
だがこんな妖怪おばばに妹はさしだせない。
うぐぐ、もはやここまでか。
そこで途中駅に着きドアが開く。
ぷしゅー
そのドアの向こうに見えたのは。。。
車いすの女だった。
くうう、はじめてこいつが良い奴に思えるぜ。
俺は妹達の手を捕まえて一回飛び出す。
「おい野郎ども(妹達)、車いすの女を電車にいれるぞ!かかれ!」
なんかよくわからないって顔をしながら、二人の妹は車いすの女を電車に運び込む。
車いすの女も混乱していた。
「あれ?あれ。ありがとう初穂ちゃん瑞穂ちゃん。ついでにあんたもありうがとう。どうしちゃったの?」
この女がちょっと嬉しそうなのがイラっとくる。
だがこの動きで俺は、しっかりと車いすの女を利用したのだ。
車いすの女を盾にして、瑞穂を妖怪おばばから遠ざけるという利用法でな。
ついでに、おれも妖バッグ鮫肌の脅威を車いすの女を使って避ける。
完璧だ。
己の作戦に酔っていたら、車いすの女が冷たい目で俺を見ていた。
「なんかに利用する気ね。何させる気よ。」
「まあ、大したことじゃないよ。」
そんなことを話しているうちに、乗り換えの人の動きでいったん遠ざかった妖怪おばばが、じりじり近づいてくる。
人の隙間をこじ開けるように少しずつ近づいてくる姿が怖すぎる。
おれはキッと車いすの女を見る。
『あれが妖怪おばばだ!瑞穂の敵だ。』
『ふー、瑞穂ちゃんのためならしょうがないか。わかった、盾に使いなさい。』
『3歩歩くまでは、この恩を忘れないぞ。』
『鳥か!会社まで車いすを押すのでチャラにしてあげる。』
『チッ、それで貸し借りは無しだからな。』
下の妹の初穂が俺のおでこをスマホで突いてきた。
「お兄ちゃん!玲奈さんをにらんで舌打ちしちゃダメでしょ、玲奈さんになに喧嘩売ってるの!」
すると車いすの女が間に入ってくれた。
「怒らないで初穂ちゃん、いまこいつが会社まで車いすを押してくれることになっただけだから。」
「え?いま二人で百面相している間に何が起きたの?。」
「取引よ。だから大丈夫なの。」
瑞穂が小さく「もう結婚しちゃいなよ」と言ったが、聞こえなかったことにしよう。
そんな話をしている間にも、妖怪おばばがじりじりとこっちに近づいてくる。
そして奴が通ったあとは惨劇しかなかった。
リーマンや若い女性が、ズボンやスカートを妖バッグ鮫肌にザラザラこすられ、必死に腰を逃がして阿鼻叫喚だ。
あれだな。
あれは新しい妖怪だ。
通勤電車に現れる、妖怪鮫肌バッグばばあ。
うわ、そのおっちゃん、ズボン破けたぞ!
やめてさしあげろ!
ばばあ!やめろ動くな!
ああああ、引っ張らておっちゃんのズボンがさらに引き裂かれていく。
なんという不条理。
なんという理不尽。
おれは、せめておっちゃんにハンカチを投げた。
負けるな!俺たちは日本の戦士だ。
だから泣くな。
そしてとうとう、妖怪おばばと妖バッグ鮫肌が目の前まで来る。
きゃああ、汗で化粧が崩れていてマジ怖い!!!
だが我らのワルキューレ、車いすの女が奇襲を仕掛けた。
「おかばんが周りに引っかかっていますよ。よろしければここを使ってください。」
そう言いながら、むりやり妖バッグ鮫肌を膝の上にのせてニコニコする。
妖怪おばばは、「あ、いえ。あの、ありがとうございます。」と言って動けなくなってしまった。
まさかバッグを預けて、車いすの後ろに居る瑞穂には近づけないよな。
車いすの女、こいつ、孫ビンか!
(孫ビン:孫ビン兵法の著者。兵法の名人。膝斬り(びん)の刑をされたので孫ビンと呼ばれているという説がある)
あなどれないな。
乗り換えのときに笑顔でカバンを返して「それでは良い一日を」とか爽やかに言っていた。
誰だお前!
勝負の申し子が、柄にもなく爽やかな顔するな。
背筋が寒くなったわ。
瑞穂はなんども車いすの女に礼を言う。
ちっ、お陰で瑞穂が守れたなら、俺の屈辱なぞやすいものだ。
約束は守ってやるさ。
俺は駅の階段を抱えて降りてやり、電車の乗り降りもサポートしてやり、会社まで押してやった。
すると、さわやかな笑顔で手を振りながら「ありがとう」って言いながらビルに入っていきやがった。
まあ良い。これで借りは返した。
あすはギタンギタンにしてやる。
妖怪ばばあ豆知識。本名は花園小百合。