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二件目 勇者が使えなくなる世界の場合

調子づいて書いちゃいました。

まあ、これ以降は多分、毎日連続しての投稿はないんじゃないかな~と思います。



 今日は珍しく予約がない日。俺は社長室でくつろいでいた。こんな日、滅多にないからな。帰るわけにはいかないけど、ここは堪能しないと。


「お客様が来たわよ」


 アルダミュスがそう言いながら部屋に入ってくる。


「ノックぐらいしろよ」


「いいじゃない。それとも何?困ることでもあるの?」


「いや、特にないけど・・・」


「じゃあ、いいじゃない」


「礼儀の問題だろ・・・」


 やりたい放題だな。まあ、出会った時からこんなもんだったけど。


「それで?どんな要件なんだ?」


「最初は相談に乗って欲しいそうよ。もしも私たちによる解決が必要なら追加で十万円払うって」


「そうか。それならいい。さっさと行ってきますか」


 そして俺は一階へと降りる。


「それで?その相談者はどこだ?」


「奥の控室で待ってもらっているわ。呼びましょうか?」


「いや、ちょうどいい。そこで話を聞くわ」


「了解」


 そこからは俺一人だ。部屋にも勿論一人で入る。


「誰ですか?」


 そこには結構暗めの青年とそれに寄り添うようにして座る少女がいた。


「俺があなたの相談に乗る梶田です。よろしく」


「あなたが・・・。私はエンビネスと言います。こっちの娘はニーナ。私のパートナーです」


「意思のある武器ですか・・・」


「初見で見破られたのは初めてです」


 驚いた様子のエンビネス。ニーナは俺を見てビクビクしている。


「それでは早速お話を伺います。今日はどういったご相談で?」


「はい。私、フォールムという世界で勇者をしている者なのですが・・・」


 へぇ。まだ俺が行ったことのない世界だな。それに勇者か。自前の勇者がいるなら俺も必要ないだろうし、世界を救って欲しいなんて勇者がこんなところに言いに来るわけがない。一体どんな相談なんだろうか?


「実は最近、出番がなくて・・・」


「はい?」


 出番?


「最初の頃は普通に戦いに私が必要になっていたのです。しかし、戦いの終盤になると私は全く役に立たなくなって来て、最終的に魔王討伐も一般兵に持って行かれました・・・」


「エンビネス・・・」


 ニーナが心配そうにエンビネスを見つめる。


「大丈夫だよ、ニーナ」


 いや、全然大丈夫そうにないんですが・・・。思いっきり虚ろな目になってるんですけど。ねぇ。どこを見ているの?そこには何もないよ?うわっ。急に笑い出した。


「そ、それでどういった悩みを解消して欲しいのですか?」


「・・・はい。何故私が役に立たなくなっていったのかが知りたいのです。どうすれば知ることが出来るでしょうか?」


「う~ん。そうですね・・・」


 俺の過去視では本人とその周りの過去しか視えないし、時間遡行も出来るだけ使いたくないしな~。


「誰かあなたの世界に事情を知っていそうな人はいませんか?」


「いえ、いないです。唯一知っていたかもしれない私の師匠も一年前に他界してしまい・・・」


「そうですか・・・。不躾なことを聞きました。すみません」


「いえ、気にしないでください」


 それにしても暗い。これで勇者だって言われても絶対に嘘だって思うだろう。なんか瞳孔が開いちゃってる気がするんだけど、気のせいだよね?この人、死んじゃってないよね?ここ、ゾンビとかそういう系の人は入れないからね。流石に死んだ人の相談まで聞いてたら切りないし。そういう死人の相談とかは神様たちがやっている部署があるからそっちに行ってよ?


「ですが、お亡くなりになっている人でも、知っている人がいるのなら良かったです。これなら早く解決出来そうだ」


「ど、どういうことでしょうか?」


「簡単なことですよ。ここにあなたの師匠の魂を呼び出します」


「そ、そんなことが出来るんですか⁉」


「はい。この程度なら簡単ですよ。流石にお教えすることなどは出来ませんが・・・」


 こういうことが出来るって言ったら絶対教えてくれとか言ってくるからな。先手として先に教えれないということを言っておく。


「そ、そうですね。こういうのは秘術ですからね。そう簡単に人に教えることなんて出来ないですよね」


 なんか勝手に解釈してくれた。これはありがたい。どうやらフォールムでは魂呼びの術は秘術の類になるようだ。


「はい。それで何かあなたの師匠の形見などは持ち合わせていませんか?身につけていた物とかなら尚のこといいんですけど」


「それならこれを」


 ニーナが恐る恐ると言った感じでそう言って何かを渡して来た。


「手鏡・・・ですか」


「はい。師匠から初めてニーナを受けとった時に一緒に渡されたものです。それより前は師匠自身が使っていたそうです」


 ニーナも同意するようにコクコクと頷いている。


「なるほど・・・」


「これで大丈夫ですか?」


「ふむ」


 手鏡を物色する俺。どこの鑑定士だと高志にツッコミを入れられそうだが、不在のためそういうことにはならない。ちなみに高志っていうのはこの相談所で働いている地球人パート2である。パート1が加原ね。今は出張に出てもらっているのでここにはいないのだ。


「大丈夫でしょう。呼ぶことは可能ですよ」


「そうですか!」


 嬉しそうにするエンビネス。師匠に会えるのが嬉しいのだろう。嬉しそうに笑っている。でも、不気味なのは変わらないのね。笑い方も「いーひっひっひっひ」って笑ってる。勇者の笑い方じゃないよ。もしかしてこの人の性質上、勇者として使いたくなくなったからとかじゃないのか?ありそうで困る。


「それじゃあ、早速呼びます」


「はい」


 コクコク


 エンビネスとニーナが同意する。


 そして俺は手鏡に魔力と神力、それに邪力を込める。邪力は死者のいる場所とここを繋ぐ門を開けるためのもので、神力はそれを開けたまま維持するためと呼んだ魂をここに留めるために必要となる。魔力は魂を捕まえるために必要となる。そして俺はそれを行っていく。


 まずはゲートを邪力で開ける。開けた瞬間にものすごい邪気がこちらの世界へ流れ込んでくる。それの阻止とゲートの維持に神力を使い、空いたゲートに魔力で作った大きな手を突っ込む。この魔力には手鏡に残っていたエンビネスの師匠の魔力とエンビネスとニーナの魔力が残っていた。それをヒントに師匠を探す。


「・・・見つけた!」


「本当ですか⁉」


 悪いがあんまり余裕がないのでエンビネスは無視させてもらう。この使者のいる場所、隙さえあれば引きずり込もうとしてくるからな。油断が出来ないんだ。俺は引きずり込まれても平気なんだけど、エンビネスとニーナはそうはいかない。引きずり込まれたら永遠に帰ってこないだろう。


「・・・。・・・。・・・。・・・!」


 なんかゲームの釣りみたいな感じになっているが俺は至って真剣。そしてついに捕まえることに成功する。


「よし!後は釣り上げるだけだ!」


 魔力で出来た手を思いっきり引く。すると


『ぷはぁっ』


 ゲートから半透明な大人の女性が出てきた。なかなかのナイスバディである。服装は何故か魔女っぽいけど。この人が勇者の師匠?


「この人があなたの師匠で間違いないですか?」


 引き上げた魂に少しの間茫然となっていたエンビネス。だが、我に返って魂を確認する。


『なんだなんだ?どこだここは』


「だ、誰?」


 え?違った?


『おっ!そこにいるのはエンビーとニーナじゃないか。久しぶりだな~』


「こちら側は知っている風ですけど」


「わ、私の師匠はもっと年寄りの魔女みたいなおばあさんでした」


『失礼だね!これは私が一番イケイケだった頃の姿だよ!』


「そ、そうなんですか?」


 俺に助けを求めるように聞いてくるエンビネス。


「ああ。死後の魂は一番その人が活性化している時に固定されるからな」


『それより、私にも説明して欲しいんだが?』


 おおっと。そうだった。


「ここはアトミナス相談所。あなたのお弟子さんはここにある悩みを相談しに来たんですよ」


『悩み?相談?』


「はい。その悩みがもしかしたらあなたにならどうにか出来るかもしれないと思い、ここに呼ばせていただきました」


『なるほどね。まさかこんな高次元なやり方で連れて来られるなんて何事だと思ったけど、そう言う訳かい』


「高次元?」


 ニーナが不思議そうな顔で聞いてくる。


『ああ。ある一定以上の実力がないとこんなマネは出来ないからね。こんなことが出来るのは私が知っている中でも亜神以上の存在だけさ』


 へぇ。フォールムには亜神が存在するのか。


「まあ、これでも師匠がすごい人たちですからね」


『気になるが、聞くのはやめておけと私の本能が告げているので聞きはしない。それより本題に入ろうじゃないか』


「ええ。そうですね。彼の悩みは段々弱くなっているのだが、何故そうなっているのかが分からないということです」


 まあ、エンビネスから聞いたことと若干違うけど、間違ってはいない。こっちの方が分かりやすいしな。


『そうか・・・。ついに気づいたか。お前も、世界も』


 世界?なんか急に話が大きくなったな・・・。


「ど、どういうことなんですか⁉」


『お前の力は単純明快なもので、敵が多ければ多い程力を増すというものだ』


 ブースト系の力なのね。


「それは分かっています。それが何故、戦うたびに弱まっていくのですか⁉戦っている相手は毎回、軍を相手にしているのに!」


 分かってのかい!


『お前は勘違いをしている。お前の力は戦っている相手の多さではない。敵の全体総量(・・・・・・)で決まるのだ』


「えっ?」


 なるほど。そういうことか。


『そして魔王はお前と似た力を持っている。自分の味方が多い程力を増すといったものだ』


「つまり、私が役に立たなくなったのは当たり前のことで、そして魔王が一般兵にやられたのも当たり前のことということですか⁉」


『ああ』


「何故、そんな力を私に与えたのですか⁉」


 え?与えたのってこの魔女なの?


『私の持っていたお前に譲渡可能な力はこれしかなかったんだよ。何故か一対多は出来るのに一対一や多対一が出来ないお前にはな』


 そりゃ国も辟易するわ。集団戦が出来ないやつなんていらないもん。むしろ邪魔なだけだし。最初の頃はまだ強かったから良かったけど、今じゃ一般兵に魔王討伐を横取りされるほどに弱くなってんだろ?何度も言うけど、それじゃあ邪魔なだけだよ。


「そ、そんな・・・」


「はい。それじゃ悩みの根源も分かったので。ありがとうございました。元の場所へお帰り下さい」


『ちょ、ちょっと待った!戻りたくないんだ!私と契約してくれないか⁉』


 使者の魂と契約。これはたまに行われる儀式の一つである。生者では出来ないことを死者にやってもらう。そんなことを目的とした儀式である。


「結構です。間に合っていますので。悪霊になる前にお帰り下さい」


『ちょ!まっ』


 強引にゲートに突っ込む。このゲートや魂を維持するのも結構大変なんだからいらない駄々をこねないで欲しいものだ。


 自分の師匠が死者のいる場所に帰ったというのに何も反応のないエンビネス。


「どうしました?」


「・・・・私のやって来た事とは一体・・・」


 まあ、能力的に最初しか役に立たない勇者だったんだろうが、ここから先は俺の入り込むべき問題ではない。


「最初にお伺いしていたお悩みの内容が無事、解消されたと判断されましたので、あなたの元居た場所に送還させていただきます。料金をお支払いして頂けますか?」


「待て!頼みたいことがある!」


「・・・一応聞いておきましょうか」


「私の世界の連中を見返してやりたいのだ!手助けしてくれないか⁉」


「・・・ふむ。では、世界の危機になるかもしれないアドバイスになるので特別料金になりますが、それでもよろしいですか?」


 特別料金。それは、相談者の世界のものがその相談者の相談、もしくは解決してもらいたいことによって危機に陥るなどと言った状況になる場合に発生する料金価格である。


「構わない。教えてくれ」


「本当に構わないのですか?あなたの一番大切な物を失うことになりますよ?」


「構わない!」


「分かりました。見返すにはどうしたらいいか。それは・・・」


「それは?」


「あなたが世界の敵になればいいのです」


「私が・・・世界の敵?」


「ええ。まさに魔王の所業ですね」


「ど、どうしてそんなことを」


「あなたの能力はなんですか?」


「敵の総量によって力を増す・・・」


「ならば、世界で一番数が多いのは?」


「人間・・・」


「そういうことです」


「そ、そんなことは出来ない!見返すことが出来ればそれでいいのだ!そんなことは望んではいない!」


「ですが、それが一番手っ取り早いのです。むしろ、それくらいしかパッとは思い浮かびません。それにあなたは特別料金でもいいよおっしゃいました。それはそのレベルの話になってくるのですよ」


「て、撤回だ!撤回を要求する!」


「ここでは一度言った言葉は撤回できないようになっております。それに念を押して聞きましたよね?いいのですか?と」


「このようなことになるとは思わなかったのだ!」


 慌てふためくエンビネス。マズいことになったと思っているのだろう。顔から汗が止まらない様子だ。震えだしてもいる。


「今回の相談も無事、解決と判断しました。あなたを送還します。特別料金としてこちらのニーナをいただきます」


「なっ⁉」


 過去視で視たけど、結構ひどい扱いをしていたみたいだからな。それでもエンビナスを心配していたニーナをほとんど無視。パートナーだと言うのならもっとニーナの意見を聞くべきだ。なのにそれをしない。それは普段していることが表に出て来ている証拠だ。


 突然、自分がお代として頂かれることになって驚いている様子のニーナ。


「大丈夫。彼にひどいことはしない。ただ帰ってもらうだけさ」


「で、でも」


「君にはあんなひどい扱いなんてしない新しいパートナーを紹介してあげるから」


「ど、どうして分かったの?」


「俺には過去を見る力があるからね」


「すごい・・・」


 心底驚いた様子のニーナ。


「だ、だが!ニーナと私は契約によって結ばれている!切り離すことなど出来ない!私が送還されればニーナも一緒に来るはずだ!」


「これ?これなら・・・・ほい!」


 そう言ってニーナとエンビネスの間にあった透明な線を手刀で斬る。


「なっ⁉何故、視える!何故、斬れない契約線が斬れるのだ⁉」


「てきとーにやったら出来た」


「そ、そんな・・・」


「それじゃあ、さようなら。あなたはブラックリストに載せておくのでもうここには来れないでしょうが、お気をつけてお帰り下さい」


 そして強制送還。エンビネス一人だけが消えたのだった。


「まったく。たまにこういう奴がいるから困るんだよ」


 やれやれだぜ。


「あ、あの・・・」


 ニーナが困った風に声をかけてくる。


「どうした?」


「わ、私はどうしたら・・・」


「君には紹介したい奴が帰ってくるまで神界にいてもらうよ。そこにいる神様たちに可愛がってもらいなさい」


「え?神様?」


「気にしない気にしない」


「え?え?」


 そして困惑するニーナを連れて控室から出たのであった。


 その後、ニーナは神様に大層可愛がられ、その後、俺の紹介で高志のパートナーになった。高志は俺の代わりに簡単な異世界の問題を解決して回ってくれている武闘派の従業員である。そんな戦いに身を置く高志だ。武器でもあるニーナを大切に扱ってくれることだろう。


 ちなみに、ニーナは曲刀であった。高志に聞かれて始めて聞いてないことに気が付いたよ。慌てて聞いたね。ニーナは全然気にしてないと言ってくれたけど、高志に頭を殴られた。まあ、これくらいは甘んじて受けよう。





読んでくれて感謝です。

感想・評価・ブックマークをしてくれると嬉しいです。

よろしくお願いします!

最初は面倒な勇者の話でしたね。

次はどんな相談者がやって来るんでしょうか。

作者も今のところは知りません。(←おい)


異世界冒険を描いた作者の作品

「コンプリートグラスパーの異世界冒険 ~探しモノを求めて世界漫遊~」

も絶賛連載中です。

よろしければそちらも読んでみてください!

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