一件目 女子高生の借金の場合 その2
二話目です!
それは俺が新しいクラスになって数週間が経ったある日のことだ。その日の授業も全て終わり、放課後。俺は帰りの準備をしていた。
「梶田君、ちょっといいかな?」
クラスメイトの加原朋美がそんな俺に声をかけてきた。見た目は黒髪ストレートで前髪をパッツンにしている大人しそうな雰囲気の女の子だ。他のクラスメイト達もまだいたので、「告白か⁉」と騒ぎ出したが、深刻そうな表情をする加原に俺は「いいよ。ここじゃなんだし、人気のない所に行こうか」と言って校舎裏に連れて行った。野次馬しようとするやつもいたので、こっそりと魔法を使って帰るようにした。
そして校舎裏にやって来た俺達は少しの間、無言だった。俺は特に加原に用があったわけではないので話すことなどない。なので、加原が話し出すのを待った。十分くらいが経った時、加原は意を決したのか、ついに話し出した。
「ごめんね。急に呼び出して」
まるで告白するときのようだ。
「俺に何か用なのか?」
「うん。梶田君なら口も堅そうだし、人生経験も私たちの中でもずば抜けていそうだから相談したいんだ」
おお!すごい洞察力。確かにそこら辺の人よりも濃い人生を歩んでいますよ。俺はね。
「相談ってなんだ?」
「うん。実は私、しゃ、借金があるの」
「それは友達にってことか?」
「ううん。本当の借金」
「つまりそういう所に借りたってことか」
「うん」
世の中見た目に寄らないな。おとなしそうな加原が借金なんて。
「あっ。私が借金したわけじゃないの」
「どういうことだ?」
「私の親が借金をしたの」
「そうか。それでなんで加原の借金ってことになるんだ?」
「両親がね、私に借金を押し付けて夜逃げしちゃったの」
「!」
「こんなこと友達に相談なんて出来ないし、大人に頼むお金もないの」
「それで人生経験豊富そうで口の堅そうな俺に白羽の矢が立ったってことか」
「うん。ごめんね、こんな相談して」
「構わないよ」
「ありがとう」
俺の言葉に泣きそうになりながらお礼を言う加原。
「それで、相談ってのは?」
「うん。どうやったら借金を返済できるかなって思って」
「おいおい。そこは両親を見つけるんじゃないのか?」
「でも、借金があることに変わりはないから。もしも、両親が見つかったとしても借金がある限り、私は借金から解放されることもないし」
「・・・そうか」
確かにな。それにそもそも自分を捨てた親にどんな顔で会いに行けばいいんだって話だ。
「どうすればいいと思うかな?私、一人じゃ何も出来なくて・・・」
「・・・・」
俺は考える。俺は異世界からの助けを報酬出さなきゃ助けないってことにして断っている。それなのにここで無料で助けてもいいものだろうか?
「どうしたの?」
「なあ、加原」
「何?」
「もし、俺が報酬を払えって言ったら払ってくれるか?」
「え?」
「勿論、解決したらだ」
「・・・・・うん。お金は無理だけど、何でもするよ」
その目は決意に満ちていた。
「そうか。分かった。それじゃあ決めた。加原。お前には報酬として俺の部下として働いてもらう」
「ふぇ?」
「俺は高校を卒業したら会社を起ち上げる。勿論、大学にも行くけどな」
「・・・」
「その時に、いや、今日以降に俺が受けた依頼をお前には手伝ってもらう。お前は俺の会社の社員になってもらう。いいか?」
「・・・・は、はい!」
茫然としていた加原が返事をする。まあ、恐らく俺がエロいことでも報酬にしようとしたと思ったのだろう。失礼なことだ。俺はそんなにゲスではない。
「さて、今日から俺の部下になった加原の頼みはしっかりと聞いてやらないとな。ちょっと待ってろ」
俺は目を瞑って魔法を使って過去視を行う。視るのは加原の両親が借金をしているところだ。原因を探らないと話にならない。ふむふむ。そういうことか。真っ当な借金なら真面目に返すしかないと思っていたけど、その必要もないみたいだな。よし。
「さて、今日はもう帰ろう。明日からは忙しくなるぞ」
「え?う、うん。梶田君ってすごいんだね」
「ん?何が?」
「だって、私のこんな話を聞いても動揺していないし、それにもう行動に移そうとしてる」
「大したことじゃねえよ」
「ふふっ。それでもすごいよ。なんだか、何とかなるような気がしてきた。ありがとう!梶田君。また明日!」
「ああ。また明日な」
そして俺は加原と別れ、教室に置いてある荷物を取って家へと帰宅した。
家に帰った俺は自分の部屋に行き、ベッドに寝ころんだ。まさかこんなことになるなんてな。・・・・さてと。そして俺は過去視で見た映像を思い出した。
・・・
そこは加原の家なのだろう。加原と両親がいた。結構古そうな家だ。そこで仲がよさそうに話していた。そこに家のチャイムが鳴る。来客のようだ。
「はいはい。今出ます」
母親が玄関に行き、戸を開けるとそこには強面の黒服たちがいた。
「奥さん。お金を返してもらいにきたぜ」
「な、何のことでしょう?」
「とぼけんなや。二十年前にあんたとそこの旦那に貸した借金のことだよ!」
「そ、そのようなこと、知りません!」
「こっちには証拠があるんだよ」
そう言って借用書を見せる。
「なんでそれが⁉」
その借用書を見て驚く母親。
「これで分かっただろう?」
「で、でも!あの時の借金はしっかりと返したはずです!」
「俺達もしっかりと返してもらったと思ったよ。でも、数えてみるとほんの少しだけ。五十万ほど足りなかったんだよ」
「そ、そんな・・・」
「そしてそれから二十年の利子等を換算して借金二億。きっかり払ってもらおうか?奥さん」
「に、二億?」
「おかーさん?」
家の奥から加原の声が聞こえる。
「・・・・少し時間をください」
「ふん!いいだろう。一週間後にまた来る。それまでに金を用意しておきな」
そして黒服たちは帰っていった。
「お母さん?どうかしたの?誰が来たの?」
「・・・・・」
「お母さん?」
「・・・・・何でもないの。ちょっと昔お世話になった人が挨拶に来ただけ。さあ、自分の部屋に戻りなさい。お母さんはお父さんとお話があるから」
「う、うん」
思い詰めた表情の母親は加原を部屋に戻し、リビングで父親と話をし出した。
「二十年前のあの人たちが来たわ」
「・・・・・そうか」
「借金、二億ですって・・・」
「・・・・」
「あなた、どうしましょう!」
泣きそうにある母親。
「もう二億も払える当てなどない」
絞り出すように言う父親。
「何とかならないの⁉」
「ひ、一つだけ方法がある」
「なに!何なの!それは!教えて!」
藁にも縋る気持ちで父親に聞く母親。
「明美に全てを任せる」
「⁉」
「もうこの方法しかない。明美にはまだ将来性がある。俺達よりも返せる可能性はある」
「そ、それまで私たちはどうするの?一緒に払い続けるの?またあの大変な生活をしなくちゃいけないの⁉」
髪を振り乱しながら叫ぶ母親。
「落ち着きなさい。俺達は一旦身を隠そう。ほとぼりが冷めるまで。明美が借金を返済で来た時にまた戻って来よう」
「で、でも、明美を置いて行くなんて」
「明美ならいずれ分かってくれるさ。それよりも、俺達が危ない。命の危険さえあるだろう」
「い、命?」
「ああ。だから逃げる準備をしよう。奴らがやってくるのは一週間後なんだろう?その前日に逃げよう」
「わ、分かったわ」
そして一週間後。加原の両親は夜逃げをし、加原はそうとも知らず普通に学校に行き、家に帰るとあの黒服が待っていた。そして親が借金を自分に押し付けて逃げたことを知り、現在に至る。
・・・
「はあ。まったくもって胸糞が悪い」
過去視で見たが、二十年前に足りなかったという五十万はしっかりと返していた。それを嘘をついて借金を偽装したのだ。だが、そうであっても、親が子に借金を擦り付けたのだ。俺はその行為自体が許すことが出来ない。
この借金取りたちを潰すことに変更はないが、この両親についても許せることではない。加原は部下として俺が貰っていくことにする。
加原は現在、家も差し押さえられており、公園にいるようだ。遠視で確認した。まったく。女の子がそんなところにいるのはダメだろう。これは急いで会社を作らなくちゃいけないようだな。この子が住めることろを作るためにも。
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